いまだ溢れる恋慕の情
誤字脱字報告ありがとうございます!サラッとお読みください!
ホムンクルンス。錬金術で錬成された人形でも機械でも無い生き物。ホムンクルンスは主人の心を映す鏡。私は小さな頃から父を見習い、錬金術に没頭していた。
だがそんな平穏を壊す、一番面倒くさい奴がいつも私の錬金術の邪魔をする。
「引き篭もり。ネル、少しは外に出ないと死ぬぞ」
「人間は外に出なくても死なないから大丈夫」
特徴的な赤い髪、水色の瞳の左には泣き黒子。黙っていれば美少年なのに、いちいち小言を言ってくる。そして私はグレンに手を引かれ外へと引き摺り出される。
「なあ、何でホムンクルンスを作りたいんだ?」
「……死んだお母様に少しだけでも逢いたいの。例え偽物だとしても」
「そっか……悪かった……そうだ、これやるよ」
少し照れ臭そうに小さな花束をグレンが私に差し出す。
「これ……」
「庭に綺麗に咲いてたから……お前にやる」
「有難う……」
私もグレンと同じように照れ臭く笑う。この日常がずっと続けば良いのに。
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「なんで!?なんでグレンが戦場に行かなきゃいけないの!?貴族の嫡男なんだよ!?」
私はとっくに身長を越されたグレンに掴みが掛かり、揺さぶる。
「俺に兄弟がいないの知ってるだろ」
「……ないでよ。……行かないでよ!!」
涙がポタポタと床を濡らす。グレンはハンカチで私の涙を拭う。私はその腕を掴み、自分に引き寄せ口付けをする。グレンも何の抵抗も無く抱きしめてくる。まるで最後の別れのような。
「もう泣くな。大丈夫、必ず生きて帰ってくるから」
「嘘だ!!どうせ死ぬのなら私の思い出ごと持っててから死ね!グレンは分かってない!!人間は、死んだらはいそれまでで終わりなんだよ!!」
「ネル……」
「困るのは残された側で、なんやかんやと物理的な事が終わっても、思い出とかのタチの悪いのが残るんだよ!!」
グレンはただ私を抱きしめる。私達はもう何も言わず、言葉は必要ないとばかり体を繋ぎ合わせた。
でも、世の中そうは上手くいかなくて。しばらくしてグレンが戦死したと知らせが届いた。
(必ず帰ってくるって約束したのに)
私は会いたい一心で研究していたホムンクルンスを作るのに没頭した。そして錬成して出来たのは、幼い頃のグレン。
ホムンクルンスのグレンは何も喋らず、私の後を追いかけるだけだった。分かっている……ホムンクルンスのグレンは本当のグレンじゃ無いって事は。
ぼんやりと自室のソファに沈み込み、虚空を見つめる。そんな私の側でグレンが花瓶に挿してある花を掴み、私に差し出してきた。
「に、わ……にきれいな………はな、さいていたから……おまえに、やる」
私は何を映し出した?
「……ああ、ぁぁああああ!!」
小さなグレンを抱きしめ涙を流す。私の心は既に亡くなった母では無く、グレンを映し出していた。
好きだった。愛していた。私の手を引き光の元へ連れ出していたグレンが、どうしようもなく好きだったのだ。
私に残ったのは後悔と懐古と、未だ溢れる恋慕の情と。
お読みくださり有難うございます!