表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逢魔が刻の一ツ星  作者: スズヤ ケイ
五 繋ぐもの
65/172

六十四 結ぶもの

「……いつから気付いてたの?」


 まるで悪戯を咎められた子供のように、白星を伏し目がちに見上げる星子。


「かか。ぬしの狸寝入りなぞ、初めからお見通しよ。入り口で子供らに囲まれた時点で、動揺したのが伝わったしの。ぬしの人見知りにも困ったものよな」


 白星はからかい混じりに微笑むと、星子の宿るお守りを己の脇へ置く。


「されど、そういつまでも隠し通せるものでなし。しばしこやつの世話になるのだ。須佐の名代として、挨拶の一つもしておけい」


 本来ならば、須佐の縁者ではない五馬には星子の霊体は視えぬが、白星の紹介により縁が成ったのだ。


「あ……えっと、えっと……」


 星子は突然貴人の前へ立たされ極度の緊張に陥ったが、五馬が浮かべる柔らかな笑みに母の面影を感じ取り、次第に落ち着きを取り戻した。




 そして腹を決めて胸を張ると、


「失礼しました。田舎者にて、これまでの無作法をお許し下さい」


 と一つ前置きして、口上を述べ始める。


「お初にお目にかかります。私は、今は亡き須佐が里長の長女、星子と申します。どうぞよしなにお願い致します」


 堂々と名乗りを上げ、礼を尽くして見せた。


 五馬はその様を見て目を細め、何度も軽く頷いた。

 まるで我が子へそうするように。


「そなたが星子か。白星殿より、大まかには経緯を聞いている。それな小さな身で、さぞや辛かったであろうな」


 五馬の慈しむような声を聞き、星子の郷愁の念が寸時膨れ上がる。

 だが、こみ上げる涙を堪えると、気丈な言葉を返した。


「いえ。本当につらかったのは、無残にも滅ぼされた里のみんなです。生きのこった私はあまりにも無力。だからこそ、必ずや雪辱を晴らすことを誓い、白星にこの身を委ねたのです」


 凛とした星子の瞳の奥に、五馬は復讐に燃える焔をしかと見た。

 そしてそれは、五馬ら八十女にもくすぶっているものと同種だと確信する。


「なんとも見事な気概。それでこそ盟友となるに相応しい。我等が一族も、そなたと仇を同じくする身。共に合力し、怨敵を討ち果たそうぞ」


 五馬は音もなく立ち上がると、裾を引きつつ足を進め、白星と星子の元へ膝を下ろした。


「ここに三者の同盟が成ったと見て宜しいか?」

「……はい!」

「星子が良いなら、わしも異議はない」


 各々頷くのを見た五馬は立ち上がり、声高に宣言する。


「皆の者、聞いての通り。我等はここに協定を結ぶ。なれば、やる事はわかっておろうな」


 それを受けて、屋敷中から歓声が沸き上がり、茶室にどやどやと大人数が押し入って来たではないか。


「やると言ったら宴だ宴!」

「もらった食材で、ご馳走たんと作ったぞ!」

「酒もたんまりある! さあさ、みんなで祝杯だ!」


 阿佐をはじめとした子供らや、傷の浅い兵らも加わり、山盛りの料理と酒をどかどかと畳の上へ並べてゆく。


 がらんどうだった茶室は、あっという間に膳が居並ぶ宴の場と化した。


「ふむ。まことに杯で契りを交わす事になろうとはの。分かり易くてよい」

「で、あろう? 先日の戦勝祝いも兼ねているが。親睦を深めるには、何よりもまず酒宴よ」


 五馬は妖艶に笑むと、手ずから徳利を取って白星の側へ膝を進める。


「まずは一献いっこん

「うむ」


 持ち上げた杯に酒が満たされると、白星は一口だけ含み、五馬へその手を突き出した。


 五馬が意図を察すると、両手で杯を受け取り、上品な仕種で一口。


 そして最後に、星子の前へ杯が供えられた。


「ぬしらと友誼は結ぶ。そこには上も下もない。わしは好きなように動く。だが今回のように、道が交われば協力しようぞ。それで構わぬか」

「承知した。基本は不可侵。事あらば助力は惜しまぬと誓おう」


 事態が呑み込めぬ星子の目前で、とんとんと協定が固められてゆく。


「星子や。何を呆けておる。固めの杯ぞ。須佐の名代として、ぐいっといかんか」

「だ、だって、まだお酒は早いんじゃ……」


 尻込みして杯に手を付けていなかった星子に、白星が発破をかける。


「一口くらい構うまいて。それに、見てみい。土蜘蛛の子らは平気で呑みよるぞ」


 白星が顎をしゃくった先では、阿佐達が徳利を奪い合うようにして貪り呑んでいた。


「我等は元より毒に免疫がある。酒もまた然り。苦もなく呑めてこそ、一人前と見なすのだ」


 五馬も止めるでもなく眺めやると、再び星子に視線を戻して無言の圧力を加えた。


「う……じゃ、じゃあ一口だけ……」


 気圧された星子は、意を決して杯より酒気を取り上げ、一気に頬張った。


「んぐぅ……!?」


 喉が焼けるように熱を持ち、次いで胸がかっと熱くなる。

 初めて受ける衝撃に、霊体でも酔うのだろうか、などと悠長な考えが、星子の回る視界を横切った。


「かか。よい呑みっぷりぞ」


 白星の褒め言葉も、ぐらぐらとする意識で受け止めるのが精一杯。


「ふふ。原酒ではいささか刺激が過ぎたか。なれど、霊体であれば特に後を引く事はあるまい」


 確信犯だと言わんばかりに、袖で口元を隠して笑う五馬。


「これにて我等は杯で結ばれた。上下なしとする故、敢えて姉妹杯とは呼ばぬが。もはや絆と縁は、切っても切れぬ。やれ、めでたし」


 心浮き立った様子の五馬は、新しい杯二つへ酒を満たすと、白星へ片方を差し出した。


「さあ、形式ばった儀礼は終い。これよりは無礼講と行こうではないか」

「うむ。星子の分まで飲み干してくれようぞ」


 かつんと杯突き合せ、二人が乾杯の音頭を取ると、茶室全体が盛大に沸き立った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ