第19話 星屑の王
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トントン。
「リュージ。居るの? リュージ? ……入るね?」
扉を開けるとベッドに寝たままのリュージがいた。
あれから手近な宿をとり、旅の疲れもあって軽く夕食をとってすぐに寝ることにしたのだが、次の日の朝になってもリュージは起きてこなかった。
既に昼を過ぎ、さすがに心配になってリュージの部屋に来たのだけど、ぐっすりと眠りについていてまだ起きそうにない。
「余程疲れていたのね……。」
一瞬起こそうかとも思ったけど、これだけ深い眠りについているのだから起こすのはかわいそうだと思った。
ベットサイドに椅子を置いて、その横顔を眺める。
……不思議な人。
リュージの横顔を眺めていると、なぜか私の心は安らぎ温かくなる。そのぬくもりに身を委ねていると、心地よい眠気が全身を包んでいく。
――――――
気づけば私は見たこともない大きな四角い建物に囲まれた整備された道を歩いていた。その手に少年の手を引いている。
見たことも無い?―いえ。見たことのある光景。
これは夢だ。子供の頃から何度も見た夢。
私は手を引く少年に振り返る。
『柳二は相変わらず起きるのが遅すぎるのよ。』
目の前の少年は寝ぐせが治りきっていない頭をかきながら気怠そうに私を見て言った。
『何で来たんだよ。僕のことはほっといてって言ったよね。それに、あんまり学校にも行きたくないし……。』
少年は抗議する様な、それでいて本気には嫌がっておらず、何処か困った様な表情でそう答える。
黒髪黒目の少し色白でひ弱そうな少年だ。
夢の中で何度も見たその少年の顔は……そう。リュージだ。
この後もこの夢は続くのだけど、その間ずっと感じている感情がある。
私はなぜかこの軟弱で何事にも後ろ向きな少年に並々ならない想いを寄せているのだ。
リュージに出会った時。
私は心底驚いた。まるで夢の中の少年がそのまま夢から出て来たかの様なその姿に。
そして何より今まで感じたこともないほどの熱い胸の鼓動に。
今思えばこの夢の中の私の想いに引きずられたのだろう。
そうでなければあの雷に打たれたかの様な感情は説明できない。まさか私があんな安い告白に心奪われたなんてことは無いはずだもの。
私は得体の知れないこの感情に戸惑いつつもそう結論付けて一旦感情に蓋をする。
―――
「りん……か……行っちゃ……ダメだ…。」
誰かの苦しむ声が聞こえた気がしてふと目を覚ます。
……どうやらリュージの寝顔を見ながら私まで寝てしまっていたようだ。
そして気づけばいつの間にかリュージが私の手を握っていた。
まるで恋人の様な今の状況に一瞬ドキリとして手を放そうとしたけど、悪夢でも見ているのかうなされているリュージに気づき、なぜか手を離してはいけない気がして握り返す。
しばらくその手を強く握っていると、やがてリュージは安心したような顔つきに戻り、また深い眠りに入っていた。
そのままリュージの寝顔を見ながら思う。
あの時リュージが私に見せた光景。
その光景の中に私の夢に出てくるあの街並み、あの街路樹があった。視点は違うけれど全く同じ光景に全く同じセリフだった。そして私によく似た人。
あれは私が子供のころから見ている夢と全く同じもので視点だけが違った。
リュージは自分の記憶を見せたと言った。なら、なぜ私の夢と同じ記憶を?そして私にそっくりな人が私の夢に出てきた凛香と言う人なの?
……リュージは本当にあの夢の住人で、そこから現実に飛び出して来たかのよう。
でも私も子供じゃない。まさか本当に夢から出て来たなんて思ってない。
なら、リュージはいったいどこから来たのだろう。
体格は子供の様でとても荒事は出来そうにない。身体強化も上手く使えているとは思えない。
にもかかわらず単体でD、集団ではCランクにもなるムーンウルフの毛皮を複数所持していたし、何よりあのギガントグリズリーを単独で仕留める実力。重傷を負ったとは言え単独討伐はAランク以上の実力が無ければ不可能なはず。
あのランクCハンターに素手で立ち向かう胆力といい、見たこともない技。
見ず知らずの私なんかに同情して激情するほどのお人好しな性格。そして貴族の上流階級の教育を受けて来たかの様な理解力と計算能力。
極めつけは私に意図的に見せたと言った彼の記憶とそれを成す特殊な能力。一瞬精神干渉系の魔法かと思ったけどそれとも感覚が違った。
本当に異世界から来たというのも嘘じゃないかもしれない。少なくともそれを完全に否定できない。そう思わせる不思議なオーラを纏っている。
そう言えば、リュージに出会う前。私は流星が落ちるのを見た。朝の光に照らされてもなお輝き落ちていく流星。そしてその数日後に彼を見つけた。
あながち流星に乗ってやってきたという妄想も間違いじゃないのかもしれない。
……その状況があのおとぎ話を想起させる。幼少の頃よく母にせがんで聞かせてもらったおとぎ話。
――――――
『これは夢か現かまだ見ぬ今は昔。月がまだ欠けることなく満ちていた時代。
いつの日か人の世に強大な闇が舞い降り人の心を食らった。
次第に世界を闇が覆い星を蝕み、人を飲み込んだのだ。
人々は闇に抗うために、禁忌の力に手を出した。それは決して人が手を出してはならないものだった。
その力を使い、闇と人の争いは何十年、何百年と続いた。
禁忌の力を手にした人の傲慢さに月の神は憂い、同時に激怒した。そして、月の半分を落として争いを終結させたのだ。
星の生命と引き換えに。
星が死に、殆どの生命が失われた。
そして幾千幾万の月日が流れた。
その間、僅かに生き残った人々は絶望の日々を送った。
ある時、月より生まれた一つの星屑が地上に落ちた。
闇夜を切り裂くように一条の虹の尾を引いて。
星屑はほどなくして人の姿を取った。
その星の人は星の光を纏っていた。そしてその星の光は闇を祓う力があった。
星の人は道ゆく先々で闇を切り裂き絶望に打ちひしがれる人々を助け、時に道を照らし、やがて人々の希望の光となった。
闇を祓い続け、そして星に巣くう闇の元凶と対峙し、死闘を繰り広げた。
死闘は苛烈を極めた。
闇を祓うそばから闇が生まれ、そしてまた光でそれを祓う。
攻防は一進一退。膠着状態となったが、星の人に助けられた人々の助けを借り、更には四幻獣と神龍をすら味方につけた星の人はついに闇の元凶を打ち破った。
星の人は生涯人々と共にあり続け、地上に再びに生命を吹き込み、最後には光り輝く楽園を築いた。』
――――――
「星屑の王」と呼ばれるおとぎ話だ。
このおとぎ話が唯のおとぎ話ではないことは星降りの義を執り行った一員であった私はよく知っている。おとぎ話として伝わっているものの、地域によっては神話として語り継がれているものでもある。
そして、現在よりはるかに優れた超超高度文明を築いたとされる神話時代の遺跡の壁画に度々描かれていることからも、それが何か実効的な意味を持つと思われていた。
でも星降りの儀を行っている最中に里が襲われた。そしてあれから3年もの間何も起こらなかった。
だからあれは失敗だったと思っていた。
成功だったとしても所詮おとぎ話だと、そう思っていたのに。
でも、今になって星が降った。
改めて振り返ると、やっぱり星屑の王の話と符合する部分は多い。
リュージが異世界人だなんてすぐに信じられるものではないけど、少なくとも普通ではないことは確か。もしかしたら、この伝説に関わる人なのかもしれない。
そこまで考えて私は首を振る。
でも、リュージがどんな出自だろうと関係ない。
暗闇に沈みかけた心に一筋の光をもたらしてくれた私の友達。
旅を始めてから初めてできた大事な友達がこの世界で生きるための知識も術も知らず困っているのは事実。
私がすべきことは困っている友達を助けること。リュージがどんな存在だろうともそれは変わらない。
私にできる範囲で手助けをしてあげよう。リュージの寝顔を眺めながらそう決意する。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ようやくタイトルにたどりついた…。




