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偶人奇譚 Ⅰ 虫食み仏  作者: Thing
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「……死ぬかと思いました。いや、死んでますけど……」

 ぜえぜえと肩で息をしながらオーレンは言った。参道の道中、最後の数メートルが本当に危なかった。美夜がなんなく渡った岩場にオーレンが乗った途端、参道が連鎖的に一気に崩れたのだ。悲鳴を上げながらオーレンは次から次へと岩場を飛び移り、どうにか美夜の待つ山頂まで辿り着いた。

「オーレンちゃんやるじゃん。最後の連続ジャンプ、八艘飛びみたいですごかったよ! あと数センチ距離が足りなかったら終わってたね!」

 美夜が拍手してオーレンを賞賛する。オーレンはありがとうございます……と小声で言いながら曖昧な笑みを浮かべた。岩場は美夜のあとに続いてオーレンが乗った瞬間崩れ始めた。いくら崩れかけだったとはいえ、ハンマー担いだ少女より私は重いのだろうかとオーレンはすこし気落ちした。


 山頂には、こぢんまりとした冥恩寺(みょうおんじ)の本堂が寂しげに建っていた。遠目で見ると、あばら屋のようだったが、近づくと外壁は意外としっかりとした漆塗りの板で作られていた。

 中に続く黒塗りの扉は固く閉ざされていた。すいませーん、どなたかいらっしゃいますかー、とオーレンがとんとんとひかえめに扉を叩く。反応はなかった。

「オーレンちゃん、耳をふさいで、口開けて」

 美夜は短く言うと、スクールバッグから粘土の塊のようなものを取り出し、扉に向かって無造作に放り投げた。


 爆発した。


 爆風の衝撃でオーレンはまたも吹っ飛び、地面に叩きつけられた。首がまたまたありえない方向に曲がってしまった。扉は粉々に砕け散っていた。

「ああ……やはり『チェコ製(セムテックス)』はいい……美しい爆発音と衝撃ね……」

 髪をなびかせながら、起爆装置を握りしめる美夜はうっとりと笑顔を浮かべていた。

 曲がった首を直しながら、任務も何もかもうち捨てて帰りたいとオーレンは心底思った。


 扉の残骸を乗り越えて内部に入る。本堂の中は闇に包まれていた。外の光が入らないように意図的に設計されているらしい。あたりにはかすかに薄い煙がたちこめていた。線香だろうか。オーレンはあたりの匂いを嗅いだ。香りは良いが、どこか感覚がおかしくなるような気がするとオーレンは思った。

「こんにちはー! 不死狩りでーす! 冥泉さんいらっしゃいますかー!」

 美夜が静寂をぶち壊す大音声で叫んだ。

 闇からはなんの返答もない。美夜はハンマーを柱にガンガン叩きつけながら再度「すいませーん!」と遠慮なく叫ぶ。オーレンは美夜の横暴な振る舞いをたしなめようかどうしようか迷ってオロオロしていた。

 美夜が大声で叫び続けても応答はなかった。特殊閃光音響弾(スタングレネード)でも投げてやろうかな、と彼女が思案してスクールバッグを探り始めたときだった。

「何用か……」

 闇の奥から、男のかすれた声が聞こえてきた。

 ぼう、と蝋燭の火が灯り、堂内を明るく照らす。

 首が刎ねられた仏像の前に、ボロボロになった僧衣を着た男が立っていた。

「……先程より騒がしいのは貴公らの仕業か」

 僧衣の男が言った。

「冥泉さん、ですね? こんにちは。わたくし、彩賀美夜という者です。不死狩りを生業としています」

 ふかぶかと頭を垂らして、美夜は言った。先ほどまでの無礼な真似が嘘のようである。オーレンもあわてて頭を下げると、おおおオーレンです、と早口で言った。

 僧衣の男――――冥泉は、無言で美夜を見る。用件を話せ、と暗に促しているようだ。美夜が頭を上げ、冥泉を見据えると言った。

「あなたを、狩りに来ました。依頼人は冥泉さんの弟君です。もしもあなたが生きていたのなら御山から下界に連れ戻してほしい、もしも死んでいたのなら骨を拾って荼毘に付してほしいと頼まれました。――そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。故に、」

 美夜はスクールバッグからハンマーを取り外すと、ぶん、と振り上げ、構えをとった。


御身(おんみ)を、祓魔(ふつま)(たてまつ)る」


 流れるように戦闘態勢に入る美夜を見てオーレンがあわてる。冥泉はオーレンに見向きもせずに、美夜に向かって嗤った。

「くく、驚いたな。今度は小娘か」

「ああ、小娘だけど、不死狩りだよ。一応聞いとくけどさ。先月、冥恩寺に来た不死狩り、どうしたかな?」

 冥泉は美夜の問いを聞いてしばらく考え込むようにうつむくと、やがて静かに嗤い始めた。

「……ああ、あの煩わしい小僧のことか。ふん、なにやらやかましく我が修行を邪魔しおったゆえ、頭からまるごと食らってやったわ」

「――――そう」

 美夜は静かに言った。目を閉じ、すぐに開いた。

「人間を、食ったんだな」

 美夜の眼は研ぎ澄まされた刃のように鋭く冷たくなっていた。


「ならばお前は、彩賀(わたし)の敵だ」

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