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新米メイドは王子を暗殺したい



ところが、二ヶ月経ってもアンジュ王子暗殺の任務は完了されていなかった。


(な、何なのかしら、あの王子、全く隙がないわ…)


初日に、眠るアンジュ王子に毛布をかけながら、首に手を掛けようとしたことがある。


その時も、パッと目覚めてドルチェの手を掴み、熱を帯びた眼差しで、


「僕から離れないで」


その後も手を離してはくれなかった。


(まさか、気づかれてる?!見張っているぞとでも言いたいの?)


勘違いである。アンジュの方は、ただドルチェを誘惑しようとしたのだ。


結局、その日は両者共失敗に終わった。


そして二ヶ月の間、似たような失敗が続き、ドルチェはすっかり怯え、アンジュも半ば自信を無くしていた。


その日も、朝の身支度を手伝う折、


「ねえ、ちょっと今日は熱っぽいんだ。自分で服を脱げないから、君がシャツのボタンを外して、着替えさせて」


アンジュは、わざわざ人払いをして他のメイドを下がらせ、ドルチェに頼んだ。


「か、かしこまりました。では、失礼いたします」


ドルチェは緊張の面持ちで、ボタンに手を掛ける。メイドの仕事とはいえ、年若の美少年の服を脱がせるなど、気恥ずかしい。


アンジュは、ボタンを一つ一つ外される度、白く滑らかな肌が露わになっていくのも気にせず、わざと無防備な様子で構える。


心臓部分まで見えかかったとき、ドルチェは震える手でアンジュの右胸に触れ、思考を巡らせていた。


相手の心臓の音が聞こえる。


(これはまたとないチャンス…?!今、急いで太ももの裏に隠した短剣を取り出し、心臓を突き刺せば…)


「ねえ、ドルチェ、どうしたのー?顔が赤いよ?」


(まずい…速く実行しないと、気づかれるわ。一瞬で殺らないと、護衛を呼ばれるわよね。今、私達はこの広い部屋に二人っきり。これじゃ、殺せと言わんばかりじゃない。これはチャンスよ、やるしかない、殺るわ)


ドルチェは、決意し、太もも裏の剣にそっと手を掛けた。


その時だ。くすくすと、アンジュの悪戯っ子のような笑い声が頭上で聞こえる。


(な、何?!笑ってる?!やっぱりこれは罠?!わざわざ人払いされてるのも、私を現行犯で捕まえるため?この王子、私を踊らせようとしている?)


勘違いである。アンジュの方も、ドルチェを誘惑しようと企んでいるに過ぎない。


「ねえ、今、()()()()()()()()だよね」


「そ、それが何か?!!!」


(やっぱり、バレてる?!!)


「今、僕達が()()()()()()誰も見てないし、何も聞いていないよ」


アンジュが、耳元で甘ったるく囁く。


(か、完全に挑発されている!!!殺せるものなら殺してみろと?!)


そして、誘導されるままに窓辺に座らせられた。アンジュは着替えの途中であったし、半裸である。


まじまじと、ドルチェを観察するような視線を向けたのち、


「はぁ、そんなに可愛い顔して、もしかして僕を()()()…?!」


(うそでしょう?!!完全に殺す気なのがバレているわ!!!すでにこの暗殺計画は詰んでいるというの?!)


勘違いである。しかし、ドルチェは今、自らもアンジュに殺されることを覚悟した。


身元が調べられ、国元の家族に迷惑が掛かってはならない。


(殺されそうになった瞬間、私も殺るわ。必ず刺し違え、情報漏洩を避け家族を守るのよ)


強い意志を再確認し、歯を食いしばってアンジュの新緑色の瞳を見返した。


朝の日の光を孕み、宝石のエメラルドのように輝いている。この輝き、もとい命を奪う覚悟を決めたドルチェ。だが、


「君の行動が気になって、気づけば目で追ってしまうし。知りたいんだ、君が一体()()考えてるのか」


「で、殿下…?!!!! 一介のメイドの私が、何を考えているかですって?!」


(気付いているくせに。私が考えてることは、あなたを殺すことだけよ)


勘違いである。アンジュは全く気付いていない。


「ねえ、ドルチェ。君は一体()()?どうして僕の心を揺さぶるの?」


アンジュは、ドルチェの手に頬ずりをした。滑らかな冷たい肌の感覚が、手から伝わる。


「で、殿下…。お戯れはお辞めください」


(何者かですって?!本当はとっくに知っているくせに。殺るならもったいぶらないで、早くかかってきなさいよ?!覚悟は出来ているわ)


「ねえ、ドルチェ。君の正式な名前を教えてよ。()()のことや、()()のことも知りたい。出来れば、僕は君が知りたいんだ」


「私のことが………知りたいですって?!」


ドルチェは驚愕した。身体の内側から震えが湧き上がる。


(家族のことも、兄弟のことも、とっくに調べはついているというの?!!!もうすでに、人質に取っていると脅しているのね?!!)


勘違いである。口説き文句に過ぎない。


「うん、君のことを、たくさん教えて」


アンジュは、天使のように優しげな浮かべた。


日の光を纏い、白く端正な顔は神々しく浮き上がり、薄桃色の髪はふわふわと靡く。


その美しく優しい笑みが、ドルチェの目には世にも恐ろしく見えている。


(こいつ、こいつは天使の皮を被った悪魔だわ?!!!そうやって笑ったまま、何の罪もない、私の小さな妹弟まで殺す気なのね?!)


「……それだけは、()()の話だけは勘弁してくれませんか? この首でしたら、もう…観念して差し出しますので」


「はぁ?!何だって?!」


ドルチェは観念し、脱力した。絶望し、その瞳を閉じた。


まだ幼い妹や弟だけは、守らねばならない。


拷問され、どんな辱めに遭おうとも、それだけは阻止せねば。


しかし、次の瞬間ドルチェは目を疑った。


ふらふらとよろけたアンジュが、独りでにばたりと倒れたのだ。


大理石の床に転がる、半裸の美少年。それは間違いなく、ドルチェが暗殺を目論む相手、[アンジュ ヴィ シャルル]である。


「…え?!」








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