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第10話 没落令嬢は王女殿下のお相手をする

お読みいただきありがとうございます!

第10話 没落令嬢は王女殿下のお相手をする


 王女殿下はベネと同じ年くらいだそうですわ。話し方は少々子供らしく感じるところもございますが、その知見や振舞いは流石一国の王女殿下であると推察いたします。


 王妃様は、リリアルを通して様々な王国を取り巻く問題を学ばせる機会と捉えているようで、王妃様・王女殿下はリリアル男爵を始めとするリリアル生たちと昵懇なのだそうですわ。


「魔装馬車には乗られましたの?」

「はい。トレノから王都まで、代わる代わる馭者を務めながらまいりました」

「おお、皆さまは馭者も努められるのか。それは、侍女という枠を超えて殿下をお守りできるという事ではないのか」

「勿論です。騎乗は難しいと思うけれど、まあ、経験者もいるからそのうちね」


 冒険者をしていた元騎士志望のイーナはかなり上手に馬を御しますし、馬の世話も慣れたものだそうです。男爵家では馬の世話は彼女とその兄である現男爵のお仕事だったと言います。私も実家にいる頃は御したものですわ。


 驚くべき事に、王女殿下は魔装馬車を自ら馭者となり乗り回した経験があるそうです。魔装二輪馬車……なるほど、一人か二人乗りの軽装の馬車ですわね。それで……王宮の庭で走り回った……王妃様と交代で……どれだけ活動的なのでしょう。王妃様……王国一の淑女であられるはずの貴方様が、それでよろしいのでしょうか。


「王妃も色々あるのよー」

「とても健康的ですわね。それに、馬車で脱出する練習にもなりますわ」


 ラマンに現れた悪竜を避けたはずが、王女殿下一行の滞在する街に迫ったことがあったのですわね。


「あの時は、私とカミラ、アリーとメイの四人で悪竜阻止のために先行したのだ。私とな」


 今、私だけ二度出ましたわね。カトリナ様は、竜討伐経験がおありなのだそうですわ。王女殿下は「またですわ」と食傷気味に呟かれています。


「とにかく、魔装馬車でなくても馬車の馭者ができるのは必須なのよ」

「それに、ある程度の護身ですわね。王女を庇って自らの命を投げ出すというのは、後味が良くありません。生きて忠誠を尽くす事こそがあるべき貴族の子女、侍女の姿ですもの」


 つまり、簡単に死ねると思うなよという事ですわね。私以外の三人も少々顔が引きつっております。


 王妃殿下曰く、王女殿下の傍でしっかり務めてもらえるならば、王国内で生家や自身の立場も相応に待遇すると言われます。侍女というものは、嫁入り前の花嫁修業的な要素がありますものね。


「子だくさんは難しいかもしれないけれど、相応の騎士を夫に迎えることは可能ですわね。勿論、結婚後、産後も側仕えをお願いする事になるでしょうけれどね」

「「「騎士の妻……」」」

「むしろ侍女の妻……いや、侍従の夫が欲しいものだ」

「……イーナちゃん、それは無理だね」


 アイネの言う通りですわ。王国で騎士と言えども王家に仕える身分であれば貴族の端くれではあります。所領の差配に煩わされる事無く、家内の事だけ考えればよい王都在住の子爵男爵と変わりません。それに、騎士の妻には社交はそれほど必要ないでしょう。


 息子が生まれればそのまま従卒から騎士へ、娘であれば私が王家に側仕えした侍女であるということから王都の商人や地方の下級貴族の妻などに望まれるかもしれません。悪くありませんわ。


 そう上手くいくかどうかはわかりませんけれど、修道女としてこの先の果てしない人生を生きて行こうと決意できるほどに諦めきれません。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 王妃様と私たちは幾つかの約束を致しました。イーナは然るべきタイミングで王国の正騎士となること。リザは実家の商会の後ろ盾に王国がなってくれること、具体的には王室御用達の商人と認めてくれること。


 ベネは、王女殿下の侍女としてレンヌ公国について行くそうです。勿論、暫く先の事ですし、『魔装侍女』として十分な経験を積んでからの事になります。


 そして、私は……今のところ何もございません。幸せな結婚に憧れないではありませんが、既に伯爵家を出された身、まして、改めて政略結婚をするような家柄でもありません。伯爵令嬢と言う中途半端な身分も、身の振り方に悩むことになります。


 男爵子爵家からすれば、伯爵家の娘にはそれなりの実家からの援助なり、影響力の行使を望みますが、我が伯爵家にはそのようなものはありません。騎士に嫁ぐにしては、高位貴族の娘であることから釣り合いを考えて敬遠されることになるでしょう。


「ドーラちゃんは、没落令嬢団の団長として末永く活躍してもらうから、ゆっくり考えればいいんじゃないかな?」


 帰りの馬車では王女殿下の侍女になる気満々のベネが馭者を務め、替わりにイーナが座っています。アイネの『団長』という言葉は少々苛立ちを感じますが、私自身が何をしたいのか、どうなりたいのか皆ほどないということを考えると、その場限りの言い繕いだとしても、それで納得しなければならないのでしょう。


「真面目で責任感が強くて、自分の事は後回し。妹ちゃんに似ているよねドーラは」


 リリアル男爵のことですわね。似ているのは……髪の色と目の色くらいではありませんか。彼女が自らを奮い立たせ、あの物語の姿の半分でも真実であるとするならば、まさに『英雄』と言える存在ですわ。何もかも諦めていた私とは似ても似つきません。


「私は男爵閣下の事はお芝居や物語でしか知りません。ですが、それでも畏れ多くて似ているなどとは思えませんわ」

「そういう、小心……謙虚なところも似ているかもね。臆病だから細かく手を打って用心深く進んでいく。万が一にも仲間が傷つかないようにね。大胆と蛮勇が違うって事を理解して、それでも、決断するべき時に決断できるだけの事実を積み上げていく。そういう存在だよ、リリアル男爵は。

 この中で、それができそうなのは……ドーラちゃんくらいかな。私も苦手だし、他の子は……ね?」


 他の二人もうんうんと深く頷いておりますわね。淑女としてどうかと思いますのよ。


「残念ながら事実ではある」

「私も……視野が狭いところがあるので、ドーラには叶わないと思います」

「まあ、高位貴族と下位貴族の違いだよね。我が子爵家は家業として王都の都市計画を管理する家だから、王家や官僚、王都の有力者に騎士団なんかの利害調整をする当主の姿を見て育つからそこまで感じないけれど。

 妹ちゃんなんて、最初から政略結婚する気満々で、出来損ないの家に嫁いで自分が主導的に王都の開発に婚家を利用しようと思って勉強してきたから、法律や契約・帳簿なんかも完璧なんだよね。社交も、愛想用じゃなくって交渉とか駆け引き系は得意なんだ。本人は、今からでもどこかの家に嫁入りする気満々なんだけど……」

「「「無理!!(だな)(ですわね)(です)」」」


 リリアル学院(当時)を創設したのは彼女が十三歳で男爵に叙せられた後からだそうです。それから数年かけて今の規模と内容に育ててきているのだそうです。何人もの騎士を抱える有力な男爵家にあっという間に成長させたのですわ。


「手本があるんだから、簡単だよね。妹ちゃんは白紙状態から立上げたんだからさ。それに、相手は孤児だよ。面倒なことは沢山あったと思うよ」


 アイネは「私も協力したんだー」とのたまっておりますが、邪魔をした若しくは弄り倒したの間違いだと思いますわ。


 私はともかく、三人にはこれからの目標が明確になったのですから、それぞれがやる気を出してもらえれば一番だと思うのです。私は……ゆっくり考えさせてもらいます。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 リリアルに戻ると、改めて私たちの歓迎会という事で、改めて自己紹介を皆がしてくれました。


 その中に、副院長のニース騎士爵様がおられましたわ。ニース辺境伯家の家令を務めるニース男爵の御令嬢。先代様の奥様の妹様のお孫さんにあたるそうですわ。


「院長が不在の時は、遠慮なく私に相談してちょうだい。よろしくね」


 とても快活で、ニースの女性らしい明るい雰囲気の方です。男爵家の令嬢と言うことで、私たちも親近感を感じますわ。


 大きく分けて、リリアルには、男爵の親族である院長代理と、魔術師一期生である騎士・従騎士の皆さん、薬師・薬師見習の方達、使用人及びその見習をしている元孤児の皆さん、工房を運営している親方とその弟子であるリリアルの魔術師、魔術師二期生の生徒の皆さんがおられます。

 

 私たちの扱いは、魔術師二期生の方と共に聴講し、薬草の管理、ポーションの作成、薬草畑の管理、養鶏、魔術の練習・武具の取り扱いの練習……を短期間で行い、二か月程度の目途でトレノに戻ることを目指します。

 薬師のコースは半年でそれなりの技術が身につくとのことですので、魔装がある程度身についていて、ポーション作りも経験だけはある私たちに関しては二か月ないし、三か月で十分戦力化できるとアイネは考えているようです。


 年齢的には十代が大半。年齢的に高いのは院長代理くらいのものでしょうか。まだ本当に立ち上がったばかりの集団なのですわね。


「ニース領内だったら、修道院でも学院でも準備できるんだけどね。トレノがいいのなら、ちょっと頑張らないと厳しいってわかるよねみんな」


 アイネの言う事は、あの修道院が教皇庁から「神学校にする」と告げられている事実に基づくものです。そう、遠くない日にあの修道院は解散させられ、私たちの居場所はなくなってしまいます。


 教皇庁の決定を変える事は難しいのは理解できます。ですので、別の修道院に移ることは吝かではないのですが……


「ミケーレ修道院に移動になるみたいだけどね」

「「「「……え……」」」」


 その修道院は、古帝国時代の街道を守る要塞の後に建設された小高い丘の上にそそり立つ天険の修道院でございますわね。修道院と言うよりは……私の眼には『監獄』にしか見えません。





これにて第一幕終了です。以降は毎日投稿……頑張る予定です。


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よろしくお願いいたします!


【関連作品】


 本作とリンクしているリリアルが舞台のお話です。

『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://ncode.syosetu.com/n6905fx/


 

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[一言] 姉が真っ当に教師してた
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