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第12話 没落令嬢は加護に気が付く

第12話 没落令嬢は加護に気が付く


 私とベネは短銃で、そして魔力の少ないリザは所謂1.5mほどもある『アルキブゾ』サイズの銃を使用します。短銃なら数mの距離でしか命中は難しく、実際の使用時は長槍のような感覚で使うそうですわ。


 リザの銃は射程は200mほどあるそうですが、実際は50m程の距離が効果が高いそうです。あまり小さくては集団で放つのでなければそうそう命中しないでしょう。


『Yametekure……』

『ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ』

「あーあーきこえなーい」


 性格が悪いですわねアイネ。最初に手本という事で、10m程離れた場所から短銃を構え、狙いを付けます。構えとしては左手で相手の視界を塞ぐように伸ばした感じと同じようにしたその左手に銃を持つのですわね。


 Pau!!


 火薬の爆発と比べると幾分弱い破裂音がし、目の前の吸血鬼の胴体に丸い穴が穿たれます。恐らくは弾丸が体にめり込んだのでしょう。


『Geeeee!!!』

「まあ、こんな感じで短銃は使います。好きな的を選んでいいからね」

「「……」」


 私とベネは困ったように視線を交わします。幸い、まだ無傷である二体がいますので、一体ずつ狙いを定めます。


『ヤメテヤメテ……』

『ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ』


 Pau!! Pau!!


『『Gaeeee!!!』』


 女吸血鬼の胴体に着弾し、穴から血が噴き出します……痛そうですわ。


「あはは、ねえ、痛い? 死にたい?」

『Ueeee!!』


 アイネと敵対する時は、覚悟しなくてはいけませんわね。





 さて、実際、魔装銃を扱う場合、50m程度は離れた距離で狙撃することになるのだそうで、この射撃演習場の端から端まで大体この距離となるそうです。


 リザは魔力少ない組の皆さんから銃を扱う際の注意点を詳しく聞いています。私もそこでお話を伺っているのですが、魔力を魔石に込めなおせば何度でも火薬無しで発射できるというのは天候の制限、火薬の管理など不用のとても強力な武具であると言えるでしょう。


 魔力を有し、適切に使用できる訓練を受けた貴族にとっては理想的な装備であると言えます。


「先ずは、この頬面を付けます。魔石の反応から顔を守るためですね」


 マスケットは火薬が飛び散るので、顔に火傷を負う事もあります。さすがに火薬ほどではありませんが、爆発の影響を顔の横で受けるのは問題ですので、魔銀鍍金製の顔半分を覆うお面を装備します。魔銀の鍍金ですか……初めて知りました。


「構えて的に銃口を向けます。この時、銃口から魔力を細く的に届くように伸ばすようにイメージして操作します。的まで魔力が届いたと感じられたら落ち着いて引き金を引きます」


 リザはすっと構えると的に銃口を向け、ゆっくりと引き金を引きました。


 Bou!!


 短銃より大きな音がし、その後パシュッと的に命中する音が聞こえます。


「素晴らしいわね」

「うん、じょずじょうず」

「……お見事です。さあ、もう一度、次はその隣の的を狙って下さい」


 リザと並んで、待機していたリリアルの銃手たちが代わる代わる魔装銃を的に向け放っていきます。そして的である吸血鬼からは、鳴き声が聞こえて来るのですが、誰も……リリアル関係者は気にしておりません。そして、リザも。


「銃のいいところってのは、殺意をそのまま的に叩きつけられるところだよね。剣や槍みたいに手の届く場所で叩きつけ合うんじゃなくって、遠くから一方的に相手を仕留めるところがカッコいいよね」


 アイネの物言いに、イーナが反論しますわ。


「む、それは騎士道に反するのではないか」

「そうだね。それが何? 槍衾に突撃を抑え込まれた騎士は、今では槍衾の手前から銃撃して代わる代わる攻撃するようになっているからね。騎士道ってのはトーナメント会場に会費払って参加する奴にしか存在しないんじゃないのかな」


 そうですわね。騎士道とは異教徒であれば皆殺しにしてよくて、財産を奪っても構わないということですものね。吸血鬼と大して変わりませんわ。そうはいっても、貴族というものはそういう専業の戦士の末裔ですので、自己否定になり兼ねません。


「だから、イーナちゃんには銃は薦めていないでしょ? でも、帝国では『レイター』って兵種が強化されているよ。騎馬で突撃して銃撃して逃げる簡単なお仕事みたいだよ」

「……」


 それはそうですわね。マスケットが普及した今日では、騎士の集団突撃というのは、いい的です。それ以前にも、長弓と木柵と泥濘で良いように足を止められなぶり殺しにされていますわね。


 神国や帝国では古の帝国時代のように、歩兵同士の戦闘の後の追撃や戦列を突き崩す為の役割を与えられていますが、既に騎士の突撃で勝敗が決まるような事はありません。


 鎧も全身を覆う物から、胴体部分と手足は簡素・前面だけを防御する物に変わり、もしくは上半身だけ、胸当と左手のガントレットのみなどかなり簡略化されておりますわね。


 鎧の重量が重いほど、馬も疲れますし追撃する速度も遅くなります。それに、重い鎧を着た騎士を乗せて移動する馬は、特別な存在ですしとても高価でもありますわね。


 騎士を乗せる『戦馬』であれば金貨十枚はしますが、騎乗するだけの警邏に遣う程度の乗馬であれば金貨一枚でもお釣りが来ます。これが輓馬になると小金貨一枚まで値段が下がるのです。


 そのような駄馬でも家畜としては最も高価で、牛の二倍、豚の五倍はします。騎士でなくても馬というのは大きな財産であり、馬を持っているということが地位と財産を示すものでもあるのですわ。


「とは言え、やはり馬に乗り戦場を駆ける姿に憧れるものだよ」

「淑女は憧れませんわ」

「当たり前なのですぅ!!」


 イーナは実家の男爵家が武勇を誇る家であったこともあり、騎士の話を否定的にすると反応が煩いのです。他の三人は私を含めそうでもありません。


 私とベネは魔装銃に魔力を補充することにしました。その様子を見ていたリリアル男爵が私に声を掛けます。先ほどから、何やらみられていると思っておりましたが何事でしょうか。


「アレッサンドラ様でしたわね」

「そうそう、でも、ドーラちゃんって呼んでね」

「……その通りですわ閣下。なにか御不審な点でもございますでしょうか」


 リリアル男爵曰く「家名を教えてもらえませんか?」と問われております。敢えて教えはしませんでしたが、私の家は『バレノ伯爵家』ですわ。


 暫く何事か考えたのち、私に思わぬことをおっしゃりました。


「あなたには精霊の加護があるようです」

「……精霊の……ですか……」


 教会で洗礼を受けた際に、そのようなことは言われませんでしたが。


「それはそうでしょう。御神子教の認めるものではありませんから。ですが、私の唯一嗜んでいる『雷』の精霊魔術のそれと似た魔力をあなたの魔力から感じました。騙されたと思って試してみませんか?」


 姉と違い、とても真摯に進めてくださるので、私もその気になったのです。リリアル男爵が詠唱を始めます。


「雷の精霊であるフルゴラよ、我が願いを聞き届け給うなら、その結びつきを認め我が魔力を対価に応え、我を害する敵を撃ち滅ぼせ……『雷撃(tonitrus)』」


 的となっている三体の吸血鬼の頭上から、稲妻が落ちるような光と爆音が発し、目の前がパっと明るくなります。目がちかちかとし、耳鳴りがします。本当に近くで雷が落ちたかのような光景です。


 あまりの魔術の威力に、周りが唖然とすると同時に、「ねえ、吸血鬼って大丈夫かな」という声が聞こえてまいります。


「……どうかしら……」

「いや、威力があり過ぎて、魔装侍女には使い所がないよね。それに、こんな威力、ドーラちゃんの魔力だと出せないんじゃない?」

「それは問題ないと思うの。私自身は精霊の加護を持っていないから、魔力の消費量が相対的に多いのよ。彼女の場合『閃光(バレーノ)』という『雷』に因む姓を持つ貴族の子女ですもの、少ない魔力でも『雷』の精霊は好意的に協力してくれると思うわ」


 確かに、私の一族には稲妻や雷のお陰で難を避けられたという言い伝えが幾つか残されております。雷の精霊を使役する精霊使い……魔女の家系なのでしょう。


 私の中で何か自分に自信が持てるようになるとともに、捨てられたはずの伯爵家の存在が、私を助けてくれるように思え、嬉しく感じます。


「では、少し弱い物に変えましょう」


 精霊の加護の効果と消費魔力を考え、リリアル男爵は私に遣えるであろう魔術の詠唱を教えてくださりました。


「雷の精霊であるフルゴラよ、我が願いを聞き届け給うなら、その結びつきを認め我が魔力を対価に応え、我の示す相手に雷を与えたまえ……『(baleno)』」


 先ほどより小さな稲妻が真ん中の吸血鬼にバシッと命中するのが見えましたわ。私に……精霊の加護がある……それをとても誇らしく感じたのです。



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