第20話 没落令嬢はリリアルに別れを告げる
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第20話 没落令嬢はリリアルに別れを告げる
「これを被ってください」
「……頭巾ですわね」
「はい。魔装布の頭巾です。魔力を通せば鉄のサレットくらいの強度になりますから、安心です」
赤毛の少女が私たちに説明をしてくれています。
トレノに戻る前に、様々な装備の貸与が確認されています。一つは、魔装頭巾、それに魔装のケープです。コルセットは修道衣の上に重ねてビスチェのように装備することも出来ます。そして、魔装手袋を加えます。
「うん、修道女から冒険者に片足踏み入れている感じがするね。実際、弓銃兵とか軽装の歩兵よりも魔力を通せば相当強力な防具だね。胸甲騎兵くらい?」
下半身は無防備ですが、上半身はかなりしっかりと防ぐことが出来ているようですわね。
「まあ、私も同じ装備をして、どんなもんか試してみようかな」
「……思い切りいきますけど、大丈夫ですか?」
「平気平気……あ、ちょっと待って。魔力を通して……」
アイネは自ら装備の実証をする為に私たちに支給する装備を自ら身に着け、魔力を通してその強度を確認しているようです。
「うん、大丈夫。じゃあお願いね」
「では、全力で行きます!!」
アイネの持つフレイルと同じようなもので、アイネを思い切り叩きます。カインと軽く弾くような音がして、そのフレイルのヘッドが弾き飛ばされます。
「さすがです!」
「まあね。余裕だよ」
赤毛の少女と仲良さげに会話をするアイネ。そして、私たちにもそれを身に着けるように指示をします。
「防具を過信しちゃいけないと思うけれど、安心感があるっていざという時思い切れるかどうかの一瞬の決断を左右するからね。大事だよ」
といい、イーナの頭を思い切りフレイルで叩きます。
「なっ、何をする!!」
「いやほら、不意打ちでダメージ喰らったら危険だから。その確認だよ」
「頭はともかく、首が痛いぞ!!」
「それはそうだよ。首の部分は魔装関係ないんだもん」
そ、それは色々問題ですわ。
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魔装の装備は魔力を通さなければ、普通の衣類と変わりません。それと、多少傷んでも、魔力を通す事で修復が為されるそうです。流石に擦り切れたり、断ち切れた場合はその限りではありませんが、多少の擦れや削れは魔力を流す事で修正されるそうです。
「おお、では、待たせたの」
「待っていたわよー さて、これが今回の皆さんの共通装備です」
魔銀鍍金加工の施された鉈剣『ベイダナ』ですが、少々変わった趣ですわね。魔銀の鍍金が施されている部分が刃のない背の部分を中心で、刃の部分は普通の鋼鉄製のように見えます。
「これは、今回実用的な鉈として使う部分は鋼鉄製のままとして、峰の部分を魔銀鍍金を施す事で、魔力を用いて断つ場合、この背面の部分を使って打つようにしてもらおうと考えた」
つまり、刃の部分は普通の鉈剣で、峰の部分で魔力を通して切る事で、魔銀剣としての効果を得られる仕様という事ですわね。
「どれ、試し斬りをしてみようかの」
木人に金属鎧を付けたものが並んでいます。金属の鎧……お高いのではないのでしょうか。万が一、斬ってしまったり凹んでしまった場合、問題があるのではありませんか?
「遠慮はいらないってさ。習作で失敗作だから、この後どの道もう一度鉄の塊に戻されるだけだから」
「それなら、私の『精錬』で加工しましょうか?」
「そうだね、それは助かるかもね」
回収した鎧の中で不具合がある再生不可能なものが試し斬り用に当てられているので、問題ないのだそうですわ。
「では、先ず私が『いや、嬢ちゃんからじゃ』……」
「……私ですか……」
剣を使い慣れているイーナではなく、私が最初に試し斬りをするのはどうなのでしょうか。
「曲剣の斬り方で慣れているものが良い。そっちの嬢ちゃんは戦士かなにかしておったのだろう。叩きつけるのではなく、魔力を通して『斬る』のは今一つじゃからな。よく見ておけ」
私は、刃ではなく魔銀鍍金を施してある背の部分を木人に向け斜め上から斬り降ろすように魔力を通した鉈剣を振ります。
軽い感触と共に、本来斬れるはずのない刃のない背の部分で金属の鎧諸共、台座の木人は斬り裂かれています。
「む、魔力がしっかり乗っておるな」
「すごいですぅ!!」
「むぅ、これは……負けられないな」
据え物斬りですから、上手に斬れて当然でしょう。皆さん、騒ぎすぎです。
「いや、そんなことないわよ。動いている時に斬りつけることなんてそんなにないもの。相手が動き始める前に先に仕留めることの方が多いわ」
背後にはいつの間にかメイが立っていました。気配隠蔽でしょうか。
「迷わず良い剣筋でした。これなら、ある程度場数を踏めば、十分に身を守ることが出来そうですね」
「でしょぉー まあ、私の目に狂いはなかったわね」
いつの間にかアイネと妹であるリリアル男爵もそこにいます。
「ドーラさん、凄腕です!」
「そんなことありません。無我夢中だっただけです」
「それが良いのだと思うわ。下手に考えたり、小細工するとバランスやタイミングが狂ってしまうから、振り慣れた体に馴染んだ剣筋で無心に手が出る方が良い結果につながると思う」
「そうだね、思い切りバッサリ斬ってやればいいのよ!!」
「姉さん、かなり違っていると思うわ」
「えー そうかなー 思い切りだよねドーラちゃん」
いいえ、振りやすいように振っただけです。考えてなどおりません。
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そして、イーナには長柄の武器。山国型のハルバードと、柄の長いフレイルのようです。
「相手によっては長柄の武器が必要になるでしょう。騎乗の相手に剣で立ちむかうのは無理でしょうから」
「前衛に持たせるとすれば、イーナでしょ? ハルバードは使えるわよね」
「ああ、冒険者時代は使う事もあった。騎士としてもウォーハンマーを使うことを考えると、似たような装備だから問題ない。しかしフレイルか……」
「殺さない為に叩き落す用、それと、油断させるためにも武器らしくない装備を加えておくことをお勧めするわ」
私たちの外見は修道女や一般の女性に見える服装が多くなることを考えると、鎚矛は目立ってしまうでしょう。フレイルなら一見、農具か杖にしか見えませんから。
「あと、これは魔銀ヘッドのミニモーニングスターメイスだ。隠し持って殴りつけてもいいし、フレイルヘッドに使ってもいい」
癖毛の少年が40㎝ほどの丸いヘッドに棘のついた全金属のメイスを渡して来ます。どうやら、木製のヘッドの代わりに、金属のそれを付けることで、より強力な打撃を与える目的の装備ですわね。
「これは……いいな。ゴブリンの頭を思い切り叩くのが楽しみだ」
「ゴブリンだろうが狼だろうが人間だろうが、一発で昏倒すると思うぞ。魔力は込めやすくなっていると思うから、ダメージは相当デカいと思う」
形からして禍々しい装備ですが、イーナはとても嬉しそうです。不安です。
そして、私とイーナには魔銀鍍金製のシールドボスのついたバックラー、リザには魔装銃、私とベネには魔装短銃が貸与されます。これは……
「機密扱いだから、日ごろはしまっておいて頂く方が安心です。とはいえ、潜入時や帰りの旅程なので不意に多数に囲まれる可能性もありますから、その時は先制の一撃を短銃で加えることを推奨します」
「弾は鉛じゃなくて鉄製の物を用意したから、体の中に残ってもすぐにはどうこうならならないし、多分そこから腐って死んだりしないんじゃないかな。まあ、殺さずに済むなら殺さないようにしてほしいしね」
躊躇して殺されるくらいなら、躊躇せずに殺すことは覚悟しなければならないようです。短銃は、弾をいくつか握った状態であれば、銃口から放り込んで次々と射撃することもできそうですから、剣より遠間で移動しながら撃ち込むという使い方もありかもしれません。
「剣で斬るのは難しいのなら、最初は短銃で撃つだけでもいいかもね」
「据え物とは違うからな。銃は引き金を引くだけだから、気が楽でもある。場慣れするまではそれもありかもしれんな」
訓練でできても、本番で出来ないことはあり得ますわ。そうならないために、心を作っていく必要があります。普通の侍女ならともかく、貴人の護衛を兼ねる魔装侍女がいざという時動けない等という事は、決してあってはならないことです。
そういう意味で、この餞別に似た銃の貸与は大変ありがたく思いますわ。
こうして、決して短くはない時間をリリアルで過ごした私たちは、二台の兎馬車に分乗し、何故かアイネと共に五人でトレノ郊外の修道院まで戻ることになったのでございます。
これにて第二幕終了です。修道院に戻り、本格的に活動を開始します!
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本作とリンクしているリリアルが舞台のお話です。
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/
また、帝国側の冒険者の前日譚。50年程前の時間軸のお話。完結済み。本作後半で登場します。
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