第97話 雷鳴の聖女はトレノの宮廷にて名誉を賜る
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第97話 雷鳴の聖女はトレノの宮廷にて名誉を賜る
冒険者としてラウス様方への報償は後日改めてということになり、また、アイネも討伐に協力したという事で、希望があれば叶えるというお言葉を頂いております。
「さて、先日のビオラでの代官不正事件に引き続き、この度のドラゴン討伐に当たり、聖エゼル騎士団には何か報償を与える必要を感じている。名誉あるドラゴン討伐者である三人の騎士に……二つ名を与えると同時に、年金を与える事とする」
年金は大変ありがたく思いますが、二つ名ですか……嫌な予感しかいたしません。
「では、先ず、騎士ベネデッタ。卿はドラゴンと遭遇した際に『土』魔術を用いて迎撃し、味方を安全に坑道の外に逃がす為大いに尽力したと聞いている。また、ドラゴンがバレーノ領に逃げ出し暴れる事を防ぐため、その身を顧みず深い壕と土の槍を用いてドラゴンを動けぬように拘束した。
このことを寿ぎ、『禍止の聖女』の名乗りを許す」
「……光栄に存じます殿下……」
籠目ではありません。籠目も「沢山の目がある=禍を監視し、防ぐ」という意味があるので、悪い事ではありません。
「続いて騎士アンドレイーナ。卿は己の身を庇う事なく、毒霧の中に単身飛び込み、ドラゴンを討伐せんと試みたが、勇戦及ばず、倒れる事となった。しかし、己を盾にドラゴンの禍を防ぐために務めた行いを寿ぎ、卿の魔術に因み『風刃の聖女』の名乗りを許すものとする」
「あ、有難き幸せ。このアンドレイーナ、命尽きるまで公国の平和の為に務めます!!」
「だが、風刃の聖女アンドレイーナよ。死んではならぬ。これは私からの命令だ。生きて、責務を果たして欲しい」
イーナは深く頷きます。直ぐ突撃して死のうとするのは止めて頂きたいものですわね。
「そして、ドラゴンに最後まで立ち向かい、その『雷』の魔術を駆使してドラゴンに止めを刺した騎士団長アレッサンドラ・バレーノ。貴君には、市井で唱えられていると聞く『雷鳴の聖女』の名を
許す事にする。祖父、雷鳴の騎士である先代バレーノ伯に引けを取らぬサボアの守護神としての活躍に期待する」
私は、修道女が守りの要でこの国は大丈夫なのだろうか……など愚にもつかぬことを考えましたが、聖騎士であることを踏まえ「謹んで承ります」と簡潔に答える事にしました。
ふう、やれやれですわね。
もしかして、私はまた何かやらかしてしまったのでしょうか。
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冒険者と商会頭夫人は、名より実を取る為に、殿下と交渉した結果、ラウス様とビル様はトレノの中に「セーフハウス」を下賜して頂くことになったのだそうです。
宮殿にほど近い、今は使われていな古い館だそうです。冒険者が家を構えることは珍しいというのですが、帝国内で活動するお二人にとっては、帝国に近い場所でありながら比較的安全な外国であるトレノに居を構えたいと考えていたそうです。
アイネは「サボア公国内の特権商人」という免税特権を与えて貰う事になりました。また、支店に関しても殿下の公認で出店することができるようになると言います。
「特権期間は十年限定だし、その後は優良納税者になっているはずだから、褒美に見せかけた補助金みたいなもんだよね。あとで大きくなって帰ってくる類いのもの。でも、明白な手柄の対価の出店だから、表立って反対できないし、何かあれば殿下に報告するから……無敵モードだよね。私もドラゴンスレイヤーだし☆」
アイネ……実はリリアル閣下のドラゴンスレイヤー……羨ましかったのですわね。よく理解できました。
因みに、私たちの年金は、村一つ分ほどの年貢に相当する金額になりそうです。騎士としての本分の他に個人的な年金ですので、役職を外れても終生貰えることを考えると、老後も安心と考えることができます。
「もう働かなくていいかもしれませんわね」
「そうそう。妹ちゃんもそう考えてリリアルを作ったんだよね」
「……どういうことですの……」
リリアル学院は、魔力を持っている孤児を王国の藩屏として取り込むために作られた機関なのだそうですが、その根本にはリリアル男爵に次々と舞い込む依頼を自身で処理することが困難になってきたため、自分以外に戦力となる人材を確保しようと始めたことにあります。
「つまり……今では完全に裏目」
「そうとも限らないよ。王国内のリリアルの後進の育成は一期生の子達とお婆様に任せている感じだし、騎士団との役割分担も上手くいっている。でも、深入りするほど仕事が増えちゃうわけ。根本は王国の外に存在するからね」
最近、帝国内に秘密裏に潜入しているそうなのですが、その辺りはあまり深く聞かない方が良いのでしょう。ええ、今回のアンデッド・ゴブリンやワームの襲撃と同根なのでしょう。
「帝国の中は内戦状態なんだけどさ、単純に二つに分かれているわけじゃないんだよね。ねえ、ヴィちゃん」
「……そうね。今は同じ側だけれど、何かのきっかけで敵対する者同士が組んで、今まで同じ側だったものを攻めるなんてことは普通ね。宗旨替えって簡単みたいだもの」
表向きは原神子派と御神子派の争いに見えますが、その実、派閥の中で行き来があり、口実に過ぎないのですわね。
「攻める口実。アンデッド作りの名人は、身一つであちこちに現れて、アンデッド村作って破壊工作したり……王国ではかなりやられた。その根源を探して、妹ちゃんは帝国に潜入中」
「あまり、頻繁に帝国に出入りしていると目を付けられるので、星四の冒険者である私が依頼にかこつけて様子を見に来たというわけなのよ」
王国に対する工作を行う死霊術師は、王国に対してもサボア公国に対しても敵対している勢力が存在し、依頼さえ受けられればいつでもアンデッドを作り領内を荒せるということなのですわね。
「聖エゼルって、そういう意味では分かりやすい誘蛾灯になると思うんだよね」
アイネの言葉が胸に突き刺さります。目立ってしまったが故に、ファジャーノを襲う存在が現れかねないということでしょうか。
「まあ、密かに大量のアンデッドが現れることはないと思うけれど、城塞と領村、あとはそれぞれの実家は危険かもね。フォンテマーレは問題ないと思うけれど、錬金術師の館は……守れないかもね」
ベネの実家は、廃塔を買い取って錬金術の研究所として改装したものですから、一番孤立しておりますわね。もし、可能であるなら、シャティオンの再開発の際に移住していただくことも検討したいですわね。
「まあ、仕方ないよ。でも、油断しなければどうという事はないからね。ドラゴンはそうそう数が出ないから、まあ、大丈夫。アンデッドは強力な物は育成に時間がかかるし、サボアには精々吸血鬼くらいだろうね。因みに、下位の吸血鬼よりイーナちゃんの方が今は強いと思うよ。ね、オリヴィーちゃん」
ラウス様は頷きます。星三のイーナは、二つの風魔術を得て、限りなく星四に近い星三の冒険者レベルだそうです。お二人は、星五になりたくない星四の冒険者なのですわね。
「リリアルの一期生の下位並みだと思うよ。今、帝国に入っている冒険者している子達ね。でも、とっても強いよ。魔力量が少ないのは仕方ないからね」
リリアルは魔力量で選抜しているので、魔力量が多い生徒が多いのですが、中には出自が良いので魔量が少なくても冒険者・騎士として優れているので採用されている方もいるのだとか。
「それに、ドーラちゃんの『雷鳴の聖女』だって、相当だよね」
「ええ、間違いなく冒険者として活躍しても、名の知れた存在になっていたでしょう。バレーノ伯爵家の令嬢が冒険者をするとは考えられませんけれどね」
イーナ……男爵令嬢も本来は冒険者として名を成す存在ではありませんわよ。不満そうにしないでくださいませ。
さて、ファジャーノに戻った私たちは、一旦、ルイジと別行動を取る事にします。キアラたちを戻さねばなりませんので、リザとイーナを迎えに同行させます。
車中においては、リザとルイジはシャティオンに関する摺合せをする時間とするようです。
大公殿下の下命により、ファジャーノだけでなくバレーノの防衛も聖エゼルの任務に加わりそうで……正直涙目ではあります。
「あー 簡単だよ。一つは移民を募る。家族単位でのバレーノ領への移民だね。独身の男だけは不可。女は子連れの寡婦でも可にすれば、再起したい人たちが集まるだろうね。
年齢制限は基本ありで、有用な人はバレーノ伯とドーラちゃんで面談して決める……とかになるかな」
土夫の鍛冶師などは例外扱いですわね。それと、猟師の方も独身者が多いと聞きますので、この辺りも例外でしょうか。
「野盗の引き込み役っていうのも存在するから、シャティオンの外側に仮設住宅を建ててさ、そこで時間をかけて選別かな。長く潜んでいられる程、野盗の引き込み役は気が長くないだろうし、帝国の密偵なら、十年単位で潜むから見つけ出すのは難しいだろうからね。まあ、おいおい領主がやればいいよ」
これは、ルイジの仕事になるのですわね。サボアの騎士爵の身分を頂いたものの、まだ子供ですから、この辺りのことはお母様に相談すべきかもしれません。
お母様は……イーナと同じ元は冒険者・傭兵経験者ですから、人を見る目はそれなりに優秀であると思われますわ。
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