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逢魔が刻の一ツ星  作者: スズヤ ケイ
九 息吹くもの
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九十八 刻むもの

「よくもやって下さいましたね。よもや我が山ごと結界を断ちなさるとは。この伊吹童子、思いもよりませんでした」


 そう肩を竦める声には、清々しささえ感じられた。


 美しい女である。

 しかし尋常な人でないことは、一目でわかった。


 額から二本の角が生えているのだ。


 加えて、喋る度にちらりと覗く鋭い牙。

 しなやかな指より長い、鋭い鉤爪。


 その姿はまさしく鬼に相違なかった。


「流石は姉上、と申さねばなりませんか」

「姉、とな……?」


 頭上より続けて発された言葉に、白星がぴくりと眉を動かした。

 そして何かを察し快活な笑い声をあげる。


「……かか。さよか。ぬしは我が首が、依り代なく具現化した鬼か」

「左様です。言わば我等は血を分けた姉妹首。ですから本体のあなたを姉上、とお呼びしました」

「これは愉快なことよ。よもやこのわしに妹がおったとはの」

「私も姉上にお会いできて嬉しゅうございます。ですが……」


 息吹童子と名乗った鬼が、俯いて声を落とす。


「その殺気。妹とて見逃しては頂けないのですね」


 明るく話しながらも、白星が間合いを図っているのに気付いていたのだ。


「悪う思うな。妹なればこそ、尚の事放ってはおけんしの。大人しゅうそっ首差し出せい。さすればすぐ楽にしてくれようぞ」

「御免(こうむ)ります。せっかくの自由気ままな生。どうしても奪うと言うならば、返り討ちにして私が本体になり代わるまで」

「よう言うた。なれば死合おうぞ」


 言うが早いか、白星が飛び掛かるのに合わせ、伊吹童子は右手を振るい、凄まじい豪風を呼び起こした。


 それを正面から迎えた白星は大きく息を吸い、激しい吹雪で対抗する。


 互いの風と氷雪は一時拮抗したかに見えたが、伊吹童子が左手からも追撃の風を繰り出すと、吹雪はあえなく霧散し、凶風が白星を襲った。


 白星は巧みに白鞘を振り回し、鎌鼬を払い散らすが、形なき風を全ていなすなど、いかな白星にも咄嗟には無理がある。

 たちまち衣の袖が裂け、裾がほつれていった。


「ほほほ。我が疾風を見切るなど、いかに姉上でも目が追い付きませぬでしょう。そうれ。まだまだ切り刻んでくれましょうぞ」


 両腕を振り回し、鎌鼬を乱舞させる息吹童子に対し、白星は防戦一方、少しずつ後退を余儀なくされる。


 そしてこれまで目立った損傷を受けた事のない白き衣は、瞬く間にぼろきれのように刻まれて行った。


 これまでの相手と違い、己が権能を自在に操る首の化身は、間違いなく最強の相手であると言わざるを得ない。


 しかし白星の顔から笑みは消えず、己に匹敵する強者に会えた喜びからか、むしろ楽しんでいるような節さえ見えた。


「かか……この盤面。どう引っ繰り返してくれようかの」


 白鞘の軌跡の裏で、白星は意地の悪い表情を浮かべ、何やら画策しているようだった。


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