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逢魔が刻の一ツ星  作者: スズヤ ケイ
八 枯らすもの
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九十五 探り当てるもの

 土蜘蛛連中は皆夢の中のはず。

 何より、周囲に遠慮しながら風呂に入ろうなどと殊勝な精神を持ち合わせた者など滅多にいない。


 気配こそ極端に消してはいないが、風呂場の床をひたひたと遠慮がちに歩むのは、明らかに眠っている土蜘蛛達への配慮だろうと白星は察した。


 となれば、該当する人物はおのずと限られてくるというもの。


 思い至った白星は、壁の向こうへ遠慮なく声をかけた。


「福一か。思うたより早う戻ったの」

「おや、白星様ですか? こんなところで奇遇ですね」


 壁越しに動揺が伝わって来る。まさか先客がいるとは思わなかったのだろう。


「よく私だとお分かりになりましたね」

「ここで須佐の歩法を扱う者など、限られておるであろ」

「さすがのご慧眼……いえ、この場合は地獄耳、でしょうか」

「かか。好きに言えい」


 男湯から、ざばりと掛け湯の音が響く。


「皆を起こさぬように忍び足で風呂に入るとは、健気なことよ」

「ええ。皆様大変気持ちよさそうに眠っていらっしゃいますからね。邪魔をしては無粋というものでしょう」

「かか。そういった気遣いができるのは、ここではぬしくらいのものであろうな」

「恐れ入ります」


 会話の間に、ちゃぷんと湯が跳ねる音がわずかに届く。福一が湯舟に浸かったのだろう。


「聞けば、わしのおらぬ間に龍穴の探索に出たというではないか。成果はあったかの?」

「ええ、もちろんです。一つ大物を見付けて来ましたよ」

「ほう。聞かせよ」

「琵琶湖の東に伊吹山という霊山がありましてね。周辺の地脈を一手に束ねる大龍穴があるともっぱらの噂だったのです。それを今回確認して参りました」

「して、ぬしはどう見た?」

「大当たりです。御山の周囲には暴風の結界が張られておりまして、私では中に入り込むこと叶いませんでしたが。内より吹きつける霊力は凄まじいものがありました。間違いなく龍穴がございます」

「うむ。でかした」


 白星は嬉し気に杯を干すと、あちらへ聞こえるように多少乱暴に盆へ置いた。


「労いに、ぬしもこちらで一杯共にやるかの?」

「は? 私が女湯に? またご冗談を」


 普段冷静な福一の、多少泡を食った声が響く。


「幸い今ならわしと星子しかおらぬ。別段、裸程度見られても構わぬしの」

「だめー! 構うの! 福一さん、本気にしないでね! 白星は酔っぱらってるんだから!」

「は、はぁ……」


 壁の向こうから苦笑の気配が上がる。


「星子様もいらっしゃったのですね。それでは尚更お邪魔できません。申し訳ありませんが、ここは一つご勘弁の程を」

「かか。生真面目な男よな」


 白星はあながち冗談でもなかったかのように笑う。


「とまれ、次の行き先は決まった。礼を言おうぞ、福一や」

「お疲れ様でした」

「もったいないお言葉です」


 ことん。


 再び干した杯を盆に乗せ、白星は不敵に笑う。

 その目には、さらなる強敵を求める獰猛な光が宿っていた。


「伊吹山、か。さて。此度の霊脈を束ねる番人はどれほどのものか。楽しみよな」


 とぷん。


 酒の入った徳利が湯の波に揺れ、警告のようにを鳴らした。

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