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第21話 四大元素魔法


 四大元素魔法は教会によって手順化、標準化されて広くこの世界に広まっている。その発動手順は次の様な物らしい。






 1、魔力門を開く




 2、魔力門をどれくらい開くのか(込める魔力量)決める




 3、どんな魔法を発動するかを決める




 4、何処から発露するかを決める




 5、魔法を発生させる座標もしくは対象を決める




 6、魔法を遠距離に飛ばす場合はその射出スピードを決める




 7、トリガーワードによって発動






 大まかに全7工程だ。




 こう書くとイメージした通り簡単に魔法発動ができるように思えるが、そんな簡単な物ではないらしい。






 まず魔法の発動はイメージだけでなく、本当にそれが起こっているかの様に感情も併せて乗せないと上手く発動しないらしい。






 しかも、魔力門を開けるイメージや感じ方は人によって違うし、魔法の結果とイメージは必ずしも一致しないという。


 例えばリンがさっき実演した火を灯す魔法でさえ、その発動イメージは火をイメージするのでは無く、全く関係のない“野原でブランコに揺れるイメージと感覚”を再現するのだとか。




 その為に実際に同じシチュエーションでブランコに揺られる訓練をするのだ。






 となるとどうやって狙い通りの魔法を作り出すのか?と聞いたら、なんと先人の偶然と犠牲の産物だと言う。




 しかもだ、扱う魔力量が多いほど失敗した時のリスクは大きくなり、中級魔法以上は下手したら魔力暴走で死に至ると言う。




 リン曰く、「何万、何十万、何百万と言う先人の失敗と尊い命の犠牲の上に造られたものが現在の四大元素魔法なの。」との事だ。




 だから、上級魔法は奇跡の産物でありその発動イメージは教会の秘匿項目となっていて、みだりに流布した者は厳罰に処されるとか。




 そりゃそうだ、素人が誰の指導もなく文面だけで下手にそのイメージを再現しようとしたら確実に失敗するだろう。失敗すれば死が待っているのだから厳重に管理されるのも頷ける。






 そんな教会の秘匿項目を教える事は良いのかと聞いたら、上級魔法以上の操者は立ち会いを条件に才能ある者への教育が許されているそうだ。










 次に詠唱だが、これは四大元素魔法では必須とされている。


 先に述べた様に、魔法発動のイメージと感覚は失敗のリスクを低減する為に常に一定でなければならない。






 人間の思考イメージとは意外と曖昧なものである。実際にそれを絵にして見れば分かるが、単純なリンゴのイメージでさえ、色合いや光の当たり方、それが木になっているのかテーブルの上に置いてあるのか、テーブルの色は何色か、詳細をイメージしているつもりでも意外に描けないものである。






 だから魔法発動の訓練は詠唱をしながら実際に体験したり、絵を描いたりしてイメージと感覚、感情の動きを詠唱に合わせてルーティーン化して定着化させるのだ。




 そこまでやって初めて実際の発動訓練に移行できるのだ。








 魔法とは、俺が思っていたよりも遥かに繊細で危険を伴うものであるのだ。






 だから魔法使い(マジックキャスター)は戦闘中殆ど動けないし魔法を途中で中断することも出来ない。それゆえに戦闘では前衛に守られながら遠距離から攻撃するのが常だ。


 ちなみに、魔法剣士と言う存在は基本居ないらしい。戦闘行為をしながら詠唱と明確なイメージを行い魔法発動するなど通常できない、できても失敗のリスクがあり実用的でないという理由らしい。


 リンはできないのかと聞いたら、初級程度であればリスクも少ないので出来るらしいが。さすがAAランク相当の実力者と言ったところか。












 ここまで聞いて俺は気づいた。




 通常の手法で魔法を習得するには確かに時間がかかるだろう。


 何故なら魔法を発動するまで自分のイメージが正しいか分からないのだから、何処が悪いのかも分からないまま、何度もトライアンドエラーを繰り返さなければならない。しかもリスクを冒しながら。そりゃ、高位の魔法使いの指導が必要になるのも頷ける。




 だが、俺の場合はどうだろうか?




 俺は《彗心眼》で《魔力》そのものが視える。




 視えるならリンの魔力の動かし方やアニマと魔力の反応の仕方を見て真似ればいい。アーチャーフロッグのウォータージェットから《水滴ウォーター》の魔法をコピーしたように。






 《体内魔力》を使わないから威力は望めないが、だが魔力暴走のリスクが無い。これは途轍も無いアドバンテージだろう。








 リンの話を聞いて、ひとまず自己流で再現できないかを試すために少し時間をもらう。




 リンは「いいわよ。好きなだけ頑張ってみて。」と、まるで子供の遊びを微笑ましく見守る母親の様な目でそう言った。


 出来るわけがない。魔法の憧れで子供が良く陥る魔法ごっこか中二病だとでも思われている気がする。






 俺はそれに構わず、魂魄同調アニマレゾナンスを深く発動して、先ほどのリンの《彗心眼》で視た《点火イグナイト》のその魔法発動パターンを再現する。


 何度も何度も繰り返しているうちに、体表の虹色の《魔力》がふっと透明に変わった。つまりこれは何かしらの反応が起こっている証拠。ただ俺の体表の《魔力》では発動に至っていないだけだ。






 さらにそれを何度も再現し、その後《火花(スパーク)》と同じ要領で体表の魔力を指先に集めて同じ様に再現してやる。






「む…。上手く行かないな。」






 体表の魔力を指先に集めた俺の《魔力》が一瞬透明になって確かに発動しているのだが、それでも火がつかない。


 ……これは、更に魔力が必要だという事だろうか?




 そんな思考錯誤をしているとリンが声をかけてきた。






「リュージ。もういいかしら。見ただけで魔法が発動できたら苦労は無いわ。魔法を習得するには長い時間とイメージトレーニングが大事なの。それに、それ以前の問題として―」




「お!?」






 リンが魔法の習得方法について話し始めたところで、“ピコン!”と音が聞こえて驚き思わず声を上げてしまった。慌てて魔法メニューを開く。




 ―――――


《火》


 ・点火イグナイト new!


 ―――――




 何と、メニューに点火イグナイトが追加されていたのだ。




 俺はすぐにそれをタップするが、先ほど俺が体表の魔力で発動したのと同じ現象が起こっただけだった。つまり俺が何度か発動した魔法をこのメガネが学習し自動化してくれたという事なのだろう。


 さすがばあちゃんだ。素晴らしいシステムだ!




 だが、このメニュー追加の真骨頂はここからだ。






 俺はこの《点火イグナイト》の文字を左手の“鬼憤の籠手”にセットする。






「リュージ?どうしたの?」






 何か突然驚いたあと、突然空中を眺めて何やら手を動かしている俺の奇行に訝し気な表情を見せるリン。だが今の俺はそんな事気にならない。むしろリンに見せつける様に顔を上げてリンを見て左手の人差指を立ててみせる。






「まぁ、見ててよ。」






 そしてチャージ完了の文字を確認した俺は《点火イグナイト》の魔法を開放する。




 ―――ボッ!




 直後、俺の指先からロウソク程度の火が灯ったのだ。僅か数秒間ではあったが、俺はリンの魔法を再現することに成功したのだ。






「そんな!?……詠唱もなしに?ありえない。」






 リンはこれでもかと言うほど目を大きく見開き口を開けて驚いていた。


 先ほど聞いた魔法発動のプロセスを考えると、この短時間で、しかも詠唱なしでの発動が相当に異常な事なのだろう。




「どう?」




 俺が得意げにドヤ顔をしていると、リンはハッと我に帰り血相を変えた様に顔を近づけて俺の腕を取った。




「リョージ。あなたコレを他の誰かに見せたことはある?」




 リンの真剣な表情に思わずたじろぐ。




「い、イヤ。コレを見せたのはリンが初めてだが……。」




「はぁ。よかった。いい?リュージ。その無詠唱魔法は人前で発動しちゃダメよ!ましてさっきみたいに人前で見ただけで魔法を発動してみせたら大変なことになる。絶対にダメ。」




「……え、そうなの?……因みに人前でやったらどうなっちゃう訳?」




「確実に教会に連行されるわ。断れば、異端者審問委員が派遣され異端者認定を受ける。そうなれば良くて死ぬまで軟禁、最悪は色々と実験と称した尋問を受けて死ぬ事になる。」




「……マジか…。」




「ええ。マヂよ。マジの意味は分からないけど、確かよ。」




 リンの説明にゾッとする。ギルドで魔法発動しなかった俺、グッジョブ。






「いい?リュージ。まず、前提が抜けているみたいだから改めて説明するわ。


 この世界では魔法の詠唱は必要なものよ。絶対にね。それ以外の魔法があるとすれば、それは異端魔法か、教会から認められた根源魔法使い(ルートソーサラー)だと認識されるわ。根源魔法使い(ルートソーサラー)は生まれながらにその術師が無意識で魔法を身につけているもの。それはつまり四元素魔法とは違った魔法であると言うことよ。


 四大元素魔法以外の魔法を作り出し体系化したい教会からしてみれば喉から手が出るほど欲しい人材だと言うのはわかる?」




「確かに。だから連れ去られると。」




「ええ。そうよ。実際、回復魔法術師はその能力が発覚した時点で教会の保護下に置かれる。教会はそうやって回復魔法を独占しているわ。そして実際にそれが出来るほどの力を持っているの。


 そうして連れ去れれば、その術師がどうやって、どんなイメージで、どういう感覚で魔法を発動しているのかをあらゆる手段を使って徹底的に調べられる事になる。それがどんなに恐ろしいことか想像はつくでしょ?」






 俺はそれを想像してゴクリと生唾を飲み込んだ。現代日本の様に法治国家ではないこの世界ではそれこそ何でもアリだろう。薬や魔法、拷問などは容易に想像がつく。少なくとも人権は考慮されないだろう。




 魔法を教えてもらう相手がリンでよかった。そして、やはり俺にはいわゆる常識という情報が足らなすぎることを再認識する。






「ありがとう。リン。これからはリンが当たり前だと思っている事もぜひ教えて欲しい。その当たり前を知らないことで命取りになるかもしれないからね。」




「ええ。もちろんよ。それにしても、どうやってこの短時間で魔法を習得したの?まだ何も教えていないのに。」




「まあ、言っても信じて貰えないかも。俺は狂人か詐欺師らしいから。」




「……まさか。《魔力》が見えると言うの?イヤそんなこと。でも……。」




「信じて貰えなくても構わないさ。この眼をリンに隠し通すことはどの道できないと思っていたから、これからリンに色々と教わる中で俺がすることを見て判断してくれればいいよ。」




「……分かったわ。この目で見定めさせてもらうわね。もし本当だとしたら、先ほど言った以上にその目は口外すべきではないわね。確実に異端者審問を受けることになる。」




「お~コワ。心しておくよ。」






 リンは「では続きを始めましょう」と言って、その後もいくつか魔法の説明をしてくれた。


 その後、しばらくして夜も遅くなったため続きは明日と言うことで解散となった。










 それにしても、この世界の教会は思った以上に権力を持った恐ろしい団体だなと思う。確かに地球の歴史でも権力とつながった巨大な宗教組織は時に国を超えて人心を掌握し恐ろしい程の権力と軍事力をすら握ることが度々あった。


 十字軍がその最たるものだろう。




 この世界でもそれは同じようだ。聞く限り教会は一神教で帝国の国教となっていて、相当に古い歴史があるようだ。一神教という事は他の宗派も排斥してきたのだろう。






 教会に弓を弾く行為は下手をしたら国を相手取るより厄介かもしれない。確かに警戒した方が良さそうだ。






 俺はそう心にメモして眠りについた。

明けましておめでとうございます。


詠唱とか魔法陣って何なんでしょうね。

シャーマンとか祈祷師とか宗教関係のところからきているのかもしれませんね。


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