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『聖エゼル奇譚』修道院に送られた令嬢達の成上がり【完結】   作者: ペルスネージュ
第四幕 『魔装修道女はトレノに降り立つ』
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第33話 魔装修道女は男爵と対決する

お読みいただきありがとうございます!

第33話 魔装修道女は男爵と対決する


 私とリザとベネが家名を名乗ると、全員が自分の家よりも上の爵位を持つ家の子女であると理解し、一旦男爵の勢いが弱まります。


「これはご丁寧に、私がヴェント男爵だ。して、皆様は我が家に何用でお越しになられたのか」

「ほほほ、男爵閣下。私たちの同僚の修道女騎士が呼びつけられたので、ついでのご挨拶ですわ」

「ほぉ、ではアンドレイーナの妄言ではないのか。修道騎士に叙されると言うのは。何をしてそのような地位をせしめたのだアンドレイーナ!!」


 せしめたわけではございません。やむに已まれぬ……強いて言えばアイネの策略ですわね。ですが、悪くはありません。


「叙任の際にご紹介とご説明はあるかと思いますわ。先般、教皇猊下から聖エゼル騎士団を大公殿下が拝領しましたの。その中で、私たちが武勲を立てたので騎士に叙され、修道『女』騎士として聖エゼルを任される事に為しましたのよ」

「……信じられん……何かの間違えではないのか」


 ええ、間違えであればよろしかったのでしょうが、正真正銘の事実です。アイネのニヤニヤが留まるところを知りません。とても腹立たしいですわ。


「イーナ、このサーコートを纏いなさい」

「おお、そういえばそうだな。兄上、これが聖エゼルの騎士である証明だ」


 サーコートは鎧や正装の上に纏い、己の存在を告知する『旗』のようなものですわね。白地に緑の三角を四つ十字に組み合わせた紋章を染めた魔銀布のサーコートをイーナが身に付けます。


「これでご理解いただけましたでしょうか」

「……確かに、それは聖騎士団の紋章。勝手に用いるとは思えぬから……事実なのであろう」

「勿論だ兄上。そして、団長と、私の同僚である修道女騎士達だ」


 リザとベネが修道女服で会釈をします。アイネは……灰色の修道女服ですわね。リリアル閣下と揃いと言っていました。


「……話を中で聞かせてもらおうか」

「ああ、今日はそのつもりで来たのだ。皆も中に入ってもらってよいのか」

「そうだな。皆さん、中へどうぞ」


 どうやら、話を聞いては貰えそうですわね。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 私たちは、これまでの経緯と既に城を拝領していることを説明し、叙任を待っている段階であると男爵に話をした。


「……俄かには信じられんが……何故、叙任が為されないのだ」

「詳細は不明ですが、事件の捜査が継続中であるからでしょうか」

「トレノにおける貴族の内通などの外患の問題だからな。そうそう、簡単には進まないのであろう」

「身分不確かではありますが、王国も関係している事ですので、取り消しにはなりませんでしょう」


 男爵は「何故に王国」と質問を重ねる。アイネが説明するのが一番なのですが、相変わらずだんまりですわね。


「ニース領の商人らも被害者になっております。王国としてはサボア公国での単純な犯罪ではなく、貴族が使嗾した内容であるならば、外交問題にするつもりなのですわ」

「たかが人攫いや野盗の問題でか」

「まあ、未遂とは言え、将来の王国の子爵が被害者だから当然だね」

「……誰だお前は」


 アイネが口を挟みました。出たがりは相変わらずですわね。


「この子達全員が貴族の子女、そして、私は次期ノーブル伯なんだよ。それが公国の代官に使嗾された村人に襲われた。それだけで……外交問題になる」

「……はぁ?」

「だって、現場に王太子殿下呼んじゃったもん。サボア大公殿下と二人で代官捕らえる現場に立ち会わせたから、逃げもごまかしも出来ないよね」


 アイネのニヤニヤが止まりません。つまり、アイネがごねて聖エゼルの設立の権利を大公殿下から奪ったという経緯があります。とは言え、サボアには既に聖モリス騎士団が近衛として存在する為、統合する事は抵抗があったので、渡りに船の案件でしたの。


「それで、四人ばかりの騎士団か」

「まあね。誰でも良いってわけではないし、正直信用できる者以外を加えるつもりはないんだよね」

「で、お前がスポンサーか」

「ニースと王国と大公殿下がスポンサーだね。私はコーディネーターだよ。ヒトモノカネを集める仕事だね」


 その中に、ヴェント男爵も含まれているのは男爵当人にはお話しませんのアイネ。


「はは、絵空事だな。修道女集めて騎士団など」

「ええ、その絵空事、孤児を集めて既に国を守っている少女がいるわ。田舎で騎士ごっこしている男爵閣下はご存じないでしょうけれど」


 アイネの自慢の妹、王国副元帥リリアル男爵閣下ですわね。アイネは貴族の子女を教育する方が孤児をゼロから育てるよりはるかに容易だと考えているのですわ。


「田舎の騎士か。否定できん。世情にも疎いし、伝手もコネもない。故に、妹にも苦労を掛けている」

「わかってるんじゃない。なら、話は簡単ね」

「そうではない。自分自身の体で確かめねば、妹を預ける気にはなれないと申しておるのだ。団長!! 一手ご教授願いたい」

 

 アイネ!! 目がキラキラしておりますわよ。イーナ・ベネ『きたぁぁぁ!!』ではありません。リザ、親指を上げて何をしているのですか。


「では、そちらは騎乗で、私は(かち)でお相手致しますわ」

「むうぅぅ!! その言葉たがえるな!!」


 こうして男爵閣下との対戦がはじまりました。




 相手は騎乗、こちらは徒。密集隊形でも整えていれば話は別ですが、騎士と兵士が一対一で戦って兵士が勝つことは稀です。相手が疲れて朦朧としている、他の者と対峙している隙を突くと言った場合ではないでしょうか。まして相手は魔力持ちの騎士、こちらはか弱い淑女からの修道女です。


「本当に良いのだな」

「ポーション用意してあるから、思い切りやって大丈夫だよ!!」

「団長骨は拾ってやる」

「仇は必ず討つのです!!」


 私が負ける前提なのは納得がまいりません。とは言え、仲間内でもリリアルでの模擬戦においても馬上の騎士相手に戦った経験はないのですわ。まさに、ぶっつけ本番です。


「いざ!!」

「どこからでも構いませんわ。ご随意に!!」


 左手で手綱を握り、右手にはロングソードという騎士らしい装備です。馬上で槍を振り回すということも実戦ではありましょうが、魔力持ち相手に小回りの利かない槍を用いる不利を想定しているのかもしれません。それか、ハンディのつもりでしょうか。


 それほど広い前庭ではありませんので、あっという間に男爵が近づいてまいります。全身を鎧で固めておりますが、いささか古いタイプの装備のようで、軽量化された全身鎧ではないようです。一昔前の装備で、とても重い物でしょう。


 それを、身体強化と素の筋力で補っているのだと想定されますわね。問題は……騎馬に優しくないというところと、足元が悪い場所では重さに負けてしまうところでしょう。水魔術や土魔術で地面を泥濘化させれば勝機が高まるでしょうが、私にその才はありません。


 相手と右側を向いて正対しております。剣を右手に抱えた騎士からすれば、すれ違いざまに切り払うだけの存在に見えるでしょう。私はフレイルの石突を相手に向け、『横の構え』を取ります。胸の前あたりで長柄を横に向ける槍の型ですわ。これで、どの程度の長さか分かりにくくなります。


 馬が間近に迫ってきます。団員が何か叫んでいるようですが、耳に入ることはありません。身体強化はお互い様、であれば、それ以外で工夫する以外勝機はございません。


 私は、申し訳ないと思いつつ、馬に狙いを定めます。騎士を射んと欲すれば先ず馬を射よの精神ですわ。


(baleno)


 パシッと馬の胸辺りに小さな雷が命中します。ふふ、小さな雷なら、詠唱を省略することもできます。

 

 ヒヒィーン!!


 馬が驚き暴れ、走路が乱れ失速します。


 男爵閣下は、馬を御するのに精いっぱいで、私に剣を振るうどころではございませんわ。


「はあっ!」


 ビシッ!! ドサッ


 私は魔力壁を中空に形成し、踏み台としながら男爵にフレイルの先端を命中させます。既に体が泳いでいた男爵が馬から落とされます。上手く鐙が外れて良かったですわね。外れ損なうと、暴れた馬に引き摺られ大怪我を追う事もございます。


 私も騎士の真似事ができる程、乗馬に自信はございませんが貴族の嗜みとして、常歩(なみあし)程度でなら馬を御することはできますの。


「大丈夫ですか?」

「……やり直しだ!!」

「戦場にやり直しがございますか?」


 フレイルの石突を顔に突き付け、同じことが言えるかどうか確かめてみましょう。


「……では、剣と剣で今一度勝負を願いたい」

「いいよー。ドーラちゃんは剣でも強いからねー」


 アイネ、勝手に決めないでくださいませ。




【作者からのお願い】


「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。


よろしくお願いいたします!

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