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第06話 魔装侍女もはじめの一歩から

お読みいただきありがとうございます!

第06話 魔装侍女もはじめの一歩から


「あなたたちの目指す侍女は、只の侍女ではないわ」


 アイネが一呼吸おいて、重々しく言葉を紡ぐ。


――― 『魔装侍女』


 アイネ曰く、魔装を身に着け、徒手空拳においても騎士・高位冒険者に匹敵する能力を持つ最強の近衛なのだそうですわ。


「とても、恥ずかしい名称ですわね」

「うむ、なにか、この、迸る羞恥を感じるな」

「でも、只の侍女ではないと分からせるためには適切な表現では?」

「魔装と言えばリリアルの騎士達が有名ですので、リリアルの関係者であると伝わる事が良いか悪いかはこれからなのです!!」


 どや顔のアイネがイラっとするのが見て取れます。淑女失格ですわよ。


「いいじゃない? 派手な鎧なんて淑女が身に着けるのは恥ずかしいでしょ!ドレスの下には魔装のコルセットにファルシングエール(スカートの下着)を身に着けて、魔装の手袋に魔装のネットで髪をまとめて……魔力を十全に使いこなせれば、フルプレートの騎士にも負けない……むしろ優れた存在になるじゃない☆」


 騎士に対抗したいとは思わないが、身を盾に主を守るしかない侍女より、最後の砦であり、隠し球でもある魔装侍女は王国で大いに重用されるで有ろうことは容易に推測できますわね。


 高貴な女性の元に侍る事は、貴族の娘にとって一つの夢でもありましょう。魔術を持ち、魔力を身に纏わせることで魔装を生かせるという事も、魔力をもつ貴族の子女が、子に魔力を継承させる為だけの道具ではないと思えることも悪くありませんわ。


 何より……この体に宿る『才』を存分に生かせると思えば、この先の苦労など、何ほどの事もありましょう。それに……家に残してきた弟の力になれるかもしれません。不甲斐ない姉と思われるくらいなら、手を血に染めてでも家の、弟の役に立つことを選びたいのです。


 修道女として朽ち果てるよりは、ずっとましですわ。


『魔装侍女』の話は、その翌月の訪問の際に明かされたのです。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 私たち四人は、再び一ケ月後の再会を約束し、アイネと先代様と別れ、日々の仕事に戻ったのです。薬草畑を管理し、その薬草を元に、ポーションを作成するのですが……


「効果が今一だな」

「どう考えても効果が見られません」

「何がいけないのかわからないのです」


 恐らくは、魔力操作が荒いので、きちんとポーションの中に魔力が残らないのではないかと思われますわね。イーナは瞬間的な身体強化や魔力纏いは得意なようですが、時間をかけて少しずつ魔力を流すような魔力操作は苦手のようです。


 かえって、元々の魔力量の少ないリザに適性があるようなのですわ。私も……何度か失敗を繰り返しましたが、リザの魔力の流れを真似、何とか効果のあるポーションを作ることが出来ました。


 ベネは私と同程度の魔力量を持っている故に、操作が難しいようで、イーナ同様ポーションづくりを得意としておりません。今少し、魔力操作を練習し、長い時間少ない魔力を使い続けることに慣れる必要がありそうですわね。


「ベネは気配隠蔽をしたまま一日中過ごす事が課題ですわね」

「……な、なんでですか!! そんなの大変なのです」

「気配隠蔽が出来れば、立派に淑女として返り咲けますわよ」

「「「!!!」」」


 そうです。淑女というものは和を以て貴しとなす存在なのですわ。そこにいて自然に気遣いができ、押しつけがましくない存在でなくてはなりませんわ。


「確かに、目立たず気取られないという貴族に必要な能力ですわね」

「ああ、特に、高位貴族や王族の周りに侍るには必須だな」

「じ、侍女となるにもとても大切な気がするのです」

「少なくとも、夫人となった際に使用人や姑に嫌味を言われずに済むわ」

「「「なるほど……」」」


 実利で考えても必要な力ですわね。買い物する際にも、人に妨げられることなくゆっくりできるのですわ。


「だが、気が付かれないデメリットもあるのではないか」

「その場合、魔力操作を上手に行えば、相手に強い印象を与える事も出来ますわよ」

「魔力纏いも上手に使えば、そういう効果もあるな!」


 人ごみの中でも魔力纏い、一歩進めた『魔力壁』を展開する事で、知らぬ間に周りの人間を後ずさるように動かす事も出るのですわ。


「アイネに文句を言われるのは癪ですわ。皆さん、強い気持ちをもって毎日の修練を行いましょう」

「「「おう(なのです)!!」」」


 まんまと乗せられるようなのは癪なのですが、自分自身のためでもありますから、仕方ないのですわ。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 アイネとの出会いから三か月が経とうとしております。四人とも魔力操作と常時の気配隠蔽は既に習得済みであり、私たち四人が突然現れることから、『アリアの亡霊』などと陰で言う者もおります。


 とは言え、私たちの行うポーション作りは修道院に付属する救護院においてとても重宝され始めております。買えば貴族でさえ躊躇するほどの高価な品を、修道女が自分で作っているために気にせず処方することが出来ます。


 このままでは非常に危険な状態と考えられる重篤な患者に使用する事で、多くの人の命を救い、「神の加護」ということが出来るからですわね。流石に、教皇庁には気が付かれていないようですが、近隣ではアリア修道院の救護院に行けば助かるという評判は立ち始めているそうですわ。


 私たちは、今まで通りの日課を務めたのち、アイネから与えられた課題を各々が努めております。フレイル同士の稽古は危険であるので、イーナが『受け』を担当し、木剣で相手をしております。


 私を含め、今まで武器など扱った経験のない貴族の子女でも、短い棒を繋げた『フレイル』は操作が簡単で、剣と向き合うことも容易です。特に、ヘッドと呼ばれる先端部分を繋げる金具の所で屈折するので、剣で防いだつもりでも、相手に当たるのがとても面白いですわね。


「はあぁぁぁ!!」

「イデッ!! おい、ワザとではないのか」

「れ、練習なのです!!」

「ワザとだな……」


 イーナは身体強化をしたうえで革の小手を付けておりますので、怪我をする事はありませんが、面白がるのはどうかと思いますわね。




 そうしている間に時間は過ぎていき、再びアイネがやってまいります。


「みんな、お待ちかねの靴と手袋の支給です☆」


 四足の靴と二組の手袋を渡されました。手袋は肘の手前まである長いものと、手首と肘の中ほどまでのものとあります。


「短い方は日常遣い、長い方はドレス用かな。先ず、傷まないし魔力を通せばある程度回復するから、遠慮なく使いなさいね」

「えーと、いつも身に着けるってことですか?」

「そうだね。外出する時は必ずかな」


 身を守る道具として、常に着用するという事ですわね。


 私も含め、新しい靴を四足も一度に貰うのは初めての体験であるし、嬉しい。革が馴染むまで少し窮屈だが、それも新しさゆえの苦労。


「きつ過ぎるとかないかな?」

「フム、冒険者時代の長靴よりも良い出来だ。流石ニース商会か」

「固いです。これ、足に馴染ませるのが大変そうですぅ」

「最初は薄手の靴下で合わせて、革が馴染んだら厚手の物に変えるとかでいいんじゃない?」


 森に入るのに、やはり長靴の方が安心なので、皆うれしそうですわね。一通り不具合がないかどうかを確認すると、アイネは改まった調子で話を始めたのですわ。


「えへん、さて皆さんも魔力操作が板についてきたと思います」

「勿論だ。今では丸一日気配を消す事も可能だ」

「おかげで亡霊扱いなのです」

「魔力も少しずつ増えてきたので、ポーション作りも順調です」


 アイネはうんうんと頷いた後、新しい予定を発表しますと言葉を繋げる。


「魔装馬車をみんなで操って王都に向かいます!!」

「……王都?」

「なんでですかぁ!!」

「長旅になりそうですわね」


 ここから王国に至り王都に入るには天候にもよるでしょうが三週間から一月はかかるのではないでしょうか。それだけの時間を掛け、王都に向かう理由を知りたいものですわね。


 私は皆の気持ちを代表して、王都に向かう理由を問いただすと、アイネは「修学旅行?」などととぼけた答えを返してくる。


「サボア公国も王国の友邦であるし、王都に行ってみる機会があれば、早いうちに見せておきたいんだよね。商会の王都本店とか……王宮とか」

「……王宮?」

「そうそう。王妃様と王女殿下にご挨拶して、その上でリリアル学院に短期留学だね。リリアル学院は王妃様の管掌だから、事前にご挨拶しないと不味いじゃない?」


 王国の王妃様とお会いする機会を得るというのは、稀有な体験となりそうですわね。それだけが理由ではないのでしょう。


「そうだよ。一つはフィナンシェの作り方を覚えてもらうのと、もう一つは生のリリアルを体験してもらって、これから何をするのかが具体的に想像できるようになってもらう事かな」


 リリアル学院にはニース商会が関わる様々な設備や作業が存在しているのだそうですわ。私たちは、彼の学院と同じことを修道院で行う事を求められているのだそうです。


 今までの事を振り返ると、この王都行きにつなげるための様々な布石であったことを四人は理解したのです。




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