第48話 魔装修道女は鍍金の方法を土夫に提案する
第48話 魔装修道女は鍍金の方法を土夫に提案する。
ベネが提案する「アルカリ」に魔銀を溶かして鍍金する方法をセザール師はご存じなかったようで、詳しく説明する事になります。
「溶液が収まるガラスの容器が必要なのです」
魔銀鍍金の方法はいくつかあるのですが、リリアルで用いている魔銀を加熱した溶解液に漬けるには、いまこの地では魔銀の素材不足なのだそうです。リリアルはお金持ちですから素材の確保も十分故に可能なのでしょう。
「なので、アルカリの液に魔銀を溶かして武具をその溶液に漬けて析出させる方法をとるのです」
この場合、鍍金の厚みはさほど厚くないので素材は少なくて済む分、層は薄くなるので、耐久性はあまり期待できないと言います。
「剣ではないからそこまで細かく無くても大丈夫だとは思う。雑に扱えばどんな武具も長持ちはしないしな。メイスや槍の穂先のようなものであれば、これで十分だろう」
あくまでも消耗品として割り切れるならこの方法で作る薄い鍍金でも効果は十分なのだそうです。
「ハルバードのスピアヘッドにだけ鍍金を施すとか効果的かも知れぬ」
「ボクも……魔力……鍛えないとですね」
魔力を鍛える為には、日ごろから限界まで魔力を使い続け自分の魔力容量を増やす以外にはありません。そういう意味でも、元は土精霊の祖を持つ土夫は鍛冶を通じて魔力を行使するので、身体強化や付与系の魔術を使う事がかなり上手であると言われます。
また、一段落ちますが、狼の死霊と土精霊ノームが結びつき生まれるコボルドも身体強化や付与の魔術が得意とされています。ゴブリンが悪霊との融合で完全に邪悪な存在となっている事と比べると、コボルドは悪意ある存在ですが、邪悪とまでは行かず、精霊・妖精同様交渉したり、関係を結ぶことも可能のようです。
「魔力が多いに越したことはないが、ただ増やしても制御が難しくなるだけだからな。日々の鍛錬や仕事を通じて着実に伸ばすことだ。何なら、『騎士になるために精進します』……そうか……断念したら鍛冶師も悪くないぞ坊主」
「お、女の子ですよボクは!! 女子修道会だって言ってるじゃないですか!!」
十二歳は最後のツルペタ許容の年齢。この後は、どんどん差が発生して言い訳できなくなるのですわキアラ。
一先ず、アイネが持ち込んだフレイルの一部をアルカリ溶解で鍍金して頂くことになりました。しかしながら、量を鍍金するには魔銀が不足しているといいます。
「この山には魔銀鉱山もあったはず。何か事情があるの?」
アイネが率直に問いただすと、虎髭土夫は「坑道に魔物が住み着いて、今調査中なのだ」と伝えてきます。
「魔物……コボルドでしょうか」
「いや、それ以上に困難だ。何しろ、一人を残して調査隊は全滅した。コボルドならそんなことは起こらない。大蜘蛛が発生している」
蜘蛛の魔物ということでしょうか。大きさは狼ほどの大きさですが、狼と同じサイズの蜘蛛は殻も強度が高く、毒を持ち、場合によっては糸を使って絡めとろうとするのだと言います。
「数は百、千?」
「……そんなにいたら、この街の住人はとっくに全滅しているだろう。多くても十程度だ……今のところ」
「今のところ?」
虎髭土夫曰く、「蜘蛛は沢山子を産む。そいつらが山に溢れ出してきたきたならば、大変なことになる」というのですわ。
「大公殿下に討伐のお願いはしているのですか?」
「代官には何度も伝えておるよ評議会がな。しかしながら、今のところなしのつぶてだ」
私たちはアイネに目を向けると……わざとらしく口笛を吹きつつ、目が泳いでおりますわね……アイネ!!
「では、魔銀鉱を手に入れることができれば、対応していただけますでしょうか」
「それは当然だ。街では懸賞金も掛かっているから、その分含めて武器を揃える代金は十分お釣りがくると思う」
セザール師の言葉を聞き、更に合点がいきます。
「はぁー 嵌められたのです!!」
「うん、嵌っちゃったね☆」
「おまえも参加するのだぞアイネ!!」
アイネはにこやかに「勿論だよ☆」と答えたのですわ。
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魔銀鉱山はビオラの街から西に少し離れた山裾にあるのですわ。場所を確認し、今回はアイネ達を含めた六人で蜘蛛の巣払いをする予定です。
「蜘蛛っていっても土蜘蛛の類だから。巣は地面に蓋のようになっている感じ?」
穴に蜘蛛の糸で作った蓋をして、こっそり隠れて近寄った獲物に飛び掛かるタイプですね。
「かなり堅いのだろうか」
「剣で斬りつけるのは止めた方が良いと思います」
「経験あり?」
キアラの言葉にアイネが問いかけると「冒険者の方の体験談を聞きました」
という。どうやら、キアラの父親である騎士は冒険者を逗留させ経験談を聞くのが好きであったという。膝の上で聞いた話だと少々恥ずかしそうに答えたのですわ。
「羨ましい限りだな」
「いいお父様なのです!!」
イーナの父親は戦場での傷が元で寝込みがちであり、ベネの父親は……あれであるから、羨ましいのですわね。
「お膝は基本だよね」
「アイネもしてもらっていたのですか?」
「妹ちゃんを座らせてよく二人でお話したよ、小さい頃ね。可愛かったよー」
「「「……」」」
それは必要ないお話ですわね。私とイーナは常の魔銀鍍金を施した鉈剣ベイダナを装備し、狭いところですのでバックラーも用意します。
「ボクはトーチと盾とウォーピーックを持っていきます」
「悪くない選択だと思う。ベネは短銃とトーチだな」
「私は……これだね!」
魔銀鍍金を施されたとても殺傷能力の高そうなメイスですわねアイネ。アンヌさんは魔銀鍍金の施されたバルディッシュを持ち込むようです。場合によっては長柄が必要な場面もあるかも知れません。
「天井に巣とか……気が付きにくいよね」
「そこで、練習した魔力走査をつかうのです!」
私とベネは魔力走査を随分と練習しました。恐らく、アイネは十全に使えると思われますが、彼女の性格的に素直に指摘するとも思えません。
「それじゃあ、明日の朝、早速攻めてみよう!!」
「……アイネ、私が団長ですのよ。オブザーバーは出しゃばるものではありませんわ」
「はっ! そうだねー。いやー明日は楽しみだよー」
装備の不足分を街の武具屋で補充し、トーチを使う事を考え、厚手の革手袋を魔装手袋の上に重ねることにしました。それと、幾つかのザイルやピッケルに麻袋なども用意し素材採取のために用意します。
「イーナは冒険者時代に、洞窟のような場所で討伐依頼を受けたことはありますか?」
「コボルドの占有する鉱山ならあるが、蜘蛛は鉱山以外も含めて初めての経験だ。今回相手をするのは『タレスティナ』だろうから、麻痺毒の対策も必要だろうな」
タレスティナとは、土蜘蛛の魔物で当然肉食です。ゴブリンやコボルド、野生動物を捕食し、時に人間もその対象となるのだそうです。
「麻痺毒だが、意識障害をもたらしたり幻覚を見せる効果もあるというな」
「希少素材なので、出来れば燃やしたくないのです!!」
「燃やさないの大変じゃない?」
「坑道内は火気厳禁なのです!!」
燃える気体や鉱物が存在した場合、鉱脈に沿って火事が進むため、何年も山が燃え続ける事もあると言います。大きなトラブルになります。
「油撒いて火をつけるパティーンが使えないじゃない!」
「私たちも呼吸ができなくなって死ぬからな。絶対やめろよアイネ、フリじゃ無いからな、絶対やめろ」
アイネが「えーどーしてー」とばかりに首をかしげて腹立たしいですわね。
「狭いところで毒を持っている魔物と対峙するので、先ずは安全第一で。それと、火を使うのは坑道内では控えましょう。それと、毒袋は素材として回収するつもりで、あまり胴体をいじらないようにしましょう」
「それと、お尻の蜘蛛の糸を作る部位も確保するのです!」
「「「おー!!」」」
先ずは坑道内の魔物の排除、その上で、魔銀を始め鉱物を採取し、持ち帰る事が明日の課題ですわね。
「魔銀鉱はどの程度回収すれば十分な量になるのでしょうベネ」
念のために私は確認します。余分に採取用の麻袋が必要になるかもしれません。
ところが、ベネがとんでもない事を言い出しました。
「魔銀鉱から魔銀は土魔術で精錬できるので、特に問題ないのです。お手軽楽々探索なのです!!」
ベネ、そういう話は先ほどの買い物の前に言ってくださいませ。




