第46話 魔装修道女は新しいメンバーを受け入れる
第46話 魔装修道女は新しいメンバーを受け入れる
ジャコモ夫妻が聖エゼルに来て下さり、私たちの生活も随分と変化しております。
家政婦という使用人の中の最高位、全ての家事に精通している夫人がいるだけで、あか抜けない修道院が宮殿の一部のように感じることができます。
調度や身に着ける物に関しても、相応しい物をトレノの商人から手配して貰っているそうです。修道服だけでは今後は困る場合がございますわね。
「ドラ様、それでは行って参ります」
「よろしくお願いしますね」
昼の間、マリーアさんは施療院の一角で手習いの場を設けています。教会などで牧師や司祭様が子供に読み書きを教えるのですが、それなりに寄付も必要です。ここでは、読み書きを教えるとともに、施療院の手伝いをさせて使用人教育のような事もしております。
ですので、農業の手伝いのない時間、十歳前後の女の子が集まって来ています。施療院で仕事をして読み書きと使用人の教育を受けるという内容は村の年若い女の子に人気があるようです。
「街は楽しそうですから」
「街の人と結婚したい!!」
村の生活は確かに大変ですもの、でも、女の子が皆街に出て行っては村が困るでしょう。
「若い時に一時働いて、村に戻って結婚するんですぅ」
自分自身で働いて結納を貯めて村に戻るということなのですわ。
施療院で村娘たちと交流があるダリラがそう教えてくれます。ダリラは勿論ですが、キアラも仲良くなっています。ダリラは街の生活について話すので人気者だそうですが、キアラは「騎士様ッポイ」という理由で人気があります。
紳士的? ということなのでしょうか。女の子ですけどね。粗野な村の少年と比べて言葉遣いも丁寧ですし、キリっとした表情が少年に見えなくもありません。ジャコモ氏の提案で、私の仕事の助手を二人の修道女見習を交互に当てることにしたのです。今日はダリラが助手ですわ。
「男爵の部下である兵士達への不満は出ていませんか」
「大丈夫みたいです。領村にも兵士になりたい人が何人かいるみたいで、村長が相談したいって言いだしているそうですぅ」
この話は、村の老人から聞いたそうです。目の届く範囲で傭兵をしてくれるのであれば、働かせてほしいと思う人がいるのでしょう。
今のところ、騎士団として活動する具体的な内容が定まっておりませんので、希望者に門番や見張番を任せながら、訓練や人となりを見ていくことが必要だと思われます。
馬番や施療院での力仕事も必要でしょうか。
「いきなり兵士というのは難しいですから、門番や見張番などで考えましょう。門番に地元の人間がいる方が、不審者も近寄りにくいでしょうから」
希望者を訪ね何人か候補を寄越してもらいましょう。
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「……それはそうですわね」
「でしょ? これからは馴染みの武具屋も地元で見繕わないとね」
アイネ、暇なのでしょうか。いえ、そうではありませんわね。今日アイネが尋ねてきた理由は『聖エゼル騎士団』として、それなりの武具を整える事を考えると、トレノ近郊で誂えて貰える鍛冶師を見つける必要があるという問題提起なのですわ。
「トレノでは不味いのか」
「不味くはないでしょうが、情報が漏れやすくなりますね。方伯派の手が入りにくい場所が好ましいのでは?」
「それなら鉱山街の『ビオラ』が良いのです!!」
アイネはベネの提案に賛同する。懐から出された一枚の書状、見たことのない文字で書かれておりますわね。
「これ、リリアルの鍛冶師のお爺ちゃんにもらった紹介状。ビオラの街って鉱山の麓にできた街でさ、鍛冶師が沢山いるんだけど、その中にいる弟子の土夫を紹介してもらった。なんか、髭がすごいらしいんだよ、腕は『半人前』と言ってたけど、王都近郊にはあの人の技術を残す鍛冶師がいないから、弟子の中では一番手みたいだよ」
「それは楽しみなのです!」
あの癖毛の少年の師匠である老土夫の鍛冶師。魔銀製の武器を扱うのであれば、土夫の方に委ねるしかありません。補修や改修もお願いできるのであれば、近くの優れた鍛冶師に頼みたいものです。
「それで、この後、ビオラへGo! だよ」
「……いきなりは無理ですわ」
「私が残りますので、皆さんで行かれたら良いです。魔装銃は持ちこめないでしょうから、私とダリラが残ります」
事務方の仕事を任せられるリザと、商人の娘のダリラが居れば、日常の仕事は問題なく運営できるでしょう。施療院に関してもですわね。代わりに、キアラをイーナの助手として連れて行くことにします。キアラも従士としての装備は整えたいものです。
「それと、今回、馬車を入れ替えようと思ってね」
「……何故ですの?」
アイネ曰く、前回の襲撃の話を聞き、客室の床下から外に出る為の出口を増設しようと思ったのだといいます。得意げに馬車に案内すると、客室の床が内開きに開きます。大きさは50㎝四方ほどでしょうか。
「これはカッコいいのです!」
「でしょぉー 外からだと出入口が開くのは丸見えだから、出るに出れない状況というのもあり得るよね。床下から忍び出て、気配隠蔽して奇襲とか、床下から馬車の下に潜り込んで魔装銃で狙撃とか色々できるよね」
「「「なるほど(ですわね)」」」
リリアルでは魔物の討伐が主な対応であったので、馬車で移動中に大勢に囲まれるという経験は今のところ発生していないので必要を感じていなかったようですが、私たちの置かれた環境を考えると前回が最後ということはないでしょう。
「あまり色々考えるとコスト倒れになるから、馬車はそれほど手を加えるつもりはないけれど、このくらいはいいかなって」
「天井も開くようにできませんか」
「……雨漏りするよ多分……」
床は井桁構造の土台の上にあるのでそこまで開口部を設けても客室の強度は弱まらないのですが、天井部分は箱としての強度を弱めるのでお勧めではないのだそうです。
「リリアルではどうしているのでしょうか」
「あー あそこは荷馬車を魔装布で覆って魔力流すタイプだから、箱馬車は使わないんだよ。だから、天井もなにもないね」
王国の騎士と叙せられているとはいえ、日々の活動が冒険者寄りである事を考えると、確かに箱馬車は使い勝手が悪そうですわね。
「兎馬車の多数使いが多いからね。魔法の袋を使って物資も運ぶから、粗食で長時間移動可能な兎馬の方があの子達には向いてるんだよ」
兎馬車は勿論簡素な幌を付ける程度の二輪の軽装馬車ですから、床も天井もありません。
その数日後、私たちは数日間ビオラに滞在する為に、事前準備を行い、馬車で移動することになりました。今回は、アイネは側仕えの女性を連れてきております。流石に、商会頭夫人として周りに認識される為にも、使用人を連れて行くことにしたようですわ。
「この子はアンヌ、王都生まれの王都育ち。私が結婚して商会に関わった頃からずっと付き合ってくれているんだよ」
「それは災難だったな」
「かわいそうなのです……」
アイネ、ムキィーではありませんわよ。アンヌさんは私たちと同世代の若い女性で、少し顔色が悪いくらいの色白な薄幸そうな女性です。
「妹ちゃんとも面識あるんだよ。色々連れて旅を共にしたこともあるしね」
「……大変でしたわね。心中お察ししますわ」
「だ・か・ら そういう無茶振りとかしていないから。良い主人だから私」
「たぶん、基準が間違っているぞアイネ。帝国の冒険者なら間違いなくお前の側仕えは星三級の依頼だろう」
えーそうかな、照れちゃうな……ではありません! 一流冒険者並みの能力を持つ使用人ということでしょうか。確かに強者の気配、アイネの横に並んでもなんら気負いを感じません。
「リリアルの一期生のがきんちょ並だと思うから、安心していいよ」
「全然安心できないのです!!」
「全員ドラゴンスレイヤーだろあの子達……」
アンヌさんの能力は未知数ですが、アイネが長く傍に置いているのですから、私たちが心配する必要がないほど優秀なのでしょう。
箱馬車の馭者台には訓練を兼ねてイーナとキアラが乗ります。客室には私とベネ、アイネとアンヌさんです。
「では、出発します」
「少し普通の馬車と勝手が違うからな。魔力を手綱に少し流すと重さが軽減される。そうしたら、合図をして馬をゆっくりと歩かせるんだ」
「は、はい!」
キアラは最近判明したのですが……一人称が「ボク」なのですわ。どうやら、騎士の従卒見習をさせてもらっていた時に、そう名乗るようになってからの癖のようで、気を抜くと「ボク」と言ってしまうようです。
あまり厳しく言うつもりはありませんので、公の場以外での「ボク」という一人称を使う事は黙認しております。因みに、ダリラは「あたし」と言うようです。団長である私の前では控えているようですが、良く仕事を手伝うリザやベネとの会話ではそういう事が多いそうですわ。ええ、全く全然これっぽっちも疎外感など感じておりません。
これにて第五幕終了です。
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本作とリンクしているリリアルが舞台のお話です。
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/
また、帝国側の冒険者の前日譚。50年程前の時間軸のお話。完結済み。本作後半で登場します。
幼馴染の勇者に婚約破棄され、村を追い出された私は自分探しの旅に出る~ 『灰色乙女の流離譚』
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