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逢魔が刻の一ツ星  作者: スズヤ ケイ
九 息吹くもの
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九十九 覆すもの

 息吹童子の猛攻は止まず、白星は徐々に後退を余儀なくされていた。


 しかし白鞘による巧みな防御と、舞うような足運びによって、未だ直撃は受けておらず、細かい衣の破片が周囲にばら撒かれるのみ。


 優位にいるというのに、攻めあぐねているのは息吹童子も同様であった。


「なかなか粘りなさる。ですが、その態勢からでは先のような大技はおろか、反撃すらままならぬでしょう。いい加減、諦めあそばせ」


 気勢を削ぐために降伏勧告をする息吹童子に、白星は不敵な笑みで返す。


「かか。どうかの。そろそろ目が慣れてきておるぞ。見切るのも時間の問題よ」


 その言葉がはったりでないことは、息吹童子にもわかっていることだろう。


「致し方ありませんね。それでは疾風の神髄、お見せすると致しましょうか」


 これ以上粘られては敵わぬと察した息吹童子は、両腕を交差させると、身の周囲に風を集め、腕を振り払ってそれらを解き放った。


 今までとは比べ物にならぬ暴風が吹き荒れると、たちまち太い竜巻となり、周囲の岩や樹々を巻き上げながら白星へ突進する。


「かか。速度を殺して威力を取ったか。それでは本末転倒であろ」


 白星は自由になった白鞘で素早く地面に五芒星を描くと、陣の真ん中へ鋭く踏み込んだ。


 すると白星の目前に巨大な岩盤が盛り上がり、荒れ狂う竜巻をがっしりと受け止めたではないか。


「いかに木気もくき鋭き疾風も、揺るがぬ土気どきを削るには時が要る。ぬしもわかっておろうが」

「──ええ。もちろん。ですのであれはただの囮です」


 白星の背後から声がしたかと思うと、同時に左胸を鋭い鉤爪が貫いていた。


 それは竜巻を繰り出した直後、神速をもって白星の背後を取った息吹童子のものであった。


「かっ……かか。よくぞわしに風穴を開けた。これは褒美よ。遠慮なく受け取れい」


 ごふっ、と口から血泡を吐きながらも、白星が笑う。

 直後、白星の胸にぱきぱきと凍気が集中し、己に開いた傷口ごと息吹童子の腕を氷漬けにして縫い止めた。


「なんと……!」

「そうれ。もう一つ」


 白星が言うが早いか、足止めをされた息吹童子の足元の地面が隆起し、鋭い槍と化して足から肩口まで息吹童子を貫いていた。


「くあ!」

「かか。これで手傷は五分といったところかの。いや、ぬしが抜け出せるまでやめはせぬが」


 白星が話している間にも、土槍は雨後のたけのこのごとく生え続け、息吹童子の身の至る所を串刺しにしてゆく。


 同時に腕を封じた氷の枷も、完全に息吹童子の動きを封じようと、手首より上まで侵食し始めた。


「妹相手に……情け容赦のないことでございます……ね……」

「忠告を聞かなんだはぬしよ。姉に逆らった罰、その身で知れい」

「……ああ……自由……私の風の如き自由が……」


 吐血と共にうわ言を発し、天を仰ぐ息吹童子。

 その気が充分に弱まったと見なした白星は、白鞘を構えて一言添える。


「案ずるな。ぬしはわしの中で生き、共に様々なものを見ようぞ」


 その後、凍り付いた息吹童子の腕を砕きつつ旋回し、抜刀する白星。



 しゃん──



 涼やかな音と共に白星が納刀してより数秒後、ぼとりと息吹童子の首が地に転がる。

 そして眩い光を発しながら全身が糸のように解け、白鞘に残らず吸い込まれて行った。


「かか。我が首ながら、美味であったわ」


 そう血まみれで恍惚と笑う白星の表情には、妹を手にかけた後悔など微塵も浮かんではいないのだった。

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