第41話 魔装修道女は傭兵たちと踊る
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第41話 魔装修道女は傭兵たちと踊る
わざとらしい悲鳴を上げ、馭者の男が逃げ出しましたわ。日暮れ近くの街道ではありますが、こうも領内に怪しい一団は現れるというのは、公国として問題がございます。
騎士団とリリアルがいる王国では王都圏でこのようなことが起こる可能性すら今はないでしょう。必ず死ぬと書いて『必殺』……賊は遅かれ早かれ死にますわ。トレノでは……見逃されているのか見ないふりをしているのかわかりませんが、これからはそうは参りませんわよ。
「では、騎士団としての最初の仕事を始めましょう。リザ、馬車の上に伏せて見えた敵から狙撃をお願いします」
「承りました団長」
魔装銃を片手に馬車を飛び出そうとするリザを呼び留めます。
「これもお持ちになって」
「……助かります。近いと狙い辛いのです」
短銃を渡すと、リザはニッと笑って答えます。イーナもベネに自らの短銃を渡します。
「私は馬車を守れば良いのですね! ぐるっと土壁で囲ってしまうのです」
「ダメだろ。その壁を足掛かりに馬車の上のリザが襲われかねないし、周りの様子がお前に確認できなくなる。
私は馭者台の高さの土壁を築き、尚且つその手前を掘り下げるように指示をします。これならば、乗り越えたとしても同じ分だけ土を掘り下げておりますので、障害となりますしベネの魔力も少なくて済みはずですわ。
「馭者台で手綱を握るだけの簡単な仕事だな」
「魔装のマントと頭巾を装備して、魔力を流し続けること。十分ほどで決着が付くはずです。くれぐれも油断と容赦をしないように」
「はは、任せておけ!!」
「イーナと団長は不殺でしょうが。何を聞いていたんですか」
護衛で賊に襲われた場合、余程の戦力差がない限り生け捕りは考えない冒険者の意識が抜けないようですわねイーナ。
私たちは馬車の客室を飛び出すと、それぞれの役割を果たすことになるのですわ。
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叙任式の翌日、遅めの朝食を頂き、私たちは修道院へと戻る事になります。殿下は既に執務につかれているので、私たちはお別れの挨拶をし城塞を後にする事になるのですが、帰りはアイネが用意した『聖エゼル』の紋章入りの箱馬車で戻ります。
「地味だな……」
「貧乏な感じなのです」
「貸箱馬車のようです。一番低い等級の」
「いいでしょ! そもそも、修道士が派手な馬車とかのっちゃダメなんだからね!」
司教様のような高位聖職者はそれなりの装飾の施された君主の如き馬車に乗られているようですが、修道院の馬車は簡素なものですわね。
「これは一見地味ですが、実は魔装馬車仕様です」
アイネ曰く、王妃殿下がお乗りになる馬車の簡易版だそうです。フレームと車軸に魔装鍍金製の物を使い、客室の壁は本来魔装布をサンドイッチ状に挟み仕上げるのですが、それでは高価なものになるので、魔装鍍金の針金で網目状に組んだものを挟み込んでいるそうですわ。
「馭者台の手綱か客室の席で魔力を流せば、車軸とフレームに魔力が流れて兎馬車と同じように乗り心地と抵抗が大きく変わるよ。馬だから最高速はかなりの速度になるだろうね。我に追いつく敵なしってところだね!」
二輪馬車で王妃様が王女様をのせて爆走したというお話を聞いた覚えがございますね。
「布だと弾丸も矢も防げるけれど、魔装網だと完全じゃないんだよね。とは言え、耐久性や魔力を通さないときの強度は上がるから悪くないと思うよ。丈夫で長持ちに全振りかな」
ですが、帰りは雇った馭者に魔力はありませんでしょうし、魔力を流すことは教えませんので関係ありませんわね。
「聖エゼルの紋章入りか……いいな」
「これはカッコいいのです。胸を張れるのです!!」
白地の盾に緑の三角を四枚クローバーの葉のように並べた紋章は、私たちの騎士団のものです。これは素晴らしい物ですわね。
「地味派手っていうのかな。見えないところに金をかけているというのも、修道騎士っぽいでしょ? どうかな、気に入ってもらえたら嬉しいんだけど」
「勿論ですわアイネ。あなた方の心遣いには感謝いたします」
「うんうん、トレノの街を出たら危険がいっぱいだからね。その為にも、これを使ってもらおうかな」
アイネは「二人分だけしか用意できなかったんだ」と言いつつ、私とイーナに魔装糸で編まれたであろう『カルソン』ですわね。これを修道服の下に着るということでしょうか。
「温かそうな毛糸のおパンツなのです!!」
「まあ、野営は腹に来るからな」
「違うよ、太ももから下腹部まではそれで守れるようにって事だよ。お腹が冷えるなら、毛糸の腹巻をすればいいじゃない」
前衛の場合、太もも辺りを攻撃された場合、守りきれませんわね。剣を突き立てられたり至近距離から銃撃された場合、致命的なダメージとなり兼ねません。足が止まるなり、太ももの血管が傷つけばあっという間に戦闘力を失いますわね。
「アイネ、ありがたく使わせてもらいます」
「うんうん、あと、乗り心地の悪い馬車の時は、魔力を通すとクッション性が増すから魔力に余裕があるドーラちゃんにはお奨めだね。イーナちゃんも魔力を増やす為には常に流しておくことも良いかもね」
「ああ、お腹が温かそうだからな」
「アイネさん!! 私も欲しいのです。リザの分もです!!」
アイネは「つぎ来るときには渡せるように頑張るよー」と言って去っていきましたわ。馬車にカルソン……方伯派は私たちが目障りで、早急に処置するつもりで昨夜から動き始めたのでしょう。アイネの心遣いに感謝いたしますわ。
「無事に帰れると良いのだがな」
「イーナ、何だかウキウキしていますね」
「いいところ見せたいのです!! 聖エゼル初陣が近いのです!!」
全員ヤル気満々ですわね。ですが、今回は……生かして返しますわよ。精々、危機感を募らせて派手に動いてもらいたいものです。
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馬車を包囲するように凡そ二十人ほどの傭兵が辺りに潜んでいるようです。姿を見せている者はそのうちの半分。恐らく、魔力を持っている者が指揮官……騎士か貴族崩れなのでしょう。魔力を感じますわ。
「これはこれは、修道女の皆さん。大人しく捕まってもらえれば命は保証致しますよ。無駄な抵抗は止めていただけると助かるのですが」
フェイスガードを上げた騎士風の全身鎧を身に着けた男が投降を呼びかけて参りますが、恐らくは油断をさせるための虚言でしょう。
「面白い事をおっしゃいますわね。聖女騎士が盗賊に屈するなどあってはならない事ですわ。どうしてもというのなら、力尽くでどうぞ。命の保証は致しかねますが、覚悟の上ですわよね。私たちは強いですわよ」
団長としてこの程度の事は言わねばならないでしょう。舌打ちをすると、周りの傭兵らしき男たちが剣を抜き、槍を構え前進してきます。
私とイーナはゆっくりと互いに距離を取りながら前進します。相手も二手に別れ、そして、背後からも同数の者たちが馬車に近づくようです。
パン!! パン!! パン!!
馬車の上から小さな破裂音が一定間隔で繰り返されます。馬車の屋根の上に伏せ黒っぽいフード付きの外套を着たリザが魔装銃で後方の傭兵を狙撃しているようです。
「ギャ!!」
「いてぇいてぇ!!」
「なっ、早い!!」
「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の胸壁を築き給え……『土壁』なのです!!」
「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の牢獄を築き給え……『土牢』なのです!!」
そして馬車の周りは1m程の高さの土塁がぐるりと取り囲みます。馬車の半分ほどが隠れ、馭者台に蹲るベネがサムズアップしておりますわ。狙われますわよ。
土魔術の発動と、魔装銃の速射に傭兵達が動揺します。これは……頂きですわ。
気配隠蔽と魔力による身体強化、そして、魔装鍍金を施した鉈剣『ベイダナ』を握り、目の前で動揺を隠せない傭兵の一人に剣を叩きつけます。
「ガっ!!」
はっ、失敗しましたわ。魔銀鍍金の施された峰の部分で胴を払ったことろ、胴が寸断されてしまい、上半身と下半身が泣き別れです。剣を切るか、腕を打つべきでしたわね。
「はっ、良いぞ団長!! バッサバッサと切り払ってくれるわ!!」
そ、そうではありませんわイーナ。ミスです!! ミスなのですわ!!次々に倒れる傭兵、嬉々として剣を振るうイーナは冒険者向きなのですわね。どうやら、峰だけに魔銀鍍金していただいたのだと思っておりましたが、剣先まで鍍金されているようです。
つまり……
「がっ、なんでプレートが!!」
魔銀に魔力を通せば、薄い板金程度貫通するのですわ。鎧の上から太ももや手首を剣が突き刺すを目にした傭兵達は、一段と激しく動揺したようです。
ここで、先ほど口上を述べた騎士がズイと前に出て参りました。そうでなければ、他の傭兵達が逃げ出してしまいそうですものね。
これにて第四幕終了です。
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本作とリンクしているリリアルが舞台のお話です。
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/
また、帝国側の冒険者の前日譚。50年程前の時間軸のお話。完結済み。本作後半で登場します。
幼馴染の勇者に婚約破棄され、村を追い出された私は自分探しの旅に出る~ 『灰色乙女の流離譚』
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