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第08話 没落令嬢は妹ちゃんと顔合わせする

お読みいただきありがとうございます!

第08話 没落令嬢は妹ちゃんと顔合わせする


 リリアル――― 正式には『聖リリアル学院』というそうですわね。騎士団の駐屯地に大小の商店が敷地の外に並び、宿屋兼酒場らしきものも相応の大きさのものが建っております。


 また、水堀と土塁を有する構えの奥には、白い城館が建っておりとても男爵家のそれではありませんわね。


「ああ、ここは元々王妃様の別邸を借り受けているものだからね。その前は幾つかある王家の離宮、狩猟用のものだったみたいだよ」

「「「……」」」


 なるほど、この建物が素晴らしい理由が理解できましたわ。




 魔装馬車は城館の入口に停車し、入口前には幾人かの使用人が並んでおります。


「お待たせしました。妹ちゃんは御在宅かな」

「はい! 院長先生は執務室におられます。お待ちかねです」

「そう、ありがとう。お茶を人数分用意してもらえる?」

「畏まりました!!」


 赤毛の小柄な少女が元気よく去っていきます。使用人にしてはアイネと随分親し気ですわね。


「今の子、リリアルの騎士だよ。それに、『竜殺し』の一員だね」

「「「「……」」」」


 もう、リリアルで驚くことはないかもしれませんわね。




 三階の奥にある執務室とされる部屋に私たちは案内されました。


「失礼、お客様だよ」

「……姉さん、その方達なのかしら……新たな被害者は」

「うんそう……じゃなくって、協力者ね。まあ、似たようなものなんだけどさ」

「どうぞ、お入りください」


 アイネより幾分小柄で年下と思われる少女が私たちを中へと案内する。執務用の椅子から立ち上がり、応接用のテーブルに歩いてくる。


「初めまして、リリアル男爵です。王国では副元帥の職を賜り学院の院長を務めております。よろしくお願い致します」


 私たちは淑女然とした物腰と、柔らかい物言いに大いに驚きましたわ。女男爵は珍しくありませんが……王国副元帥という名称は……名誉職なのでしょうか。


 私たちは、それぞれ簡単に自己紹介し、暫くお世話になるという事で挨拶をする。


「……姉さん……聞いていないのだけれど……」

「え、そだっけ? サボア公領で修道女のスカウトをしたんだよ。今、ちょうどリリアルも二期生が入って教育中でしょ。この子達は少なくとも貴族の子女としての教育を受けているし、本物の『修道女』だからカバーもばっちりなんだよね。だから、あとは……」

「ええ、理解したわ。皆さんは同意の上なのかしら」

「バッチリだよね。ね!みんな!!」


 訝し気な目でアイネを見るリリアル男爵。いつもの事のように思われているようですわね。しかし、臨機応変な対応をして下さるようです。幸い、本館には空き部屋はないものの、敷地の外に新築された薬師・二期生用の寮には余裕があると言います。


「二人部屋になるのだけれど、大丈夫かしら?」


 私たちは勿論と答えます。何故なら、修道院はこの四人で一部屋の生活をしているからですわ。


「では、部屋に案内させるので、その後一緒にお昼でも如何でしょうか」

「いいね! お姉ちゃんもお腹ペコペコだよ」

「……姉さんは誘っていないわよ」

「えー そんな意地悪言わないの。ね!ね!」


 実の妹にもこの対応……というよりも、これがアイネの日常なのでしょう。大した荷物ではありませんが、私たちは寮に案内していただき、一息つく事が出来ました。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 修道院は一日二食なのですが、リリアルは育ち盛りの子供が多いという事もあり、三食食べるとのこと。魔力も体力も必要なので当然なのかもしれませんわね。


 ここでもやはり卵を使った料理が主です。


「アイネ、聞いてもよろしいかしら」

「なんでも聞いて!」

「あなたは卵に拘りでもあるのかと思ったのですわ」

「ああ、卵はお菓子作りに不可欠だからね。それで……」


 どうやら、ニース商会は鶏の卵を安定的に確保するために、王都近郊に複数の飼育場を確保しているそうです。鶏肉と卵はかなりしっかりした量を囲い込んでいると言えるでしょうか。


 鶏の肉は豚や牛ほど一羽から沢山取れませんが、それでも飼育する飼料を多く必要としませんわ。それに、薬草畑の雑草抜きは鶏たちの仕事となっているのだそうです。


「リリアルの薬草畑は薄めたポーションの失敗作を散布しているから、雑草もポーションの効果が少しあるんだよ。それを食べた鶏の卵だから、普通の卵より体にいいよ……たぶんね」


 贅沢な鶏ですわね。それで、卵を沢山産んでも健康なのですわ。それでも、メニュー的には修道院の食事とさほど変わりません。ですが、完全な白パンではなく、雑穀や少しカラス麦も混ざっているようです。


「パンが気になりますか」

「……ええ。何故、小麦以外の物を混ぜて食べているのですか?」


 リリアル男爵が私の様子に気が付いた様子で、話しかけてくださいます。曰く、「帝国の食文化を学ぶため」だそうですわ。確かに、トレノでも小麦が十分に確保できない村では小麦以外を加えます。年貢は小麦で収める必要がある為に、自分達が食べるに不足する分をそれ以外の穀物で補う為ですわね。パンを焼くために小麦を挽くにも税がかかりますから、そのまま粥にして食べる貧しい者たちもいるそうです。


 学院と称するだけあって、様々なことを学ぶのであると理解しました。


「まあ、それだけじゃないんだけどね。いまはそれで良いかもね」

「……姉さん、余計なことを言わないでちょうだい」

「はいはい。じゃあ、この後王妃様に挨拶に伺って、夕食にまた戻ってくる

からよろしくね」

「失礼のないように気を付けてちょうだいね」

「大丈夫だよ。全然大丈夫!!」


 今から緊張し始めましたわ。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 食事が終わり、私たちは王宮に向かう前に身支度を整えます。


「……何故私だけが騎士の装備なのだ」

「え、だってイーナちゃん、王宮で淑女らしく振舞う自信あるの?」

「「「……無理です(わ)ね……」」」

「む、失礼な。が、確かに淑女であるよりも騎士の真似事の方が安心であることは否定できない」


 リリアルの従騎士の予備の装備を借り受け、イーナは馭者台に座り護衛を務めることになります。そして……


「今日は私が馭者を務めます奥様」

「おお、セバス・チャンじゃない。妹ちゃんに邪魔者扱いされているのかな?」

「そんな分けねぇだろ!!……でございます奥様」


 少年のような小柄な体型ですが、どうやら歩人のようですわね。私は初めてお会いします。


「えーと、セバスは歩人で妹ちゃんの従者を務めているんだよ。まあ見た目は少年だけど、中身は中年のおっさんだから騙されちゃだめだぞ!」

「「「……え……」」」

「まあ、歩人は外見的に少年少女のようだが、普通におっさんおばさんが多いな」

「うるせぇよ……でございます騎士様」

「おい、最後だけ丁寧にすれば誤魔化せると思うなよおっさん」


 私たちをのせて、魔装馬車は王都に向かいます。




 王都までは僅か三十分ほどで到着します。王都の南門の手前には、要塞の如き石造りの建物が街道を抑えるように建設されています。アイネ曰く、騎士団の駐屯地を王都の中から移動させて、拠点を構築中なのだそうです。


「王都の外側にも防御拠点を設けないと、王都の城壁の中は限りがあるから、いま再開発の真っ最中だよ。でも、計画は完成してスケジュール通り進めるだけだから、我が子爵家の当面の仕事は終了。あとは今の人達で粛々と行うだけなんだよね」


 王都の内部にある共同墓地を移設して、跡地に『中等孤児院』……それはなんですの?


「孤児ってだけで、才能がある子供が商人や職人になれないじゃない? ギルドに入れる枠が決まっていて、新しい人間が増えなければ商品も改善されないし供給量も増えないからいつまでたっても高価で売り手市場の商売が成り立つわけで。そういうの、ぶち壊していく為にも孤児出身の商人や職人をはじめ、枠を増やして生産数を伸ばすんだよ。その為の販路を確保するのもニース商会の仕事。まあ、ギルドに喧嘩売ってるんだけど、ギルドの利権を守って王国が滅びるのは本末転倒だから。調子に乗っている都市とかは……叩けば埃が出るやつらを弾き出していくんだよ」


 そういうと、何年か前にルーン市が連合王国に協力して王国に不利益を与えていたことをアイネとリリアル男爵たちが暴いて、その後……ルーンの新市街を対岸に王国主体で建築したという話をしたのですわ。


 それで、最近すっかりルーン市は力を落したのですわね。王国と連合王国の貿易が減少したからかと思ってましたのに……


 初めて見る王都はトレノの十倍は大きな街であると感じました。城壁に続く街道沿いにも新市街が広がり、活気ある人々の生活からアイネの口から出てくる「今まで通りじゃだめだよね」という言葉に大いに頷かされるのでした。



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