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『聖エゼル奇譚』修道院に送られた令嬢達の成上がり【完結】   作者: ペルスネージュ
第四幕 『魔装修道女はトレノに降り立つ』
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第31話 魔装修道女は錬金貴族を取り込む

第31話 魔装修道女は錬金貴族を取り込む


「いやー アイネ様もお人が悪い」

「ほほほ、子爵様こそ、早とちりされて困ってしまいますわ」

「ふふふ、これでベネデッタが婿をとって我が子爵家を継げば問題ございませんわね。トレノの社交界にも顔が出せるというものですわぁ」


 さて、アイネは先日話をした、看板を借りて母屋を乗っ取る作戦をベンジーナ子爵が自分が得をする話であるかのように上手に話をして理解を頂いたのですわ。詐欺師としても一流です。


「しかし、皆さんがそれほど優秀な魔術師であるとは……大変御見それいたしました」

「それも、王国のリリアル閣下とも知己の中とは。可愛い子には旅をさせるものですわね」


 アイネの妹であるという事は特に触れないようです。妹自慢が始まらない所を見ると、完全にビジネスライクなお話のようです。


「しかし、私どもの錬金術の道具が役に立つかどうか……」

「素材があれば、買い取れるものもあると思いますが如何なさいますか」

「「それは是非!!」」


 売れる物が分からなければ値段も付けられませんから、困窮することも理解できます。


 どうやら、幸いなことに魔水晶・魔銀・魔鉛などがそれなりにあるようで、調達方法を考えていた私たちからすれば大変ありがたい事でした。しかし、ベネは知らなかったようです。


 流石に十歳を少し過ぎた頃に修道院に入れられたのですから、そこまで詳しくは知らなかったのでしょう。アイネは片手に台帳らしきものを持ちながら、在庫確認をベネとしております。


「その……如何ほどで買い取っていただけるのでしょうか?」

「王国の冒険者ギルドの買取価格に少し上乗せする程度で如何でしょう」

「そ、そうですか……」


 冒険者ギルドで買い取らせるよりは高くなりますが、売価よりは安くなりますから、帳簿上は子爵家は損をする事になるでしょう。


「古くなっているものもありますから、本来なら今少し買い叩かれるでしょうし、冒険者ギルドに子爵家から素材が運び込まれるのも外聞が悪いのではございませんでしょうか」

「「……」」


 子爵夫妻の反応を見るにその通りのようですわね。


 それほどの金額ではないとアイネは言いますが、少なくとも金貨数枚となるようで、子爵夫妻が喜色満面となります。貴族が人前で表情を変えるのはどうかと思いますわね。


 ですが、我が父である伯爵も同じようなものでしょう。貧乏が悪いのですわ。




 さて、実際今後の取引の話、契約のお話となります。今日は説明をし、後日改めて契約という事になるのですが、子爵は相当に前のめりとなっている様子。手元にかなりの額のまとまったお金が入ったので、心が積極的になっている様子です。


「ニース商会としては、トレノで積極的に自分たちのチャンネルで商売をするつもりはありません。敵を作る事になりますので」

「な、なるほど。それで、ベンジーナの名前を使って聖……エゼルで作成した錬金術の商材を今までの我が家の伝手で販売したいという事ですね」

「率直に言えば、冒険者ギルドに販売する値段で卸すつもりです。それでは、ベネデッタ様の気持ちを蔑ろにすることになり兼ねませんので、先ずは、同じ条件でベンジーナ子爵にお話を持って参りましたのですわ」


 アイネはリリアルが当初冒険者ギルドに買い取らせていた価格で、トレノの冒険者ギルドに売却することも視野に入れていたというのですが、そこで冒険者ギルドと聖エゼルの間に繋がりが出来ることは良くないと考えております。


 それであるのなら、元々錬金術師として名の知れたベンジーナ家からギルドなり市中の錬金術の商会に売却することが良いのではと考えているのです。


「しかし……売却価格の一割引きで卸すという事は、私たちの利益はそれだけということでしょうか」

「委託販売ですから、そちらは売れた分だけ手数料が貰える替わりに、在庫を抱える問題が無くなります。それと、卸額は変動させませんので、より高く購入する店舗をトレノで探す……という事も考えてくださいませ。今、神国兵がネデルで戦争をしておりますが、この辺りを経由して大山脈を越えてメイン川を下ってネデルに移動しておりますでしょう。そこに売却出来れば、より高い値段で売れるのではありませんか?」


 神国・帝国は潜在的な王国の敵であり、サボア公家とも良い関係とは言えません。隣のミラン公国は帝国皇帝の任命した総督の支配下にあり、皇帝の臣下からミラン公爵を選ぶのではと言われておりますわ。


 そこに、私たちやニース商会がポーションを売る事に問題がありますが、トレノの錬金術師が販売する分には問題がない……ということなのでしょう。


「ですから、子爵様ご夫妻は、社交を含めてトレノで誼を結んでいただき、ポーションを売り込んでくださいませ。勿論、私もお手伝いいたしますわ」


 アイネ……トレノの社交界に食い込むつもりですわね。


「それは、アイネ様は王都の社交界でも有名な方ですもの、是非、皆さまにご紹介したいですわ」

「ああ、勿論です。ベンジーナの名前、存分にお使いください」

「おーほっほ」

「はっはっは」


 という事で、何かあった場合一蓮托生の危険性をはらんでいることに全く気にしない子爵夫妻を遠い目で見ながら、私たちは昼食をともに頂く事になりました。金貨の力は偉大ですわ。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 食事の後、契約書をお渡し内容を確認していただいた上で、改めて契約締結という事になるようです。


「すぱっと今契約してしまおうか!」

「そうですわねー 善は急げと申しますから」

「「「……」」」


 子爵夫妻は契約内容も碌に確認する事無く署名しようとしております。今日初めて会った相手を信用しすぎですわね。時間も与えずに署名させられたと言いがかりを後から付けられない為にも、アイネは一旦引くのでしょう。


「いやー 一週間ほど間を頂きます。商会の契約担当の使用人と共に、

改めて伺わせていただきます」

「おお、それは丁寧な対応。恐縮です」

「その間に、社交界や錬金術関係の商会に声をかけて回らないといけませんわね」

「「「ははは」」」


 ベネ、顔が強張っておりますわよ。今までも勢いで色んなことを決めて……失敗してきたのだろうと推測されますわね。


「ベンジーナ子爵家も何とかなりそうですわねベネ」

「……はいなのです」


 その割にはベネの表情は冴えません。アイネに乗せられて何やら罠にでも嵌められたように感じているのでしょうか。




 

 修道院に戻り、アイネと私たちはこれからの事を少し確認することにします。


「ベンジーナ子爵家は、何とかしないとね」

「何とかとは、どういう意味だアイネ」

「簡単だよ、あの家の夫妻は……帳簿も付けていないし、損益計算もしていないよね。だから、収支も把握していないし、家計の収支も錬金術師としての損益も計算できていない。簡単に言えば、錬金術の職人だね。経営していないから、貧乏なんだよ」


 耳が痛くなる話ですわね。貴族としての体面を考えてばかりで、家の経営ということは二の次ですわ。


「だから、看板と取引先だけ借りて、仕入れて売るだけにしたんだよ。まあ、ベネちゃんが作るんだから一緒と言えば一緒だけれど、管理する部分は大いに減る。そこで、あの家にニース商会経由で使用人を送り込むつもり。こちらの負担でね」


 アイネ曰く、今の段階で何も記録がないので話の進めようが無いという事なのですわね。お金がどう動いたかもわからないですし、利益がどれだけ出たかも皆目わかりませんから、帳簿を付けるところから始めねばなりません。


「まあ、毎日通う必要もないから、月に数日派遣すればいいかなと思っているんだけどね」

「そ、それは、私がやります!」

「ベネちゃん……辛い話になるよ……」


 アイネ、ニヤニヤしているのが見えていますわよ。そこで私は一つの提案をすることにしました。


「帳簿を付けるのでしたら、商家の娘のリザに同行してもらい、二人で見るのはどうでしょうか。作成したポーションを卸し、在庫を確認し売れた金額を徴収する。その際に帳簿を付け、おかしなお金の動きがないかどうかを確認する……というのではどうでしょうか」


 他人を入れるのは抵抗があるかも知れません。そもそも、貴族はお金の管理がルーズですし、読み書きは出来ても計算は致しません。専門の管理官がいる皇帝や国王のような大きな所領を持つ者ならともかく、男爵子爵においては、あればあるだけ使ってしまう場合が多いのですわ。


「流石団長だな」

「いい考えなのです!」

「それは協力しましょう。兎馬車でドライブするのには良い距離ですから」


 幸い、リザの同意を得ることが出来ました。


「そうだね。二週に一遍くらい通えばいいかな。その内、執事さんか侍女の誰かに帳簿を付けさせるようにできるかもしれないし、まあ、お金の流れに関心を持たせるのは大事だよね」


 可能であれば、聖エゼルに集う修道女の中で、読み書き計算ができる専門の担当者を育てたいものです。リリアルにおいても、使用人として教育を受けている孤児院出身の選抜者がおりました。


 魔力がある者だけでなく、養鶏や薬草畑の世話など委ねられる人を受け入れる事も必要ですわね。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字の修正として は無し を 話 と修正しましたが、元の文章の方が面白いかも知れませんね、、
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