白き花 君の居ない交差点
北風の吹き抜くような、坂道。信号機のない狭く見通しの悪い交差点。その片隅に、今日もまた、白い花が置かれている。
和子は、枯れたスイセンの花を拾い上げ、ゴミ袋へと入れた。
―― 毎週、毎週、よく続くものね。
月曜日の夕方に必ず飾られるその花を、週末に片づけているのは、和子であった。
もちろん片付けは、面倒だ。だけれども、あれを目撃した以上、この花に文句をつける気にはならない。そう、あの子が置く花が途絶えることは、無いかもしれない。
―― もしかしたら、死ぬまでお花を片づけることになるのかしら。
ぴゅるりと風が吹く。肌を刺すような寒さに身を震わせ、和子は、ひとつため息をついた。
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一人ぼっちで、たたずむ犬は、くぅんと声をもらす。私が、その頭を撫でると、ネコのようにノドをゴロゴロゴロと鳴らした。
北高の校門から駅へと下る坂道は穏やかで、あの日と何も変わらない。
枯れ葉が、浮かない顔をして風に飛ばされる。赤くなった西の空は、あの時と同じに、私を染める。雲一つない大きく赤い空を見ると、不思議なほどに心がざわめく。
長い下り坂は、勢いよく交差点へと進む自転車を助ける。あの日と同じように。
さざんかの垣根。たき火の匂いが鼻の奥を いやらしげに くすぐる。
垣根の向こう、あの日と変わらぬ疲れ気味の老婦人の影を、哀れをさそうような火が揺らした。
月曜日の夕方。今日もこの交差点で、車の姿を見ることは無い。
幹線道路から離れたこの坂道を通る車など、ほとんど無いのだ。
役場のほうから響いてくる、カンカンという鐘の音が5時を知らせる。
あの時、この交差点で、私の前を走る君は、失われた。
タイヤを飛ばし、ひしゃげた自転車は、その場に残ったけれども、ダンプカーの陰に消えた君は、帰ってこなかった。ゆびきりの約束は、どこかへ行ってしまった。
2人の自転車が並んで走る道沿い。お皿が回る寿司屋さんの前。
「魚が嫌い」と言った君は、もう居ない。
「エビが好き」と言った君は、もう居ない。
「カニが好き」と言った君は、もう居ない。
「タコが好き」と言った君は、もう居ない。
今はもう、スマホの中。優しい目で私に微笑みかける君は、ここに居ない。
いまだに悲しいこの交差点に、ダンププカーは、通らない。
あの日と違って、君は、居ない。
嗚呼、赤い匂いに染まる交差点。君の居ない交差点。
今日もまた、白い花を飾ろう。
文字数(空白・改行含まない):996字
こちらは『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』用、超短編小説です。
幼稚園の頃の『交差点で、ダンププカーに轢かれた「魚が嫌い」で、「エビが好き」で「カニが好き」で「タコが好き」な女の子の歌』を思い出しながら書きました。




