表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

チャレンジ

白き花 君の居ない交差点

掲載日:2021/12/07

北風の吹き抜くような、坂道。信号機のない狭く見通しの悪い交差点。その片隅に、今日もまた、白い花が置かれている。


和子は、枯れたスイセンの花を拾い上げ、ゴミ袋へと入れた。



 ―― 毎週、毎週、よく続くものね。



月曜日の夕方に必ず飾られるその花を、週末に片づけているのは、和子であった。


もちろん片付けは、面倒だ。だけれども、あれを目撃した以上、この花に文句をつける気にはならない。そう、あの子が置く花が途絶えることは、無いかもしれない。



 ―― もしかしたら、死ぬまでお花を片づけることになるのかしら。



ぴゅるりと風が吹く。肌を刺すような寒さに身を震わせ、和子は、ひとつため息をついた。




******************************




一人ぼっちで、たたずむ犬は、くぅんと声をもらす。私が、その頭を撫でると、ネコのようにノドをゴロゴロゴロと鳴らした。


北高の校門から駅へと下る坂道は穏やかで、あの日と何も変わらない。


枯れ葉が、浮かない顔をして風に飛ばされる。赤くなった西の空は、あの時と同じに、私を染める。雲一つない大きく赤い空を見ると、不思議なほどに心がざわめく。


長い下り坂は、勢いよく交差点へと進む自転車を助ける。あの日と同じように。


さざんかの垣根。たき火の匂いが鼻の奥を いやらしげに くすぐる。


垣根の向こう、あの日と変わらぬ疲れ気味の老婦人の影を、哀れをさそうような火が揺らした。


月曜日の夕方。今日もこの交差点で、車の姿を見ることは無い。


幹線道路から離れたこの坂道を通る車など、ほとんど無いのだ。



役場のほうから響いてくる、カンカンという鐘の音が5時を知らせる。



あの時、この交差点で、私の前を走る君は、失われた。


タイヤを飛ばし、ひしゃげた自転車は、その場に残ったけれども、ダンプカーの陰に消えた君は、帰ってこなかった。ゆびきりの約束は、どこかへ行ってしまった。



2人の自転車が並んで走る道沿い。お皿が回る寿司屋さんの前。


「魚が嫌い」と言った君は、もう居ない。


「エビが好き」と言った君は、もう居ない。


「カニが好き」と言った君は、もう居ない。


「タコが好き」と言った君は、もう居ない。



今はもう、スマホの中。優しい目で私に微笑みかける君は、ここに居ない。


いまだに悲しいこの交差点に、ダンププカーは、通らない。


あの日と違って、君は、居ない。


嗚呼、赤い匂いに染まる交差点。君の居ない交差点。



今日もまた、白い花を飾ろう。

文字数(空白・改行含まない):996字

こちらは『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』用、超短編小説です。


幼稚園の頃の『交差点で、ダンププカーに轢かれた「魚が嫌い」で、「エビが好き」で「カニが好き」で「タコが好き」な女の子の歌』を思い出しながら書きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 傍観者視点と当事者視点に別れていて、よりいっそう切ない雰囲気ですね。全く関係がないのに花を片付けてあげる和子さんに優しさと面倒見のよさを感じました。
[一言] どうやったらこんな話を思い付くのかセンスがいいです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ