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逢魔が刻の一ツ星  作者: スズヤ ケイ
四 侵すもの
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五十 崩すもの

「かか。土蜘蛛達め。なかなか派手にやりよるわ」


 駐屯所の広場に潜み、作戦開始の狼煙を待っていた白星は楽し気に笑い、白鞘を抱いて暗がりから腰を上げた。


 山の傾斜に沿って建てられている駐屯所の麓側から、順繰りに建物がぐしゃぐしゃと地面に沈んでゆくのを眺めるのは、なかなかに爽快な図式であった。



 五馬が頼みにしていた増援は、日が変わる頃に到着した。


 昼に処刑された八田の盟友が、手勢を連れてやってきたのだ。


 中でも弟分を名乗る打猿うちざる国麿くにまろという二人は、八田にも負けず劣らずの巨躯を持ち、武勇を馳せた異形の猛者。

 姉貴分の訃報を知り、救援が間に合わなかった事への慟哭だけで洞穴が鳴動し、崩落しそうになるほどの剛力持った者達である。


 それらの戦力を加味して立てた作戦は、ごく単純、かつ荒っぽいものとなった。


 今白星が目にしているように、駐屯所を《《地下から》》直接攻撃しているのだ。


 五馬ら一派は事前の調べで捕虜の居場所、即ち地下牢の位置を把握しており、そこへ至るまでの地下通路を予め掘り進めていた。


 五馬の悔やんだ通り、八田の処刑にこそ間に合わなかったが、打猿と国麿の剛腕が掘削に加勢すると、瞬く間に目標地点まで通路が出来上がった。


 そして今まさに、地下牢の床を直下よりぶち抜いては、鹿島の看守共々地下へ引きずり込むという、なんとも豪快な捕虜奪還劇を繰り広げている。


 宴で気が緩んだところへ、予想だにしない方法で奇襲を受けた鹿島の兵は完全に浮足立ち、地下へ落ちただけで打ちどころ悪くして死ぬ者あれば、死は免れても、待ち構えた土蜘蛛に止めを刺され、一切の抵抗も出来ず仕舞い。


 捕虜達は衰弱している女子供とはいえ、それでも土蜘蛛の端くれ。落下の衝撃ごときでどうこうなるほどやわではない。


 縛を解かれ、動ける者は即座に走り出し、動けぬ者は同胞が担ぐ事で、引き潮が如くに退路へ向かう。


 捕虜全員の脱出が済むと、力を温存していた者達が合力し、とどめに建物の基礎を打ち壊して、多くの鹿島兵を崩落に巻き込んでみせた。


 まさに土蜘蛛の名の面目躍如といったところであろう。


 逃走経路の前には、巨大な土蜘蛛二つが立ち塞がり、鹿島の追撃を阻む。


「がっはははは!! 見たか、八田の姉御の一の子分、打猿と国麿が剛腕を!」

「だっはははは!! おれたち兄弟が殿しんがりだぁ! 姉御の弔いにひと暴れすっぞ! 死にたい奴からかかってこいやぁ!」


 地上にまで響き渡る啖呵が土蜘蛛らの士気を上げ、鹿島の混乱をさらに広げゆく。


 前門の土蜘蛛、後門の火事と崩落に挟まれ、指揮を欠いた兵らは右往左往するばかり。

 成す術もなく殴り砕かれ、千切り裂かれていった。



 一方、白星が視界を確保せんと、昼間に鹿島貞頼が登壇していた舞台へ立つと、一際大きな轟音を立てて、駐屯所の一部が吹き飛んだ。


「ほう。あの二人。よい仕事をしよるの」


 まさにそこは貞頼が自室。

 打猿と国麿による強烈な突き上げによって、地盤ごと宙に跳ね飛ばされた人影を、白星はしかと視界に捉えた。


 衝撃でばらばらに散りゆく部屋。障子。畳。壁。天井。土くれ。

 それらが放物線を描いて、駐屯所の広場へ次々と降り注ぐ。


 白星の目当ての人物は、月明かりを受けて黄金に光る鞘の持ち主。


 その者は意外にも機敏な動きで、宙を舞う瓦礫の間を飛び移ると、華麗とはいかぬまでも、受け身を取って地面へ転がり、衝撃を殺してみせた。


「ふむ。こやつもこやつで、存外やりおるわ」


 口の端をわずかに上げた白星の見据える先では、怒りに顔を歪ませた貞頼が、剣を支えにして今にも立ち上がろうとしていた。


 そしてまさにその足元には、白星が決戦に備えて用意した、蜘蛛の巣が張り巡らされている。


「おのれおのれ、下郎どもが!! 我等を……このおれを、誰かと知っての狼藉か! 帝が剣、鹿島が中将ぞ! 頭が高いわ、たわけぇ!!」


 怒り心頭といった様子の貞頼はすでに抜刀しており、その切っ先を舞台の上に立つ、泥まみれで小汚い少女へ向けて吠え猛った。


 白星は土蜘蛛に紛するために、敢えて再び汚れた格好に着替えていた。


 しかし此度は始めから手加減などする気は毛頭なく、手にした白鞘からは凄まじい妖気が溢れ出している。その異様なる存在感は隠しようがなかった。


 それに気付いた貞頼は瞬時に危険を察し、勢い任せに斬りかかろうとした己を律してみせた。


「……貴様、何者だ。ただの土蜘蛛ではないな。かようなおぞましき妖気、見た事もない」

「かか。さすがは音に聞こえし名将。勘がよいの。されど、冷静になってしもうたその隙こそが、ぬしの敗因となろう」

「なんだと……?」

「蜘蛛の糸は、すでに絡んでおる」


 不敵に笑う白星が、白鞘で舞台をこつんと叩くと同時。

 貞頼もまた、機先を制するべく剣を天へ掲げて叫んでいた。


「鳴神よ! れ!!」


 瞬間、夜闇を引き裂く閃光と轟きが、あまねく周囲を呑み込んでいった。


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