第17話 没落令嬢は男爵閣下と組む
第17話 没落令嬢は男爵閣下と組む
滞在期間も早くも一月ほどになり、私たちも学ぶべき課題をそれぞれ持ちつつ、日々の日課に追われています。
しかしながら、四人ともそれまでの修道院で過ごした三か月の訓練期間の数倍の速度で学ぶことが出来るようになったのは、目の前に手本となる魔術師たちがいるからでしょう。
仮に、その三か月の準備期間無しにリリアルを訪問したとしても、基本的な魔術の操練が不足していて、その機会を生かすことが出来なかったことを考えますと、一段成長するタイミングでここを訪問することが出来たということは、アイネが指導者として優秀であることを図らずも確認する事になるのはとても腹立たしくもありますわね。
「流石は姉さんね。しっかり素養を勘案して課題を明確にした状態でここに連れてきたのでしょう」
「ま、まあね、と、と、と当然だよ☆」
どうやら偶然のようですわ。
「でも、みんなリリアルの魔術師なら一年目終了くらいの段階でしょ? 基礎があるから、覚えるのが早いし、ステップアップが早いよね」
「それは……生まれの問題もあるでしょうし、現状を良しとしない心理もあるわ。学院の二期生は、ある意味ここにいることで目標を達成した気になっている子たちもいるでしょうし、まだまだ庶民の子供の感覚よ」
「それは仕方ないかもね。一期生は一緒に成長したり、魔物や犯罪者の討伐経験しながら学んだけど、二期生にはそこまで求めていないしね」
先達がいるかいないかで相当に違いますわね。
そんな二期生と私たちの間で、ちょっとした模擬戦を行うことになりました。相手には少年二人と女性二人の四人。私たちは勿論、いつもの四人です。
「いやいや、ちょっとした交流というか、二期生のケツを蹴り上げて欲しいんだよね」
「……模擬戦に勝てという事でしょうか」
「まあ、できれば」
「当然勝ちに行くぞ。皆、覚悟は良いか!!」
良いわけありません。ですが、リリアルの騎士相手に翻弄される私たちが、どの程度通用するのか……試してみたい気もします。
皆、十二三歳で、体が出来てくるのはもう少し先でしょうか。体格的には問題ないと思います。
黒髪の少年と灰色の髪の少女が前衛、灰色の髪の小柄な少年が遊撃、後衛はリザ同様に、弓銃を構えた茶色い髪の少女です。
「同じような編成だな。で、どうする」
「黒髪の少年はイーナが抑えて」
「了解だ」
「私が灰色の髪の少女を抑える。そして、恐らくは小柄な少年が抜けてくるのでリザを囮にして、気配隠蔽を使って少年を最初に仕留める」
「それで」
「一人減ればかなり楽になるので、その後、前衛の女の子を私とベネで倒す。イーナの援護をリザはお願い。回り込まれないように牽制して、背後の弓銃少女の動きを声で知らせて」
「承知しました」
あのメンバーの中で、小柄な少年はちょっと浮いていると思いますわ。輪に入れていないというか、きちんとコミュニケーションが取れていないようです。前衛が膠着状態になれば、後衛のリザを狙って飛び出してくるはずなので、釣りだして不意打ちで仕留めます。
同数から四対三になれば、そこから突き崩すのは容易でしょう。
「イーナ丁寧に。あなたの仕事は時間稼ぎよ」
「ふふ、任せろ。じっくり年下の少年を可愛がってやろう」
「言い方が卑猥なのです!!」
「イーナはドンドン年下の男が増えているから、仕方ないのでしょう」
「む、私だけではないぞ!!婚期を逃しているのは!!」
既に修道女の時点で諦めておりますのに、何を言い出すのでしょうか。
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結果的には、私の推測通り、灰色少年が飛び出してきたので、リザに牽制してもらいつつ、ベネが背後から一撃で倒し、その後は二対一の状況を作りつつ、次々と仕留めることが出来ましたわ。
「意外と、訓練の成果出ているのかもです!!」
「予定通り!!」
いえ、まぐれですわ。イーナ、恥ずかしいのでどや顔は止めてくださいませ。
「いやー すっかり実力が付いているね。お姉ちゃん驚いたよ」
「二期生にはいい薬ね。つい四か月前までは貴族の令嬢で修道女でしかなかった皆さんが、この一ケ月でどれほどのものを身に着けることが出来たか。年齢や身に付けてきた物の差はあるので一概には言えませんが、あくまでも、リリアルで学ぶ姿勢が不足している方には向いていない場所であると、よく理解してもらえたと思います」
あー 灰色の髪の少年がいじけていますわ。ですが、彼の動きは連携を度外視した独断的な行動で、仮に実戦であればみな死傷していたことを考えれば、この場で連携なき行動が非常に危険であるという事が理解できただけ良かったのでしょう。
「年上とは言え、女の子四人に一方的に負けたのだから、言い訳できないんだよねあいつ」
「ふふ、女の子か……久しく聞いたことのない言葉だ」
イーナ、残念過ぎて可哀そうですわ。
しかし、ここでアイネが声を上げます。
「物足らなさそうだから、リリアル一期生との四対四もやろうよ。私も相手方に入って、みんなの成長を体感したいし」
ニヤニヤとアイネが笑っておりますわ。「良いこと考えた☆」のような表情で非常に腹立たしいものです。
「では、私が皆さんのサポート役に入りましょう。その位いいわよね姉さん」
「そうだね。少しハンディがないと瞬殺だもんね」
アイネは、メイと赤毛の少女、そして黒い髪の美少女を呼びます。この四人で組むという事でしょうか。
「相手は前衛三人で三人とも遊撃が得意よ。それと、最後の一人は、一期生で最大の魔力を持っている魔術師よ」
「「「「……え……」」」」
リリアルの魔術師の一期生、彼女たちはもしかして……
「勿論、姉さん以外は全員『竜殺し』に参加しているわ」
「無理だろ」
「死にたくないですぅ!!」
「怪我の無いように頑張りましょう」
そうですわね。自分たちより隔絶して上の能力を持つ者と相対することもあるでしょう。その場合、どう立ち振る舞うかの練習でもあります。それに、アリーの教導に興味があります。
「皆さんの役割はそのままです。但し、魔術には工夫が必要です」
「例えば?」
「イーナは足止めをする事になりますが、身体強化に魔力を振る必要は恐らくありません。素の能力で、尚且つ、盾を変えます」
魔銀鍍金製のシールドボス付きのバックラー。これで何をするのでしょう。
「シールドバッシュです。それも、魔法の壁を大きく形成し、目の前の相手に突撃して足を止めます。攻撃は牽制、あくまで足止めに専念です」
「なるほど」
そして、私の相手は……アイネ。
「あなたの『閃光』を使います。姉さんと剣を合わせる時に……」
面白いアイデアですわ。それに、目くらましは見てもらわなければ効果半減ですもの。これなら必ず、視界に入ります。
「そして、リザは後衛の子を移動しながら弓銃で狙います。その時、実際撃つのは『小火球』です」
「……それではダメージにならないのでは」
「はい。あなたの少ない魔力量を生かすには、身体強化を軽くかけ移動しながら後衛を攻撃するように動きます。そうすると、赤毛の少女が釣れるはずですので、ベネ……気配隠蔽から加速して赤毛の子の意識の外から攻撃してください」
「了解なのです!!」
つまり、イーナが足止めをしている間に、アイネと赤毛の少女を奇襲で仕留めて一気に四対二に持ち込むという作戦ですわね。
「相手は何か仕掛けてくる可能性は?」
「おそらく最初は様子を見るつもりです。四人の中にはしっかり支える中堅のメンバーが入っていません。三人遊撃の前衛ですから、最初は好きに動くことを選択するでしょう。その間に勝負を決めます」
多少の動きがあったとしても、個々の戦力では勝てる手立てが思い浮かばない私たちは、アリーの作戦に乗ることにしました。
「様子見はしません。最初から情報を整理して、その範囲で進める手立てがなければ目標を達成することはできません。偶然や幸運に頼らずに済むように十分準備することが大切だと思います」
それがリリアルの在り方なのはこれまでの一か月で十分理解できております。
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試合開始、アイネがニヤニヤしながら私に近寄ってまいります。心の中で詠唱を済ませると、私は素早く剣を振り下ろします。
『閃光』
剣先に閃光を走らせ、私はそれを見ないように走り抜けます。
「め、目が、目がぁ〜!!」
大声を上げるアイネの首の後ろを木剣でポンと叩き、更に適当に背中をここぞとばかりにボコボコ叩いておきましたわ。




