第92話 魔装修道女は灰色乙女と遭遇する
誤字訂正・ブクマ・評価・感想をありがとうございます!
第92話 魔装修道女は灰色乙女と遭遇する
ワームは原始のドラゴンの一形態、そして、聖典に登場する失楽園を起すきっかけを作った誘惑の蛇であるとも言われています。
『母、危険』
「ええ、分かっているわ。坑道にできる限りの足止めの工夫が欲しいのよね」
残念ながら、ティナの魔蜘蛛の網はドラゴンの炎のブレスには効果がありません。ベネに足止め用に『土槍』『硬化』を置いてもらいますが、あまり時間は稼げそうにもありません。
身体強化の苦手なルイジの後退速度が、チームの後退速度となっているのは心苦しいところです。
後方に熱を逃がすのも難しくなりつつあります。距離が近づき、土槍を一瞬で踏みつぶしながら、既に30m程の距離まで黒いワームが近づいています。
「後退するのです!」
私が横を通り過ぎた瞬間、ベネが『土塁』で通路を塞ぎます。ですが……
Donn Donnn Donnn Bagaaaannnn !!!
何度かの体当たりで、土塁が破壊されます。ですが、崩れた壁の残骸、瓦礫のせいで、突進する速度が低下します。
「食い止めるわ、壁の用意をお願い」
「……くっ、頼んだのです!!」
魔力を高め、一撃の威力を強化するのです。
『勇電 』
BBWWWWAAANNNNNN!!!!!!
『電』が、太い糸程の雷であるとすれば、『勇電 』は、槍の柄程の太さの威力を示しております。
Gweeeeee!!!
着弾の威力で後方に撥ね飛ばされるワーム。そして、辺りに焦げ臭い匂いが立ち込めます。
そして、私自身は立ち眩みのような症状が起こります。魔力の減衰によるものでしょう。あまり、多用はできないかもしれません。
「ドラ、準備できたのです!!」
私は身体強化を行い、全力で後ろを見ずに走り出します。
『母、魔銀の網の盾で後ろを守る。前だけ見て走れ』
どうやら、魔銀の網を吹き流しのように膨らませ、魔力を通して動く魔力壁として私の背中に展開してくれるようです。背中にはティナ、そして、私の前をベネが走っていきます。
DuGWoooooo!!!!
既に、先に後退した四人の後ろ姿は無く、私たちはそのまま出口まで走り抜ける事にします。そして……
『電』
BBAAANNN!!!
近寄ってくる気配がするところを、突錐槍の穂先を後ろに向け、適当に魔術を発動します。先ほどの『勇電』を警戒して追撃速度が遅くなります。
こうして、何とか坑道の出口まで私たちは辿り着くことができたのです。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
魔銀鉱山の操業を可能にするには、ワームを退治する必要があります。ですが、その能力は仮に下位の竜であるとしても、凡そ対応できるものではありません。
私とイーナとベネ……までがギリギリ戦力でしょうか。
「キアラ! ルイジとセザール師を連れて、バレーノ伯爵邸にこの状況を知らせて。住民の退避、サボア公への報告をするように。応援は……無用よ」
バレーノ伯領の兵士では、餌になる為に向かわせるようなものです。
「あ、姉上。私も残ります!」
「いいえ。これは私たちの仕事です。竜と戦うのは騎士の仕事。そして、乙女の仕事でもあるのです」
お行きなさい!! と三人に大声て伝えます。
「ベネ、土塁と壕をできるだけ深く広くお願い」
「……わ、分かっているのです。あのワームだと、自分で穴を開けなおすので塞いでも無駄なのです」
イーナはバスタードソードを持ち出し、バックラーをしまう。あのブレスでは回避しなければ意味がありません。
「さて、どう戦う」
「イーナは前に出て斬りつけながら牽制。私は、出来る限り『雷』の魔術で攻撃するわ。声を掛けるから、一旦後退ね」
「おお、一緒に丸焦げは避けたいからな!!」
『勇電』は効果があるのですが、殺すまでは行きそうにもありません。そして、炎以外にも、毒のブレスや尾を用いた攻撃、に噛みつきも警戒しなければなりません。
空を飛べるのなら……もう終わったも同然です。
――― バレーノの民を守って死ぬのも領主の娘として悪くない選択でしょう。そう思いたいものです。
数分と掛からず、ワームは坑道から出てきます。頭の部分が焼け爛れており、肉が飛び出していますが、致命傷には程遠いと思われます。
「手負いか……いや、手負いにするだけ……凄まじいのだなドラの魔術は」
「期待しておけ!! なのです!!」
出口の壕に落ちた途端、ベネが魔術を発動します。
「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の槍を築き給え……『土槍』なのです!!」
「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する鋭さを与え給え……『尖鋭』なのです!!」
Gweeeeee!!!
強化された土の槍に挟まれ、一部体を削られたワームが絶叫
します。そして、苦し紛れのブレス……毒でしょうか。
『勇電 』
BBWWWWAAANNNNNN!!!!!!
DuGWoooooo!!!!
そして、その毒霧の中、イーナが飛び込みます。イーナは毒を受けることを覚悟で接近戦に勝負を掛けます。彼女の場合、魔術による攻撃手段がないので……仕方ないのですわ。
土の槍をへし折りながら、壕から這い出そうとするワームに、登りの斜面に土槍が形成されます。
「このぉ!!
「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の槍を築き給え……『土槍』なのです!!」
「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する鋭さを与え給え……『尖鋭』なのです!!」
ベネの膝がガクッと落ちます。私もベネも魔力量は少なくはありませんが、坑道内の補強に撤退戦時の魔力壁に、大きな壕の形成と、ベネは私以上に魔力を消耗しております。もう、ベネはだめかもしれません。
私が頑張らないと……イーナを見殺しにする事になります。イーナに声をかけ、私は再び魔術を放ちます。
『電』
BBAAANNN!!!
怒りのワームは炎のブレスをまき散らし、イーナが一瞬炎に捲かれたように見えます。ベネは魔力ポーションを飲み、再び、土槍を形成しますが、硬化する前にへし折られます。
このままでは……
「お、いいところに来たみたいね」
「ええ、全くです。お嬢さん、このワームの討伐、お手伝いしてもよろしいでしょうか?」
黒目黒髪のとんがり帽子を被った魔術師の女性と、フルプレートで身を固めた傭兵風の赤みがかった金髪碧眼長身の男性。ハルバードを装備し、ワームの落ちている穴に向かい、返事も聞かずに飛び降ります。
「ええ、お願いします……毒と炎のブレスに気を付けてください」
私の言葉にうなずくと、魔術師は『風』魔術を発動します。
「風の精霊シルフよ我が働きかけに応え、我の敵を抑え込め……『風鎮』」
ワームに向かい押さえつけるような風が激しく吹き込んでいきます。その風の圧力で穴の底に押さえつけられるようになるワーム。……圧倒的な魔術の行使が目の前に広がっておりました。
【作者からのお願い】
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。
よろしくお願いいたします!




