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逢魔が刻の一ツ星  作者: スズヤ ケイ
七 荒れ狂うもの
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八十一 白きもの

 一行がずぶ濡れになりながらも辿り着いた、青と白の治める洞窟も、五馬の御殿と遜色ない立派なものであった。


 違いと言えば、細部の装飾がやけに凝っており、配色が派手な印象を受ける部分だろうか。

 これもまた、作り手の性格が出るものなのだろう。


 館の主の御前に、濡れ鼠で立つ訳にもいかず、白星と福一は先に湯を使わせてもらう事となった。

 その間に、打猿がこれまでの経緯と助力を頼んでおいてくれるという。


 なれば断る理由もない。


 人間の貴人が使うようなものを再現した豪奢な湯舟にゆっくり浸かり、旅の埃を落としていると、からからと入り口の戸が開く音がする。


 次いで脱衣所で気配が立ち止まると、


「失礼致します、白星様。私はここの主の妹、白と申します。お湯加減はいかがでしょうか」


 遠慮がちに尋ねる声がした。


「うむ。ちょうどよい。これまでは湯を絞った手拭いで拭くばかりだったからの。全身湯に浸かるのが、これ程安らぐものとは思わなんだ」


 旅から旅へ、しかもまともな宿へ泊まる事もなかった白星にとっては、初の風呂体験であった。


「それはようございました。ここのお湯は温泉を引いてきていますので、疲労回復に打って付けでしょう」

「ほほう。独特の匂いがすると思えば、これが温泉か」

「はい。白星様、僭越ながら、お背中をお流しいたしに参りましたが、いかがでしょうか?」

「せっかくの申し出よ。頼むとするかの」


 すると湯殿に、豊満な体に薄衣一枚まとった妙齢の美女が、しずしずと入ってきた。


「失礼致します……」


 湯から上がり、椅子に腰かけた白星の背中にかけ湯をしながら、白は優しく手拭いで背中を流してゆく。


「うむ。よい心地よ……」


 白星はしばらく白の奉仕を楽しんでいたが、唐突に問いを発した。


「ところで白や。何ぞ話でもあるのではないか?」


 白星に指摘されると、白ははっとした顔を見せ、その頬を朱に染めた。


「……御見通しなのですね……」

「背を流すなぞ、側付の者の仕事であろ? 館の主人の妹が急に来れば、何事ぞあると言うているも同然よ。のう」

「仰る通りです」


 白は頷き、白星の背へ向けて深々と頭を垂れた。


「私と同じ、「白」をお名前に持つお方とあって、青……姉とお会いになる前にお話ししとう参りました。期待通り、聡明なお方でほっとしております」

「かか。褒めても汗しか出ぬぞ」


 場所柄の冗談を言いつつ、白星は再び湯舟に浸かる。


「ほれ。話をしたいならぬしも入るが良い。裸の付き合いと言うであろ」

「それでは、失礼致します」


 遠慮がちに薄衣を脱ぎ捨てた白が、湯を切って白星の正面へ回り込む。


「かか。見事な身体よ。これは星子には刺激が強かろうな」

「……あまり、見ないで下さいまし……」


 白の白磁のような肌は、すっかり桜色になっていた。


「それで。青と会うにあたり、何ぞ注意が必要か」

「はい。青は私より気が強うございます。白星様の数々のご功績も、余所者が勝手にやったこととしか見ておりません」

「交渉材料にはならぬ、ということか」

「はい。青は己で見て、己で決めたことしか受け入れません。もしかしたら、無理難題を押し付けられるやも知れませんが、白星様ならきっと乗り越えられると信じております」

「ふむ。要はまた使い走りをして、実力を示せということよな。相分かった。覚悟しておこうぞ」


 白星はそう言い置くと、ざばりと勢いよく湯舟より立ち上がる。当然、ありのままの姿が白の目前に惜しげもなく晒された。


「ああ、白星様。もう一つご忠言が……」

「なんぞ。言うてみよ」

「女子たるもの、もっと慎みをもった振る舞いを心掛けた方がよろしいのでは……」

「かか。何を顔を真っ赤にしておる。ぬし、もしやそちらのがあるのかの」

「め、滅相もございません!」

「さよか。まあ、わしはこれでよい。窮屈なのは性に合わぬでな」


 女の象徴を隠しもせずに、ざばざばと湯をかき分けて、出口へ向かう白星。


「さて。いよいよ青と対面と行こうかの」


 仕種は普段通りでも、湯上りの白星の笑みは、間違いなく常より妖艶さを増していた。


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