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1.
――不規則に揺れる馬車の中。
空腹、痛み。恐怖。不安。絶望。
そんなものばかりが、僕の体の中を支配していた。
今に始まった不幸ではないけれど、これ以上の不幸があるのだろうか。
『助けて』なんて、言える人も、もういない。
それに……数多いる奴隷商のひとりに連れていかれたとあっては、さすがに見つけるのも難しいだろう。
スラム街でうろついていた少年一人を捕らえて金持ちに売っただなんて、ここらではよくあることだから。
これから自分に起きる出来事を考えただけで、ただで具合の悪い体がさらに不調を訴える。
僕は奴隷商に捕まった。オークションにかけられて、金持ちに買われていく未来だ。
そのあと何をされるかはわからないけど、どうせろくなことじゃないのはわかっている。
せめて――
(…せめて、もう一回だけでも、エレンに会いたかったな……。)
僕を雑に投げ入れた馬車は、目的地へと向かっていく。