第01話 没落令嬢だよ全員集合!!
『妖精騎士の物語』第四部の背後で繰り広げられるお話。本編には登場していないサボア公領東側の領地でお姉ちゃんがゴソゴソするお話です。前半でリリアルが、後半でオリヴィが協力者として登場します。不遇な修道女生活を改善していくお話です。
今週末3日間で第一章十話迄続けて投稿いたします。よろしければお付き合いください。
第01話 没落令嬢だよ全員集合!!
「没落令嬢さんたちは、ここにいるのかな?」
黒目黒髪の迫力美人が笑顔で部屋の入口に立っている。今は古ぼけた修道院の一室、ここにいる四人は確かに没落令嬢ですわ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
私の名はアレッサンドラ……家名は名乗れませんの。ええ、今は修道女見習として歴史だけはあるアリア修道院に籍を置いております。
歴史ある伯爵家の娘として、幼い頃から淑女として育てられた私には伯爵家の嫡男の婚約者がございました。ところが、先代のサボア公が亡くなり、サボア公国内の力関係が変わってしまい、私は婚約破棄……いいえ、解消されてしまったのです。
確かに、婚約者と付き合いのある平民の女性に忠告をしたり、直接出向いて叱りつけたこともございます。ところが、その女性は婚約者に資金援助をしている大きな商会の娘でした。結論から言えば、金のない伯爵家の娘より金のある都市貴族の娘を娶る方が価値があると判断されたのでしょう。父も母も大変悔しい思いをしたと思いますが、誰よりも悔しいのは当事者の私ですわ。
婚約が白紙となり、新たな婚約者を見つけるには社交に精を出す必要があるのですが我が伯爵家にそのような余計な予算はございません。結果として、良縁に恵まれるまで修道院で淑女修行をするようにとの計らいとなりました。
婚約解消からほとぼりを覚ます……という点もありますが、今一つは、娘の生活に掛ける予算が少なくて済むという点もあります。修道院に居れば、社交をせずに済み、その為に必要なドレスや宝飾品、美容用品にお付きの女性や馬車の用意もせずに済み大変経済的なのですわ。
アリア修道院はサボア公国の副都『トレノ』の北20㎞程の所にある歴史ある修道院ですの。その昔はスコラスティカ派の主要な修道院として、四つの街を治め、百を超える教会と三十余りの修道院を影響下においておりましたそうですが、ここ百年ほど衰退がすすんでいるのだそうですわ。聖征の影響で、より過激な行動を好む宗派が勢いを増しているからでしょうか。
その為、すっかり寂れてしまい、今では寄付金も少ない貧乏貴族の未婚女性が放り込まれることが少なくありません。
行儀見習として一番良いのは、各公爵家の侍女として召し出されることですが侍女は仕事をすると言っても公爵家の女性に仕える話し相手のようなことが多いのです。故に、衣装代などは自弁し社交に同行する必要もあります。これは、実家が豊かであり公爵家ゆかりの方と交流する事に意味を見出す者でなければ務まりません。
また、アリア修道院よりも新しく、トレノ市内に居を構える修道院もございますが、そちらは淑女としての行儀作法を結婚前に学ばせる言わば花嫁学校のような環境です。寄付金も沢山必要ですし、生活も所謂修道士・修道女としての生活もさほど大変ではありません。
この場合、目的は結婚の一年前に男性と接触していない、いわば保証をする為の施設です。子を為した場合、異性と接触が婚姻直前の一年間なければ、確実に夫の子という事の証明となります。
また、何らかの理由で嫁げない方も、市内の修道会で生活するのはあくまでも世を忍ぶための方便。実家が侍女や寄付を多くすることで、別荘暮らしを楽しむ程度の大変さに過ぎません。茶会や夜会などに参加する事は出来ませんが、出れば何らかの噂の種になり兼ねない身の上であるからこそ、修道院に避難しているわけですから、参加できない方が良いのですわね。
そして、我がアリア修道院は『ガチ』の修道院なのですわ。数年の間は『見習』ということで、俗世に身を置いた状態で生活しておりますけれど、実家としても婚姻先を見繕うことが出来なければ、そのまま適齢期を過ぎてしまい、自動的に『聖職者』への道へ進まざるを得なくなります。
市内の修道会は基本的に聖職者になる方は少ないのですが、アリア修道院に関しては……二十代半ばになれば自動的に『修道女』とならざるを得ない状況に陥るはずですの。ええ、まだ諦める時間ではございませんのよ。
私と同室で過ごす修道女見習は他に三人おります。
アンドレイーナは男爵令嬢で年齢は十九歳。父の治療費を捻出するために冒険者となった騎士の娘です。残念ながら、父君は亡くなり兄君が男爵家を継いだのですが、冒険者としての経験が男爵令嬢らしく無いという事で、暫く修道院で行儀見習いを……という建前でここに放逐されたのだそうです。兄からすれば行き遅れの妹は厄介者なのだろうと彼女は納得しており、アリア修道院で修道女見習を行いつつ、冒険者に復帰する機会をうかがっているというところだそうです。
アンナリーザは私と同じ年の十六歳の元子爵令嬢です。彼女の実家が経済的に没落しつつある子爵家で、貴族と縁を結びたい商会の息子と婚約していたのですが、更に良い条件の令嬢と婚約する為に、婚約を白紙にされたとか。
サボア公が代替わりした関係で、私の婚約と同様に利害関係に変化があった影響ではないかとも思えますが、予想外に子爵家の困窮具合が激しく、よりましな貴族に乗り換えたのではないかとも思われます。
ベネデッタは元子爵令嬢で最年少の十四歳。可愛らしい容姿で彼女の場合令嬢教育の為に入会しているのですが、予算的にお安いからという理由で市内ではなくこちらの修道院に入れられています。
但し、ご両親は彼女の世間知らずさを危惧していたためにこちらに送ったという面もあるのだそうですわ。以前に結婚詐欺や寄付金詐欺にあいかけた事があったそうで、とてもおっとりとした性格から納得させられる内容です。
今ではみな愛称で呼び合う仲です。私アレッサンドラは『ドラ』アンドレイーナは『イーナ』、アンナリーザは『リザ』ベネデッタは『ベネ』と呼ぶ関係です。
私たち四人は性格も、育った環境もそれぞれ異なりますが、ただ一つ、『お金で苦労している』という点で一致する関係なのですわ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
私たちが日々の日課を終え、夕食の時間を待っていたところ、来客があると伝えられました。
「心当たりがございませんわね」
「そうだな。それも、四人そろって会いたいという事は、家族ではないな」
「そうですね。誰でしょうか」
「誰でも良いのです。お客様は歓迎したいのです」
私の言葉にイーナ、リーザ、ベネがそれぞれの思いを口にします。滅多に家族が会いに来ることもありませんので、来客が誰であろうと歓迎する要素は多分にあります。
このまま私たちの寝室という名のタコ部屋にお客様を迎えるわけには参りませんので、早々に来客用の応接室へと移動致します。来客には紅茶と茶菓子が出ますので、それも私たちにとってはとても嬉しい事です。
因みに、修道院の食事は粗食というほどではありません。食事に肉か魚、果物に甘味、ワインにお腹いっぱいになるほどのパンが付きますので、見習として程々の日課しかない私たちには十分な量ですの。
応接室には、私たちと同年代かやや年上と思われる女性とその使用人らしき若い女性がいました。
主人であろう黒目黒髪の見目麗しい女性は、仕立ての良い光沢のあるシルクのワンピースに赤いペチコートを合わせている。貴族の外出着としてはいささか活動的過ぎるが、富裕な商人の奥方にしては雰囲気が尋常ではない。
――― 魔力が溢れているのを感じる。
「ひっ」
「な、何者だあなたは」
ベネが怯え、イーナが誰何する。
「初めまして皆さん。私はニース商会頭夫人のアイネ。王国の子爵令嬢でーす」
外見からは想像できない軽やかな口調で少女のように自己紹介をされます。ニース商会は、旧ニース公国、王国に転じてからは『ニース辺境伯』を賜った元隣国の領主が経営する商会。確か、辺境伯の子息が商会頭であったはずですわ。
という事は、この女性は辺境伯の義理の娘に当たるという事ですわね。でも、何の用事でわざわざサボアの辺鄙な修道院に見ず知らずの私たちを訪ねてきたのでしょう。
「アレッサンドラですわ」
伯爵令嬢と断るべきかどうか迷いましたが、今は一介の修道女見習に過ぎないと思い、名前を簡潔に伝えます。他の三人も私に倣い、名前だけを伝える事にしました。
「ご用件はどのような内容でしょうか」
「ふふ、知りたい?」
何言ってるのかしらこの人。本当に訳が分からない人ですわ。
「名前、愛称でも構わないかな」
「ええ、構いませんわ。私の事はどうぞ『ドラ』とお呼びください」
「ドラちゃんね。えーと『イーナと』、『リザです』、『ベネなのです』……なるほどね。イーナちゃん、リザちゃん、ベネちゃん、私はアイネ。よろしくね☆」
アイネ夫人はにっこりと微笑みます。恐らく、王都の社交界でもその姿はとても目を引くでしょう。身につけているモノのセンス、信愛を感じさせる表情としぐさ、そしてとても女性らしいスタイル。磨きあげられた肌の美しさも貴婦人という印象を強くさせます。
ですから、何故、貴方がこのような辺鄙な修道院にいる私たちに会いに来たのか説明してくださいませ!!
「みんなは、このままこの修道院で年を重ねるのはかまわないのかな?」
そんなわけないじゃありませんか。それでも、自分の身をどうにかできる手段はここにはございませんのよ。
【作者からのお願い】
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。
よろしくお願いいたします!




