第89話 魔装修道女は坑道内に魔物の影を見る
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第89話 魔装修道女は坑道内に魔物の影を見る
妖精たちと別れ、私たちは先を急ぎます。確かに、森の中には多くのゴブリンらしき踏み跡が残されておりますが……残っているのは足跡だけという状況です。おかしいですわね。
「ゴブリン共がいれば、食い散らかした獣の死骸やがらくたのような道具のようなものも見受けられそうなものだが……」
「本当に何もないのです!」
「足跡の数からすれば異常だな。それに、これだけいるのなら、昼日中にその姿を見てもおかしくないが、全く見かけないのは腑に落ちん」
既に日は高く上がっております。森といってもシャティオンの周りは針葉樹が多く、日差しを遮るものはさほど多くありませんので明るい森と言えるでしょう。これが、薄暗ければ状況は違っていたかもしれません。
山の斜面にもそれなりのゴブリンの足跡が散見され、道が踏み固められております。足跡は古いものも新しいものも多く、ここ数日で現れたわけではなさそうです。
「この数であれば、シャティオンの街を襲ってもおかしくないだろうが、何故、現れないのだ?」
「会って聞いてみればいいのです」
「……ゴブリンに言葉は通じないぞ。それに、街に現れないことが役割なのではないか」
イーナの考え方が何となくわかります。
「イーナ様、それはどういう……」
「鉱山に近づけたくない、若しくは鉱山に侵入させたくないので坑道内にゴブリンを配置している。暗くなると境目が分かりにくいので一部が外に出て活動している……といったところではないでしょうか」
「ドラの言う通りだ。守護者として鉱山を守っている……この場合は占有という方が正しいか」
バレーノ領の鉱山を密かに占有している者がいるという事です。領主としては見過ごせませんでしょう。
「なら、コボルドの方がいいだろう」
虎髭土夫の言う通りですが……食料が必要であることを考えると、森で得ることができる素材では駐留させる数に限界があるのです。気が付かれないようにしながら、多数の魔物を派遣し鉱山を占有する魔物使い。果たして……魔物使いなのでしょうか。
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鉱山の入口が見えてきました。ゴブリンの巣となっている場合、見張がいる事が多いのですが、少なくとも出入り口の見える範囲にはおりません。
「ベネ、洞窟内の魔力走査をお願いします。私は、この周辺を少し探ってみます」
「了解なのです!!」
イーナを伴いベネが洞窟の入口前に近寄ります。私は周囲を一回りし、ゴブリンがいないかどうか魔力走査で確認しますが、やなりいないようです。
私の戻ってくるタイミングで、ベネ達も洞窟前の木立の中に戻って来ました。
「洞窟周辺に魔物はいないようです」
「……中にみっしりいるのです」
「数は?」
ベネは少し考えて「多分、百以上」と言います。恐らく、数は正確であるとすれば、その存在が何かを示しています。食事のいらないゴブリンなどいるわけがありません。
「アンデッドか」
「ゴブリンの……ですか? 聞いたことがありません」
「いや、我々はある」
「アイネに聞いたのです。まあ、自慢話がウザイのですが」
そうですわ、アイネがリリアル生達と王都とルーンの中間にあるガイア城で出会った魔物のアンデッド。確か、ゴブリンとオーガのアンデッドと戦ったと聞いております。
「なら、帝国の工作員か」
「可能性的には有りますわね。密かに占有し、然るべきタイミングで山師か『精錬』のできる錬金術師を派遣して魔銀を掠め取るつもりなのでしょう」
「……機会があれば、アンデッドのゴブリンにシャティオンを襲わせることはありえませんか?」
ルイジの懸念はそれが最大でしょうが、あまり考える必要はありません。
「大丈夫です」
「……理由を聞いてもよろしいでしょうか」
「ここで騒げば、討伐軍が派遣される。預かるのはバレーノ伯だが、サボア公国にとっても重要な戦略物資だからな。帝国が掠め取っているのを見逃すわけがない」
「なるほど。大人しくしているのは、準備が整うのを待っているわけですね」
ゴブリンが多数巣穴に潜んでいるのはそれが証拠でしょう。終わっていれば、いなくなっているはずです。
坑道の見える場所で私たちはこれからの方針について打ち合わせしております。
「討伐するべきです……」
「戦力がな。百のゴブリンを相手にこの人数では難しいだろう。それに、アンデッドかどうかもわからん」
私は一つの考えを提示します。
「坑道から出入りしている形跡はあるのですわね」
「ああ。真新しい足跡が中と外に向かうように残っている。蝙蝠のように、暗くなれば外に出て、明るい時間は坑道にひそむようにしているのだろう」
「であれば、落し穴を作りましょう」
「……出番なのです!!」
坑道の入口に半円形に深さ5mほど、幅3mの壕を掘ります。
「掘り下げた土はどうする?」
「その壕の外側に、土塁を築きます。これで明日の朝、壕にアンデッドゴブリンがいれば、そのまま埋めてしまいましょうか」
「いや、普通に討伐だろう。ドラが『雷』魔術で処理すれば安心だ」
なるほど……コスパが良いかもしれませんわね。良い練習になるでしょう。動く標的のアンデッドです。
「壕の部分は落し穴状にして複数作っておくと何度も落ちるのです」
『母、上の蓋は任せて』
土蜘蛛であれば、自分が隠れる巣穴の蓋を落し穴のように偽装して作りますわね。これはティナに任せましょう。
こうして、早々にベネとティナが落し穴と、坑道の入口を土塁で囲み街へと戻る事になるます。
途中に、古い崩れたボタ山が散見したので、いくつか打合せした『土塁』の素材をベネに作ってもらう事にしました。
「結構な数作れそうだな」
「……うう、ちょっと魔力切れになりそうなのです」
「魔法袋も限界があるので、このくらいで良いでしょう。お疲れ様ですベネ」
少々疲労気味のベネの様子に、ルイジが気遣います。
「ベネ様、大丈夫ですか。お疲れであれば私が背負います」
「……だ、大丈夫です。自分で歩けるのです!!」
「いや、ここは素直に担がれておけばいいのだが……」
「修道女的には駄目な気がしますイーナ様」
キアラ……一番まともですわね。勿論、肉親でもない男性が修道女に触れるのはNGです。
「ぬぅ、潤いがないではないかキアラ!!」
「潤ってはダメでしょうイーナ。修道女ですよ私たちは」
「まあ、そうだな。だめかぁー」
我が家の嫡子を狙うのは止めてくださいませ。
シャティオンに戻り、バレーノ伯に報告。魔銀鉱山にゴブリンの巣が形成されている可能性があり、本日罠を仕掛けたことを報告しました。
その上で、シャティオンを始め領内に「ゴブリンの巣が形成された可能性があるので、森に入らないように」とお触れを出してもらう事にしました。
「明日は坑道でゴブリン退治ですかぁ……キツイのです」
「そうだな。剣と盾、それと魔術で抑えるしかないな。前衛は私とドラ、中央にベネと御曹司、後方にキアラとセザール殿か」
剣の身体強化の上手なイーナと、攻勢魔術の雷が得意な私が前に出るのは当然でしょうか。
「ドラ様の『雷』で一掃です!」
「いや、雷は音が響くぞ。坑道内ではあまり使ってほしくないな」
「耳栓必須ですね。ご用意しますよ」
さて、内部がどうなっているのかはわかりませんが、慎重に坑道内の魔物を処理することができると良いのですが。不安ですわね。
これにて第八幕終了です。
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