表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/91

第24話 身体強化


 俺が魔法を組み合わせた新たな武術を考えるうえで必要なのは一にも二にも《身体強化》魔法だ。






 この《身体強化》は最初から魔法のメニューにあったものをそのまま使っているだけだ。だからこの魔法を改めて理解する必要があるだろう。それに、この世界の人々の《身体強化》魔法とは違うかもしれないのだから、その検証から始めるのがよさそうだ。






「リン。他の魔法の実演についてはひとまず後回しにしよう。それよりもまずリンの《身体強化》魔法について教えて欲しい。」






 俺の提案にリンは小首をかしげてキョトンとした顔をしている。






「《身体強化》魔法? そんな魔法は聞いたこと無いけど……?」




「え……?リンがいつも使っているじゃないか。」




「え?……使っていないけど……?」






 リンの顔を察するに本気で?が浮かびまくっている顔だ。


 出だしから躓いてしまった。俺とリンで何か理解に齟齬があるようだ。しばらく思案して思い当たる。




 この世界の住人だけでなくあらゆる生物が、俺がアニマシールドを操作して発動した《身体強化》と似た光を放っていることは《彗心眼》で視て分かっている。




 あまねく生物がそれを使えているという事は、彼らは自分が《身体強化》を使っている自覚がないのではないだろうか?


 例えるなら、自分自身の心臓が動いているのを普段意識していないのと同じだ。












 確認のためにリンに普段の戦闘訓練と同じメニューの動きをしてもらう様お願いする。それに了承して早速動き始めるリン。








 それを見て俺は唖然とする。これは想像以上だ。ありえない動きをしている。


 グリズリーを一撃で仕留めた時の動きからリンが超人的な動きが可能なのは理解していたが……。






 リンの速さは前世の地球で人類最速と言われたボルトを優に超越し、もはや目でやっと追えるかどうかのスピード。時速150キロくらいには達しているのではないだろうか?さらに軽くジャンプすればその高さは5mを越え、跳躍幅は10mは超えていそうだ。






 おっと。唖然としている場合ではない。俺は慌てて《彗心眼》を発動して、リンの動きを、《霊子結晶アニマ》の動きをつぶさに観測する。




 リンが動く度にリンの体の内部がうっすらと輝きを放っている。リンの《体内魔力》が反応している輝きだ。そしてその反応パターンと色は俺の《身体強化》魔法とそっくりだ。








 この結果からも、この動きを実現たらしめているのは十中八九|《身体強化》のおかげだろうと思われる。


 だが、リンがそんなものは使っていないと言う以上、さらなる検証が必要だろう。






 前世の知識から、リンの動きを分析してみよう。






 まずは、あの異常な速さだ。ニュートンの運動方程式で考えてみる。




 運動エネルギーEはその物体の質量(重さ)mとその速度vとしたときにE=1/2mv^2(二乗)として表される。


 何も難しい計算をするつもりはなくて、ここで重要なのは、速度が倍になればそのエネルギーはその二乗倍、つまり4倍になるという事だ。


 ボルトの速度が時速40キロメートルあたりだったと思うけど、リンは明らかにその2倍以上、下手したら4倍近いスピードを出している。つまり運動エネルギーはその4倍~16倍必要なはずだ。さらに人間は手足を素早く振って走る必要があるし、重力に逆らって常に力を発生させる必要がある。それらを考えるとその必要エネルギーは4倍どころではないだろう。




 さらに言うなら、空気抵抗はこれも速度の二乗に比例して増えていくのだから、空気を切り裂いて走るスピードが速ければ早い程にエネルギーが必要だ。




 にも拘らず、リンは明らかに筋力が無さすぎる様に見える。








 極めつけはジャンプの高さだ。5mって2階の窓から飛び降りたくらいの高さなのだが、普通にそんな事出来るか?って話。


 ちなみに5mから落下するときの地面到着時のスピードは時速約36キロに達する。時速36キロで壁にぶつかるようなものだ。


 もしそんなことを俺がやったら確実に骨が折れる。






「リン。もういいよ!ありがとう。」




「え?もういいの?ようやく体が温まってきたところなんだけど……。」






 あれだけ超人的な動きをしておきながらまだウオーミングアップだとのたまうリン。どれだけの力を秘めているのか……。




 そんなリン超人に近寄って俺は一言断りを入れる。






「ちょっと検証に付き合ってほしいんだけど、いいかな?」






 俺はリンが首是するのを確認して、その手を取る。その手を腕や肩をよく観察していく。


 特に硬かったりする訳でも無く俺と同じ様に押せば凹むし弾力が有る。むしろ柔らかいくらいだ、それでいてひ弱な俺と同じくらい細い。






 やっぱり普通の人間と何も変わらない様に思える。筋肉の構造も骨の構造も人間と同じだ。その素材も手触りや弾力から、タンパク質で構成されていると思われる。




 実際、俺は魔物の肉を普通に食べて問題なく生きているのだから、この世界の生物の肉体もタンパク質を主成分としているのだろう。










 ……いや、まだ分からない。もう少し入念に調べなければと、俺は真剣な表情で足や体と色々とくまなく隅々まで触診を続けていく。




 俺の触診に真っ赤な顔でプルプルと震えていたリンだが、俺の触診が太ももに達したところで「どこ触ってるの!」と言って旋風を纏った強烈なビンタが飛んできた。






 ―――べへれぶはぁ!








 俺はボウリング玉の様に10メートルは転がり、砂煙を上げてようやく止まった。




 意識が飛びそうになるのをギリギリのところで踏みとどまり、なんとか死の淵から生還を果たす。






 ……今のはヤバかった。首の骨が折れたかと思った。






 リンはそっぽを向いて腕を組みながらプンプンしていた。




「ごめんごめん。つい夢中になって。」と俺は体を引きずりながらリンの元に歩み寄り慌てて謝罪を告げるのだった。






 しかし、まいった。リンがこの様子では調査続行は難しいなと、俺は鼻血を垂らしながら思案する。


 その時ふとリンの肩の上にいるチクチクと目が合った。ジト目をしているように見えたのはきっと気のせいだろう。












 ……と、悪ふざけはここら辺にしておいて、真面目に考える事にする。




 ここまでの触診でリンの体が異常に硬かったり、筋肉が異常に発達していたりということが無いことが確認できた。


 それに食事も俺と同じものをとっていたリンが、あの超人的な動きのエネルギーを賄えるはずもない。食事でとったエネルギーとは別のエネルギーであの動きを実現しているのは確実だ。






 やはりリンは《身体強化》魔法を発動している。しかも無意識に。








 そして、リンが無意識に発動している《身体強化》のオリジン反応のパターンは俺の《身体強化》とほぼ同じだったことがわかった。




 ただ、リンは《身体強化》を全身にくまなく発動しているのではなく、動きに合わせて必要な個所に必要な分だけを発動していたのだ。


 これは今現在俺が習得できていない身体強化の合理的な発動方法だ。それには途轍もなく高度な魔力操作が必要なはずだ。


 この点はリンから学ぶことが多いだろう。








 そしてもう一つ。


 リンが《身体強化》を発動するとき、魔力門を開いていないのだ。






 四大元素魔法の大前提は魔力門を開き、魔力を体内に発生させることだ。




 それをせずに発動しているという事は、たぶん体内に存在するわずかな残存魔力、もしくは体内で無意識に生成されるわずかな生成魔力を使っているのだろう。《彗心眼》で視た光りも淡いものだったことから、そう考えるのが妥当そうだ。








 だが、そうなると問題はやはり俺の《体内魔力》が完全に“ゼロ”だという事だ。俺の体内には残存魔力など一欠けらも存在しない。






 もちろん、俺はプレシールドを操作して体表面から一センチ程度の肉体に対して《身体強化》を発動することができる。


 だが、毎日この操作の訓練をしているが、未だに体内に沈み込む量は一センチ程度でそれ以上は縮小できていない。




 何かそこにリミットがかかっているようで、プレシールドを操作して《身体強化》を発動する方法はこれ以上強化できそうにないという直感があった。






 だから、全身で《身体強化》を発動できるリンにはもちろん、この世界のほとんどの生物に《身体強化》で勝つことはできないだろう。


 この事実は、異世界で新しい武術を創ろうと考える俺には致命的な欠点に思える。




 他の誰よりも遅いし力も弱い武術など、必ずどこかで頭打ちになる。










 ……やっぱり、《身体強化フィジカルエンハンス》とは別の身体強化手段が必要だ。










 考える。


 他に何か有効な手段は無いか?








 ……ある。と言うか、本当は最初から気づいていた。


 《身体強化フィジカルエンハンス》をさらに強化しうるものがあるだろうことを。






 だが、俺はその記憶を無意識に封印してきた。出来るだけ思い出さないようにしてきた。凛香が死んでしまったという事実を受け入れたくなくて。








 俺は前世で命を落としてから、無限とも思える夢の世界を漂い続けてきた。その夢の中では時々凛香に会うことも出来た。




 そして夢の中で凛香に会うたびに、本当はまだ凛香は生きているんじゃないか?俺の眼の前に居る凛香は現実に生きているんじゃないか?いや、生きているに違いない。そう思う様になっていた。








 俺は今、第二の人生を与えられて現実世界を生きている。


 しかし、この現実世界に凛香はいない。








 あの時、魔人化した宵門雄我に俺が襲われた時、凛香は俺を庇って命を落としたのだ。


 そして、凛香の命が尽きるその時、文字通り命を燃やし尽くして凛香は無幻水心流の最終奥義を放った。そして雄我の首をねじり切ったのだ。




 あの時、凛香が見せた技に俺の求めるヒントがある。そんな気がする。


 あの時の事を鮮明に思い出し、完全に再現することができれば……。だが、一度封印し忘れた記憶だ。そしてその時のアニマの反応がどうなっていたのかまで鮮明に思い出さなければならない。



 その為にやることは一つ。

 いい加減覚悟を決めろ。



 ―――パン!



 俺は両手で頬をたたいて自身に気合を入れ直し切り出す。



「リン。とても大事なお願いがあるんだ。」


 その様子と俺の真剣な顔を見てリンも真剣なまなざしで返してくれる。


「俺と真剣で勝負してくれ。」





漫画や小説に出てくる超人たちのエネルギーは一体どこからやってくるのだろうか?と常々思っていました。

ものによっては“気”という表現をしていたりしますが、じゃあ“気”ってなんだよ?と。

エネルギーの保存則は絶対なのだから、きっとそこに何かがあるはずですよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ