第94話 魔装修道女は灰色乙女に魔術を教わる
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第94話 魔装修道女は灰色乙女に魔術を教わる
「……随分と……大きなものだな」
「姉上……これを三人で討伐しようとされたのですか」
「サンドラちゃんは頑張り屋さんだから」
お母様、頑張り屋というレベルではありませんわ……
既に日も傾きかけた頃、私たちはやっとシャティオンに辿り着く事ができました。そして、出迎えの領民が沢山おりました。
領主館の前に集まった人たち。既にそこには討伐されたワームの『頭』が置かれており、何人かの兵士がその周りを取り囲むように住民を遠ざけております。この方たちは、当然、全員パートタイム兵士ですわね。
「良く無事で戻った」
「討伐……ありがとうございました姉上、皆様」
バレーノ伯親子が並んで出迎えてくれます。早速、ワームの胴体を魔法袋から取り出すと、周囲に驚きの声が広がります。
「バレーノ伯様、領民の皆さん、このような『ワーム』と呼ばれる魔物が魔銀鉱山の坑道に潜んでおりました。また、坑道内にはアンデッドのゴブリンが多数住み着いており、この『ワーム』の餌であった可能性があります」
「かなりの数を討伐し、坑道内、周辺にも残りはいなかったが、ゴブリンとはいえアンデッド故に、首を切り落とすか脳を破壊しない場合、襲い掛かってくる。動作は生前より遅いので、見つけたら逃げる事をお勧めする」
「近寄ると生きている時よりも強い力で襲いかかられるので、無理は禁物なのです。頭を叩き潰すにも大変なので、生きているゴブリンのようには討伐できないのです」
ワームの姿に驚き、更に、アンデッドの存在を知り驚きは更に高まります。
「一先ず、森には不必要に近づかないこと。一人で森に入らないようにすることとしよう」
「「「はっ!」」」
私の父であるバレーノ伯爵の声に周りの住民が同意します。
先に戻ってきたルイジ達の話を聞き、トレノにワーム種のドラゴン出現の急報を出し、鉱山跡の状況を確認する為に決死隊を募っている最中に、ビル様がワームの首を持って領主館に現れ、ひと悶着あったという事でした。
一先ず、問題はないという事で、ワームの死骸を収容し解散する事になりました。
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夕食は、私たちのワーム討伐の経緯の説明と、ラウス様一行(含むアイネ)を招待した少々豪華な晩餐となります。
ラウス様は父も存じており、祖父が存命の頃に立ち寄られた事があるそうです。それは、随分と昔のことに思えるのですが、ラウス様は、アイネより幾つか年上程度に見えますので、実際の年齢はもう少し上なのかもしれないと……思われますわね。
「ラウス殿は今回はどのような目的でこちらに来られたのでしょう」
「一つは、アンデッドを用いた帝国の工作活動の情報を得ていたこと、今一つは、依頼を受けてです」
「……当地でなにかご協力できることがあれば良いのですが」
冒険者としての依頼……それは、ギュイエ公爵令嬢カトリナ様とサボア大公殿下の婚約の前準備のためだそうです。この地に立ち寄られたのはアイネがファジャーノに不在であった私たちを追いかけてくるついでに誘ったのだと言います。
「私、ナイスプレー」
「偶然というのは恐ろしいものですね」
「憎まれっ子世に憚るっていうものね」
自画自賛のアイネに、ビル様もラウス様も容赦がありません。とても清々しい気持ちになります。ですが、そのお陰で私たちもシャティオンの街も助かったので、感謝の気持ちは多少あります。
「それよりも温泉、ここに作るんでしょ? いやー 温泉のある街っていいよね」
「それを聞いて、是非訪れようと思った次第です」
つまり、ラウス様はアイネに唆されてこの地に来たという事ですわね。
「私も山師の真似事ができますので、よろしければ、温泉の源泉を確保するために同行しようかと思います」
「それは有り難いのです!!」
「ラウス殿と……パーティーを組めるとは……私の夢、叶ったかも」
ベネとイーナは喜んでいるようですが、私は明日は一日休養に当てたいと考えています。流石に、明日は疲れが抜けないと思うからですわね。
翌日は、シャティオンの簡易な地図を起す事に時間を費やす事に致しました。どの辺りまで城壁で囲むか、公衆浴場や施療院の場所をおおよそ予定し、その話を含めてシャティオンの再開発を大公殿下とバレーノ伯、留守番中のリザがまとめられる位のものを整えねばなりません。
「温泉、いつできるの?」
「……仮設の温泉だけなら、源泉から湯を引いてここに土魔術で浴室を作るだけなので時間はかかりませんが、シャティオンの街を再開発する事を考えると、数年単位で作業しなければならないでしょうか」
「あのさ、私も関わりたいんだけど……だめ?」
「どういう風の吹き回しですかアイネ」
アイネ曰く、ノーブル領を拝領した際の街の開発の参考にする為、実務に携わりたいという希望なのだそうです。
「なるほど。ですが、あくまでも裏方ですわよ。バレーノ伯の領都の再開発で、聖エゼルが施療院と公衆浴場施設を建設するという関わりですから」
「そこで、サボア公が両方の主君として関わるんだよね。大丈夫、弁えてるから私」
全然信用できませんが、王都の都市計画を長年になって来た一族の次期当主ですから、バレーノ伯家と比べれば大いに引き出しがあるのではと期待する面もあります。
バレーノ家は戦士の家系であって、領政はそれほど得意とは言えません。
「まずは、小さい事から始めればいいんじゃない?」
「それは例えば……」
「源泉からお湯を引いて……足湯とか?」
アイネ曰く、足だけをお湯につけてリラックスする入浴方法があるのだと言います。
「そこで足を止めて疲れをいやす人がいるとするじゃない?」
「食事をしたい、泊まってゆっくりしたいというニーズも生まれる」
「でしょ? 悪くないよね。初期投資が少なくても、人の動きがはっきり変わると思うんだよ。早く印象付けて、訪れるたびに街が変わっていくって印象を与えると、シャティオンへの期待値が上がると思うんだよね」
この話は、私たちもバレーノ伯一家(私の家族でもありますが)も興味を持っております。湯量の問題など考えると、先ずはどの程度お湯が確保できるのかも確認しなければなりません。温泉が営めるかどうかという部分ですわね。
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私とベネが街を歩きながら、今後の都市計画をアイネと話をしている間、イーナとキアラそしてルイジは二人の冒険者から魔術と剣の指導を受けております。
今は一通り、計画の目途が立ったので館の前の練兵場兼広場に戻ってまいりました。
「ドラ、ベネ、私も新しい境地に到達した。見よ!!」
昨日の夕方は土気色であった顔が、すっかり紅顔となっているのは言葉の通りなのでしょう。
「風の精霊シルフよ我が働きかけに応え、我の剣となり敵を斬れ……『風刃!!!』」
剣に纏わせた魔力が、風を纏い刃となって飛翔します。その距離10m程でしょうか。短銃の射程よりやや長いといったところでしょうか。
ラウス様は、体に風を纏わせて空中を移動することも出来るのだと言いますが、イーナの魔力ではそれは難しいという事で、身体強化の延長で行える『風纏』を教えて頂いたそうです。得意げですわね。
「むぅ、この術があれば、先日の毒霧のような場所にも安全に突入できるし、炎の中もある程度燃えずに突破することも出来るのだ。どうだろうか?」
「戦務長として相応しい魔術ですわね。喜ばしい事ですわ」
とても嬉しそうなイーナにベネが「無くても突撃するから同じことなのです!」と茶々を入れ頭を叩かれております。
「妹ちゃんも同じような技があるんだけど……魔力でゴリ押しなのでみんなには無理かなぁ……私はできそうだけどね☆」
『飛燕』という魔力の刃を形成して飛ばすのですが、その飛ばした魔力に魔力走査の応用で魔力を紐づけし……命中迄コントロールする……のだそうです。膨大な魔力とその魔力を精密に管理する技量が組み合わさった魔術の発動となるので、リリアル男爵以外は用いることができないとか。
わ、私にも『雷』魔術がありますから、問題ありませんわ。むしろ、盲目撃ちでも命中するのですから。
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