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第17話 ギルマスの裁定

「……いい加減にしろよ、筋肉ハゲ野郎が。」


 俺の目が余程怒りに燃えていたのだろうか。先ほどまで意気揚々と構えていた男が、一歩後ずさる。



「……テメェ。寄生者パラサイトは引っ込んでろ!邪魔だ!」 


 それでも俺は無言のままゴンザレスの前に立ちはだかる。

 ゴンザレスはこんな華奢な俺に一瞬気圧されたことに羞恥心を覚えたのか、自分の醜態をごまかすように顔に怒りを浮かべて、俺に近づきその胸倉を掴んだ。



 だがそれは悪手だ。

 無幻水心流の使い手に対して素手で掴むなど自殺行為に等しい。


 俺はゴンザレスの右手の甲に右手を上から被せる様にかけ、右足を半歩後ろに上半身を右に開きながら右脇を絞るようにして手首の関節をひねって絞める。

 まさか自分が腕を捻られるとは思っていなかったのか、ゴンザレスは腕の痛みに顔をしかめてそのまま右手を捻られながら前のめりにたたらを踏んだ。完全にバランスを崩したゴンザレスに俺はさらに体を捻りながら後退し、その際に少し脚をかけてやればゴンザレスは前のめりに顔面から無様に転がった。



 それを見ていた聴衆はゴンザレスの醜態に大笑いする。


「ギャハハ!おい、ゴンザ!何ルーキーにあそばれてんだよ!」

「ゴンザ!遊んでんじゃねぇよ!」



 そんな聴衆のあざけ笑いにゴンザは、キレた。



「うるせぇ!うるせぇぞお前ら! このぉクソガキが!手加減してやればッ調子に乗りやがって!!もう許さねぇ!」



 怒髪天をつくような怒りでその顔を真っ赤にし、ゴンザレスは背中の戦斧を抜いた。

 それを見た俺は《彗心眼》を全開発動する。



「お前、それを抜いた意味はわかっているんだろうな。」


 俺の青白く光る眼にゴンザレスは一瞬気圧された様だった。


「う……うるせぇ!魔力ゼロの寄生者パラサイトが!!」



 だが俺の忠告はゴンザレスには逆効果だったらしい。一度振り上げた戦斧を簡単には下ろせないとばかりに、怒りに任せてにその戦斧を振り下ろしたのだ。



「リュージ君!? 危ない!」


 それを目撃していた受付のミーリスがそう叫ぶも、その戦斧はもはや重力に逆らうことなく俺めがけて落下していた。



 しかし俺には視えていた。斧を振り下ろそうと力を込める男の《体内魔力》が腕と腰、足に集まり光輝くさまが。そしてその光が次第に背筋と上腕に集まっていくのが。


 《彗心眼》で見た《体内魔力》の動きで、その男の次の動きが、未来・・が手に取る様に解るのだ。

 何の工夫も無いただの振り下ろし。《身体強化》を使うまでもない。





 ゴンザレスの肩を支点に振り下ろされる斧。その機先を制して素早く懐に入り込み、振り下ろされる途中、腕を伸ばして男の両肘に手を当てる。

 すると男の両肘を支点に斧が振り下ろされることになるが、当然支点の肘に無理な力がかかる。そうなれば、肘が折れるか斧を手放すしかない。


「ぐあぁ!?」


 ゴンザレスはその痛みに悲鳴を上げ、斧を手放した。斧は慣性の法則に従い俺の後方に飛んでいった。



 更に俺は武装解除にとどまらず無力化をはかる。


 そのままの流れで右の手のひらでその男の右手の甲を上から覆うようにして小指の根元を握り、左手を男の右手の肘に当てながら斧を振り下ろそうとしたその勢いを利用して半身を開きながら手首をひねる。同時に右下に円を描くようにして引き倒す。


 いわゆる籠手返しだ。




 俺はそのまま腕と肩の関節を締め上げながら、背に乗る様にゴンザレスをうつぶせに組み伏せた。



「がぁぁぁ!」



 無様にも組み伏せられた男は、俺の拘束から抜け出そうともがいている。が、腕が完全にキマっているのだ。こんな体重の軽い俺でも腕が折れでもしない限りは抜け出すことはできない。




 これまで俺たちの騒動をまるで見世物の様に遠巻きにニヤニヤと眺めていた聴衆は驚きに目を見開き、いつの間にか誰もが押し黙っていた。




 俺はこの燻る怒りを開放する様に肩関節をさらに引き絞る。



「謝れ! リンが一体何をしたって言うんだ!お前の、お前らの罵声がどれだけリンを傷つけるか分かっているのか!リンを突き飛ばしたこと、暴言を吐いたことに対して謝れ!」



「……ふっざけんな。お前っ。頭でも沸いてんのか? あいつは灰種アッシュだぞ。そうされて当然だ。何が悪い!」



 ゴンザレスは俺の要求が心底理解できないといった表情で、俺の拘束を抜け出そうとさらに力を込める。


 やがて、ゴンザレスのアニマが光り出した。


 完全に腕を固めた状態で動けるはずがないのに、信じられない力で俺の拘束を押し返そうとする。《身体強化》だ。



「それ以上抵抗すると、腕を折るぞ!」



 俺の忠告を無視してさらに力を込め始めた。信じられないことに片腕だけで無理やり起き上がろうとする。なんと俺の体が浮き始めたではないか。



 この前世とは異なる力の源が、俺が教わってきた技の術理をくつがえそうとする。


 マズい。これ以上は。とはいえ、この状態で解放してしまっては騒動がおさまらない。腕を折るしかない。




 そう判断したとき―



「そこまでだ!」



 それは決して大声というわけではなかった。


 だが、どういうわけかあのジャイアントグリズリーのような心胆に直接響くような圧を伴っていた。その声に僅かに《魔力》が籠っていたらしい。



 不意のその掛け声に思わず固まり、声のした方を振り向く。



 そこには背が高く線は細いが鍛え抜かれた体をした壮年の男がいた。

 一目見て分かった。その揺らぎのないアニマの輝きと、隙のない立ち姿からその男が相当な達人であることが。



 男は俺のところまで来て、しゃがみ込んでゆっくりと肩に手を置いた。



「そこまでだ。坊主。ゴンザレスを開放してやってくれ。」



 そう言われて我に返ると、ゴンザレスも既に抵抗の意志がなくなっていることに気づく。


 俺は慎重に腕関節を開放して、ゴンザレスから離れた。





「私はここのギルドを預かるものだ。エルフィンという。 ハンター同士の私闘は禁止だ。説明を受けなかったのか?」


「こいつが、リンに手を挙げて罵声を浴びせ更に俺に切りかかってきたからだ。」


 俺はうずくまるリンに目線を向けて示し、抗弁する。



 エルフィンはそれを聞いてすぐさま受付の方に目線を送ると、すぐにミーリスが駆け寄り手短に状況を説明した。





「ゴンザ。またお前か。いつも言っているだろう。十分に相手の実力を見極めてから行動しろと。」


「だが、ギルマス。そいつは灰種アッシュだぞ。」



 俺が締め上げた腕を抑えながらいつの間にか立ち上がっていたゴンザレスは納得がいかない様子でそう答えた。



灰種アッシュ灰種アッシュでないかという話ではない。そいつは“飛燕ファントムスワローのリン”だぞ。」



 その瞬間、ギルド全体にどよめきが起こる。ゴンザレスも目を見開きリンに目を向けている。



「個人の実力としては少なく見積もってAランク、場合によってはAAランクにも届くとも言われている実力者だ。依頼達成率が悪い故にランクこそBだがな。今、お前が無事に立っていられるのはただ運がよかっただけの話だと言っている。」



 その間に俺はリンの元に駆け寄り、無事を確認する。チクチクが心配そうにリンの顔を覗き込みタシタシと頬を叩いていた。


 外傷は一切ない。だが、心の方はそうはいかないようだ。俺の呼びかけにも無言のまま、顔をそらしてうつむいたまま体に力を入れてくれない。 


 ひとまず脱力したその体に肩を貸して立ち上がらせる。




「しかし……納得いかねぇ。 そうだ。そいつは魔獣を連れているんだぞ。規定違反だ。」


「まぁ。確かにリンが連れたそのヘッジストートには従魔登録証がついていない。だが、リンはファントムスワローとヘッジストートを従魔登録しているのは確認済みだ。」



 この期に及んでリンの指摘ばかり。まるで俺は悪くないと言わんばかりのその態度にまた怒りが込み上げてくる。



「謝れよ。リンに謝れ!」


「あぁ!? 俺は何も悪い事はやっちゃいねぇ。確かにその魔獣に切り掛かろうとしたが、登録証をつけていない灰種アッシュが悪い。」


「まだ言うか!」



 俺は怒りのまま声を張り上げ一歩踏み出そうとしたが誰かが弱々しく俺の袖をつまんで引っ張った。リンだ。



「……リュージ。ありがとう。 でも、もういいの。私は大丈夫。いつものことだから……」


「しかし!……」



 消え入りそうな声でそう告げたリンの顔はひどく悲しげで、諦観の念すら感じさせるものだった。

 今までの明るいリンの顔を思い浮かべ、その落差に胸が苦しくなる。




 それを見ていたギルマスが口を開いた。


「本来はハンター同士の私闘にギルドは絡まないのだが、ギルド内で起こってしまったからにはこのまま見過ごすわけにもいくまい。ギルドマスターとして裁定を行う。」



「リン。お前は従魔登録証をヘッジストートにつけずにギルド内に連れ込んだ。規定違反により、20万ミルの罰金とする。」


「は?何で!?」「はっ。ざまぁねえな。」


 納得のいかない罰則に声を上げる俺とは対照的にゴンザレスがニヤリと口角を上げた。俺が納得いかずに抗議の声を上げようとしたところにギルマスが被せる様に続けた。


「だが、ゴンザ。勘違い(・・・)とはいえギルド内で武器を使い、かつリュージと言ったか、そのルーキーに対して武器を振るったのは逃れようのない事実だ。まぁ、そのルーキーにしてやられたわけだが。」


「チッ。 手加減してやっただけだ。」


「ゴンザ。この場合、私闘にあたるが、お前はランクCだったな。お前の行為は高ランクハンターによる下位ハンターへの恐喝、恫喝に値する。よってゴンザを1ランク降格処分とする。」



「なんで俺だけ降格なんだよ! 灰種アッシュを庇うつもりか!」


「ギルドの規定に人種による取扱の差は明記されていない。事実に基づいた裁定だ。これはギルドマスターとしての最終決定通知として受け止めろ。」


「ふざけんな!」


「それとも、お前の行為は勘違い(・・・)ではなかったとでも言うのか?もしそうなら下位ハンターの殺人未遂となるが、その場合さすがの俺も見逃すわけにはいかなくなるが?」


「……ッチッ!」



 そう冷たく言い放ったギルマスには得も言えない威圧感があった。

 ギルマスはそれ以上の反論をしなくなったゴンザレスを確認し目線と外すと、ギルド全体を見渡して大声で告げる。



「これはこの場に居る全員に告げておく!これ以降、この灰種アッシュへの手出しは無用! AAランカーの実力を持つリンの怒りを買い、無用な被害を出さないためだ!皆心しろ!」



 ギルド全体がざわつく。余程異例な事なのだろう。



「クソッ!やってられっか!そこの寄生者パラサイトのクソガキ!ただで済むと思うなよ!」



 ゴンザは血走った目で俺とリンをにらみつけたのち、自分の斧を回収して近場にあった机替わりの樽を派手に蹴り倒してギルドを出て行った。


 俺もそれに対して睨み返す。

 ギルマスの裁定には到底納得できない。当のゴンザレスが反省のそぶりを見せていないのだから。だが、俺この怒りをぐっと抑え込んだ。今それを蒸し返せばより面倒なことになるし、何よりリンがそれを望んでいなかったからだ。



 ギルマスはそれを見送ったあと、確認するかのようにリンに顔を向ける。



「……私もそれでいいわ。」



「以上だ。皆、解散!」



 ギルマスはこれで一件落着と言わんばかりに手を鳴らして聴衆を解散させる。そのあとミーリスに何事か告げた。


 ギルマスが自室に戻るのか歩き出し、すれ違いざまにリンに小声で告げた。



「今日はこのまま帰ってもらう。事務手続きは後日でよい。ただ、分かっているとは思うが、できるだけ早くこの町を出て行ってくれると嬉しいのだがな。“漂流者ドリフターのリン”。」



 この声量。わざと俺にも聞こえる様に言っているのだろう。ギルマスも決して味方というわけではないということだ。


「リン。こんな胸糞悪いところ早く出よう。」


 俺はわざと大きな声でそう言って、内に燻る怒りを抱えたままリンの手を取って足早にギルドを出て行くのだった。




我々人類はホモサピエンスと言う一種の種族の人間しか存在しない。


しかし、40万年前には別種の人類であるネアンデルタール人がいたことが分かっています。この我々の先祖のホモサピエンスとネアンデルタール人って遺伝子が全く違う訳で、当時のホモサピエンスからしたらネアンデルタール人はエルフ族みたいな感じだったのかもしれません。


ネアンデルタール人はホモサピエンスに虐殺され根絶やしにされたという説が主流のようです。意思疎通ができる別種の知的生物どうし、どちらかの種が根絶する前に対話が

出来ていたら、また違った現在もあったのかもしれません。


もしネアンデルタール人が生き残っていたら世界はどうなっていたのでしょうか?


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