第18話 没落令嬢は見極めに合格する
第18話 没落令嬢は見極めに合格する
悪の元凶アイネは滅びましたわ☆
まさかのアイネ墜ちに、一瞬動きが止まる一期生チーム。私はそのまま、気配隠蔽をかけて、後衛の魔術師に走ります。
「あ、ちょ」
「お前の相手は私だ!!」
作戦とは違いますが、私の動きを見た赤毛の少女がこちらに向かって来ようとしますが……
「いたあぁぁぁ!!」
「仕留めたのですぅ!!」
リザが牽制する以前に、赤毛の少女の動きに追従したベネが背後から一閃し仕留めたようです。
「不味いわ!」
「ふふ、私の足止めを抜けられると思うなよメイ!!」
「イーナ、ウザいわ……」
私が背後に回り込み、リザとベネで黒髪の後衛を抑えに行きます。ですが……『魔力壁』の四面展開で……攻撃できないようですわ。
「あー ここまでかな。試合終了」
「なんでよ、諦めたらそこで試合終了でしょ!! 諦めないで!!」
そう言う事は、目がちゃんと見えるようになってからにするべきですわよアイネ。
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騎士団相手にも後れを取ったことがないリリアルの一期生が、アイネのチョンボはあったとはいえ、修道女団に負けたというのは少々、ショックであったようですが、私たちへの風当たりは……
「すごいことです」
「本当に。やはり貴族の御令嬢は違うんですね」
対戦した二人の一期生が素直に賞賛してくれるのは嬉しいですわ。
「まあほら、貴族は貴族だから。一応ね」
「いや、チョンボして味方を危機に陥れた元凶のお前もそうだろアイネ」
「ははは、バレたか」
むしろ、今回はアイネを弱点と見極めたアリーの作戦勝ちに過ぎません。
「いつもは、姉さんが参加する時は数に数えないのよ。あの体たらくでしょう」
「それは酷いよ妹ちゃん」
「ですが正解です」
「何それ酷くない!!」
たまに参加する討伐でも好き勝手に動き回るので、参加は容認するが作戦には絡めない賑やかしなのだそうです。
「でもさ、あんな形で『雷』魔術を使うというのは、初見殺しだね」
「ええ、大概二度目はない相手だから、かなり有利に働くわね」
「加護があるってやっぱりすごいのです!!」
ちょっとした火花のようなものですが、じっと見つめていては目がくらむのでしょう。アイネはいまだに目を瞬かせています。
「それと、後衛を狙って釣りだすのも上手かったわ」
「すっかり釣られちゃいました」
「心理だよね。やっぱり守られる存在ってのは狙われるから」
「それ、姉さんがあっという間に抜かれるから混乱して動いたことが敗因なのだけれど」
「『魔力壁』で時間稼ぎできるから、いざという時は放置するって事前に確認しておけば、前衛二人のツーマンセルでまだ十分行けたんだよ」
「魔力壁で攻撃方向制限して、手数でこっちが勝つとかですね」
つまり、遊撃が巻込む前に戦いを終える前提で作戦を組み立てたアリーの勝利という事なのでしょう。話を聞くと、通常の中軸でラインを支えるメンバーは今は別行動中なのだそうです。
「魔力の量の多さよりも、組織としての柔軟性であるとか役割の補完がしっかりできていないと勝つのは難しいでしょう。それに、死ぬことが失敗に直結するお仕事ですから、生き残る算段が最優先です」
「それはそうだけど……没落令嬢団に関しては……ドーラちゃんのお仕事だよね☆」
リーダーの仕事といえばそうなのでしょう。その前に……
「名前を定めましょう」
「そうだね。没落令嬢団というのは、呼びにくいものね」
言われたくないのですわ。
「では、『サンジリオ』をそのままいただきましょう」
「聖なる百合か……意味深であるが、悪くない」
「サンジのおやつみたいで美味しそうなのです」
「百合の刺繍を入れたいですね」
少しずつ、自分の新しい居場所が出来ているような気がして、とても気分が軽くなりましたが、それは他の三人も同じだと思います。
少し早いようですが、短期留学の終わりが見えて参りました。
「姉さんの我儘につき合っていただいて申し訳ないわね」
「いいえ、修道女の生活に彩を与えて頂きましたので、楽しんでおりますわ」
ある日、アリーから院長室に呼ばれた私は、貸与される装備に関しての説明を受けております。
「この頭巾とケープかしら。修道衣なりドレスの上に身に付けられるものを用意しました。それと、魔装の胴衣の代わりのビスチェです。コルセットを着用しない場合に、上からこれを身に着けると胴鎧と同程度の能力があるので、これを装備してください」
「……これほどの物を私たちに……」
「ええ。恐らく、姉の事ですから相応に危険なことにも首を突っ込むと思います。お手伝いできることはお手伝いするつもりですが、トレノではすぐに駆け付けるわけにもまいりませんし、難しい事の方が多いでしょう。ですから、これはせめてもの気持ちだとお考え下さい」
そういって、少し変わった袋を差し出す。
「これは?」
「魔法袋です。それほど大きな収納力はありませんが、装備の予備や食料に野営の道具など納めておくのに良いと思います。これから、準備をし過ぎて困るという事はないでしょうから」
大きくはない収納といえど、金貨百枚ほどはする高価な魔導具であることは間違いありません。正直、私の実家では持てないような品ですわ。
「有難くちょうだいしておきます」
「何かあれば、私宛にお手紙をください。相談に乗ることも出来ますので。姉の暴走を止める手立て……などでしょうか」
それはありがたいですわね。とは言え、目の前にいるわけではありませんから、それほど有効な対処は出来ないと思います。
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錬金術とは言うものの、実際はポーションの作成に力を入れているので、金属などの加工にはほぼ関わっておりません。傷薬や体力回復用のポーション、傷を治すポーションなどが主に学んでいるところです。
「私が男だったら、我がベンジーナ家も錬金術師の家として再興できたかもしれないのです」
「ほお、お前さんの家は錬金術師の家系か」
「はっ、何故それを」
老土夫に声を掛けられ、ベネは驚いておりますが、今自身で呟いていたではありませんか。話を聞くところによると、彼女は血統的な魔術として『精錬』が使えるということです。
「便利ではないか」
「おそらく、最初は山師であったんだとおもいます。それで、鉱山などの利権を元にしてトレノ辺境伯の臣下に加わって貴族に叙せられたと聞いています」
家が貧しくなった原因は、鉱山の産出量が激減し廃坑になったことで、ベネの実家の受け取る配当が無くなったからだというのですわ。貴族となってからも、最初の何代かは山師を続けていたようですが、やがて豊かとなり男爵から子爵に叙せられる頃には、すっかり貴族の生活に馴染んでしまい、遺産を喰い潰すような家になってしまったのだそうです。
それでも、『精錬』の魔術で、鉄鉱石から鉄を精製したり、銅の鉱石から銅を精製することなどは未だにできる者が力の大小は有れど、家系にはいると言います。
「私は、割と魔力もある方なので、男なら……って言われていました」
「ふむ、私の騎士の話と同じではあるな。最も、私の場合兄が後を継いでいるので問題は……無いと言えばない」
ベネの話にイーナが加わります。我が伯爵家も弟に期待するばかりですわね。
「嬢ちゃん、ちょっと力を見せてもらえるか。例えば……この屑鉄を精錬してもらえるか」
「了解なのです!!」
ベネは自らの両手に魔力を集め、屑鉄に手をかざします。やがて、魔力を加えられた屑鉄は徐々に形を変え……一塊の鉄となります。
「これだけ一遍に、あっという間にできるのは優秀な術者だな。小僧より精度が高い魔力の遣い方が出来ていると思うぞ」
小僧とは、リリアル生の癖毛の少年でしょうか。魔力が大きいので細かい操作が苦手だと聞いています。やがてベネは鉄を一塊にし、それ以外の異物らしき物を小さな塊にしてしまいました。屑拾いに向いているかもしれないと口にすれば、きっとベネは怒るでしょうね。
「ベネデッタは、『土』の精霊の加護があるかも知れんな」
「……精霊の加護ですか」
「じゃが、儂はほとんど使えないからの。土の精霊魔術が使える術者と知り合えたならば、教えを乞うてみればよいじゃろう」
これからの活動の中に、土魔術の探求も加える必要があるかもしれません。




