2.
突如、ごろんと転がった自分の体が、前方の壁に打ち付けられた。
同時に外から聞こえる、馬のいななく音と男の罵声。
状況が読めないがとにかく、何かに妨害されて馬車が止まったらしいということだけはわかった。
(強盗? …金目のものでも積んでいると勘違いしたのかな。)
馬車にいるのは自分だけだ。それ以外は、何もない。遠目で見たことのあるくらいだが、馬車の中には積み荷があるのが普通だ。だから、食料とか、商品とか。そういうものを積んでいるものだと勘違いしているのだろう、けれど。
心境はというと、焦りと不安、それ以外になかった。
強盗だとして、積んである荷物が金目のものではないことがわかったら、その荷物を何とか金にしようと考えるのが妥当なところだろう。
金にならなければ、殺されるか、慰み者にされるか。どちらにせよ状況が好転することはまずないのだ。
つまり、僕の状況は最悪だということ。
外で争う声と金属音、それから銃声が聞こえて、元からなかった血の気がさらに引いていく。
……しばらくしない内に、音が止んだ。
しんと静まり返った周囲、聞こえるのは足音。一人ではなさそうだが…しかし人数は多くはなさそうだ。音の規模からして複数人での犯行と考えていたけれど、外が静かすぎる。嫌な予感が脳裏をよぎり、体が震える。
(もういっそ、今すぐ殺してくれ――!)
拘束されたままで恐怖に震える自分の体を、自分で抱きしめるなんてこともできない。
自分の願いもむなしく、馬車の扉は開け放たれた。真っ白なまばゆさの中、馬車の扉を開けたであろう人影が一つ。
逆光でよく姿はわからなかったけれど、そのシルエットはまるで――
「……修道女、さま?」
そこに佇んでいたのは、ヴェールを被った、髪の長い女性だった。