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第15話 没落令嬢は曲剣を振るう

第15話 没落令嬢は曲剣を振るう


 イーナ以外は剣を扱うのも初めてです。意外と重たいですわね。


「重いとおもうでしょ? 直剣ならそこまで感じないんだけどね」

「重心の問題ですか?」

「そう。斧とかと同じで、先端が重たい方がよく切れる。けれど、その分細かな操作には向かない。だから、速度重視だね。それと、最初に言っておくけれど、切っ先で『突く』のは禁止なの」

「何故だ?」


 剣先で突き刺すという攻撃を禁止する理由。それは、先ほどの多数を少数で相手する事に繋がります。


「突けば刺さった敵に剣が拘束されるでしょ? 決闘じゃないんだから、斬り裂いて無力化できる相手をどれだけ素早く増やすかなの。斬るのも叩くのも剣は拘束されない、けれど刺突は威力はともかく剣を奪われ反撃も受けるし、何より動きが止まるから絶対にしてはいけないのよ」


 リリアルの考える戦い方は、常に自分が弱者であることが前提ですわ。気配を隠し、一瞬で相手を無力化し離脱する。それは世の中で考えられているような騎士の英雄譚とは大きく異なる、しかしながら味方を失わず、危険にさらさない為の約束事なのだと理解できましたわ。


「それで、半身になって先ずは剣を前に突き出すように構えて」


 左手を脇に添え、右手で剣を斜め前に突き出すように構え体は横向きとなります。


「まあ、船の上とか狭い通路で戦う時、鎧で体を守れないときもだけれど、人間の急所である体の前面を半身になる事で隠している構えね」


 とても合理的ですわ。そして、剣を前に出す事で相手を威嚇し、さらに振り下ろす事が素早くできます。ですが、移動することは難しそうです。


「真直ぐ真横に移動するんじゃなくって、斜め前に移動する感じの繰り返しで、相手の脇に移動して斬りつけることを繰り返すの」


 私たちは一人ずつ、四人を相手に駆け抜けながら斬りつける練習を延々と繰り返します。魔力を体に纏わせ身体強化、そして、斬撃。修道服で走るのはドレスよりはましですが、とても大変です。


「ああ、足を動かす回数を減らして、飛び込むように沈み込んで斬りつけるのはどうかしら?」

「直前で相手の剣を掻い潜るようにだな」

「そんなイメージね。相手が斬りつける前に気が付かせずに仕留める方が良いんだけどね」


剣の切っ先が円を描くように回転させ、リズムよく斬りつけられるようになるには、今しばらく時間がかかりそうです。ですが、四人が代わる代わる斬りつけ、それを受ける役を繰り返すと、人の振り見て我が振り直せとでも申しましょうか、上手くない動き、上手な動きというものが見てわかるようになります。


 体全体の動作、剣の操作、そして次の動きへの連携が上手かどうか剣を体の一部と考え、指先で相手を突飛ばす、サッと指で相手の体を撫でるように剣を振るう……そういう感じでしょうか。


 相手が剣を振る瞬間に、自分の腕を合わせるように、剣の腹で撫でるように自らの腕を合わせます。


 Bashu!!


「ぐぅ……痛いではないかドラ……」

「申し訳ありませんわ」

「……上達が早いわね。正直驚いたわ」


 確かに、ダンスは得意でしたの。あまり人前で踊る機会はありませんでしたけれど。


 相手の脇をすり抜けるタイミングで剣を振るだけでなく、魔力を込めた手袋で脇を突き反撃を遅らせてから背後に回り首の後ろを切るのも悪くありませんわ。相手をターンさせてどうぞ首を落してくださいと差し出させるように動かすのですわ。


「いつもと違って、なんだか生き生きしてますぅ!」


 失礼ですわね。生き生きとした修道女というのは、あまりいませんわよ。


「元冒険者のイーナの動きが今一ね」

「私は、盾と剣で切り結ぶ流儀だからな。一度盾で受けるなり、弾くなりして斬る方がリズムに乗れるのだ」

「……魔力が少ないのに、無駄なことなのです」

「ばっ、馬鹿者!! 上手くいっている事は無理に変えないことも大切なのだぞ!!」


 イーナは不器用ですから、冒険者時代の装備に近いものが良いですわね。それでも、ロングソードを持った修道女はあり得ませんわ。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 結論として、イーナは冒険者時代のスタイルで行くことになりましたわ。剣は私たちと揃いの物を使いますが、小さな盾を使うようですわ。


「バックラーか」

「カイトシールドとか普通使わないわよ。咄嗟に使えないじゃない」


 護衛や魔物討伐であれば、これ見よがしに大きな盾を持ち歩くのは良い効果を持つのでしょうが、私たちの役割はそうではありませんわね。そもそも、何故冒険者と同じことをしようとするのでしょうか?


「自分の不器用さを棚に上げて、いい加減になさいまし」

「む、そのようなつもりはない」

「つもりはなくても、行動はそうなっています」


 四人の役割としては、イーナが牽制役、その間に魔力に余裕のある私とベネが切り込み、魔力の少ないリザが弓銃などで支援することになると思われます。


 ですが、リザは気配隠蔽の入り切りを斬り回りながら行う事で、相手の視界から一瞬で消え、死角を捉えてしまうのですわ。とても参考になりますが、魔力の切り替えには私の場合今少し修練が必要のようです。


「魔力の操作はリザが一番ね」

「もう少し魔力に余裕があれば良いのですが」

「平気平気、一二年使っていれば、イーナはすぐ超えてドナまでは無理かもしれないけれど、そこそこ増えるわよ。私も魔力は少なかったから。十代ならまだ増えるもの」

「む、ならば私も……」

「貴方は今年に二十歳になるでしょう? もう難しいと思うし、多い少ないの問題ではないですわ」


 イーナは雑なだけですわ。





 翌日の午後、さらに踏み込んだ実践的な訓練が行われました。


「大丈夫なのでしょうか……弓銃を使っても」

「鏃のないもので、先っちょにコルクを付けたものだから問題ないよ」


 今日は、メイと赤毛の小柄な少女が相手をしてくれるようです。


「私は木剣とバックラー、これがホースマンズ・フレイルの模擬戦専用のものを装備して相手をするわ」

「……剣ではないのか」


 どうやら、本来は魔銀製のメイスを武器に遊撃を行うそうですわ。


「この子も竜殺しだから、ちっこいからって舐めちゃだめだよ」

「あ、気にしてるんですからそういう事言わないでください。これから成長期なんですから」

「それはそうね。十一歳だっけ?」

「いいえ、十二歳です」

「「「「……え……」」」」


 この赤毛の少女はリリアル一期生最年少だそうですわ。幾多の武勲を上げ、いまでは王国騎士の一人になっているといいます。イーナがちょっと心が折れかけていますわね。


「じゃあ、どういう組み合わせで行く?」

「私とイーナでお願いしますわ」

「了解! じゃ、始めようか」


 四人の組合せで私とイーナが前衛、リザとベネが後衛と遊撃になるでしょう。今のうちに、ベネとリゼは打ち合わせして欲しいですわ。弓銃と曲剣遣いの戦い方は私に想像できませんが。


 同じ装備のメイとイーナが向き合い、斬り合いが始まります。同程度の力量の敵と対峙したという想定でしょう。私は赤毛の少女と向き合います。そして、フレイルを自分の腕の延長のように振り回し、駆け回る相手に翻弄され続けます。


「うん、なかなかですね!」


 様子見なのでしょうか、フレイルを操作しながら、激しい出入りと左手をフェイントに遣いながら、時に左右を持ち替え間合いを攪乱させながら私を追い詰めていきます。


「ふぅ、本気で行きます!」


 目の前から消えたと思った瞬間、右腕に痺れるような感触が伝わり、思わず剣を落します。


「あ、ごめんなさい。魔装衣じゃないですもんね。腕は不味かったですね」

「あー ちょっとポーションとってきて!」

「は、はいぃ!!」


 右腕に力が入らず、徐々に痛みが強くなってきましたわ。骨が折れてはいないようですが……相当の打ち身のような気がします。


「大丈夫……そうではないな」

「ええ、ですが、本気を出していただいたので、悪くはありません」

「そうか……メイは本気を出してくれていないようだから、正直ドラには先を越されたのかもしれないな」


 イーナはイーナの戦い方があるでしょうし、私は少々相性がいいだけだと思います。剣を振り、ステップを刻むのはとても楽しいのですわ。


 結局、その日は訓練方法の見直しをするという事で、私以外は自主練習の時間となりました。私は、お陰様でポーション頼みで回復する事ができ、特に問題はありませんでした。


 その後、練習時には、貸与された魔装衣のキルト状の上着を着用することになりました。鎧下のようなものだと思っていただければ間違いございません。






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