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逢魔が刻の一ツ星  作者: スズヤ ケイ
九 息吹くもの
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九十六 出向くもの

 福一が一息入れた後、白星は青と白への挨拶もそこそこに土蜘蛛御殿を発った。


 福一が仕入れてきた次なる龍穴の在処、伊吹山へ向かうためである。


 此度の遠征は打猿と国麿は同行せず、福一のみを供にしての行脚あんぎゃとなる。


 そこで須佐の呪法、神足通と呼ばれる歩法をもって進むことを福一は提案した。


 神足通とは六神通の一つであり、禅行を極めた者だけが習得できる神通力である。


 本来の効果は、思いのままの場所へ瞬時に移動したり、自在に姿を変えることができたりなどと、様々な能力を含む超人的なものだ。

 しかしそこまで使いこなすには過酷な条件があり、生涯をかけた壮絶な修行が必要な上、才覚がなければ習得できるかどうかもわからぬ、ある種博打のようなものであった。


 草の育成のためにそこまで手間をかけられぬ故に、須佐においては、常人の数倍の速さで走る事ができる程度に効果を抑え、手軽に使用できるよう手を加えて用いられていた。

 無論これだけでも、呪術の才と厳しい修行が伴わなければ行使は叶わぬものであり、福一の術師としての確かな腕前を物語っていた。



 かくして、疾風の如くに街道を駆け抜ける影が二つ、晴天の陽に照らされる事となった。



「私はこの術が特に得意でしてね。小間使いとして便利に使われているのですよ」


 走りながら、普段から細い目を更に細めて苦笑する福一の声には、誇りと諦観が混ざり合っていた。


「かか。健速はさぞ人使いが荒そうだしの」

「その通りです。笑いごとではないのですよ」


 白星の茶々に、ふう、と溜め息をつく福一だが、


「しかし此度は白星様と星子様へ直々に仕える栄誉ある御役目。張り切ってお供しますとも」


 そう胸を張って白星に並走するのであった。


「ねえ福一さん。伊吹山って、どんなところ?」


 置いてきぼりにならぬよう、お守りから首のみ出して星子が尋ねる。


「多くの霊山に囲まれていますからね。須佐に似て、空気と緑が綺麗な場所でしたよ」


 ふと福一が遠い目を見せる。

 在りし日の須佐の里と重ね合わせているのだろう。


「そっか……きっといいところだろうね」

「ええ。周囲の山々は、ですけどね」

「うむ。暴風の結界が張られておると言うておったな」

「はい。現状の須佐の氷雪結界同様に、入ろうとする者を拒んでいます」


 福一の顔に緊張が走る。


「即ち、龍穴を手にしたかつてのわしと、同格の存在がいるに他ならぬ、と」

「……そういうことになりますね」

「かか。結構ではないか。血がたぎるというものよ」


 白星は首を手中に収める度、在りし日の己を取り戻しつつあった。

 五つ揃えた今や、大妖と呼ばれた面影が、時折言の葉を介して漏れ出す程である。


 それは聞く者の背に戦慄を走らせると共に、味方で良かったと安堵させるものでもあった。


「さあ、もうじき着きますよ」


 流れる景色を見向きもせず、福一が前方を指で示す。


 そこには一際高い霊峰がそびえ立ち、他を拒むべく、嵐の衣で身を包んでいるのが遠目からでも見て取れた。


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