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参道みたいなもの、と美夜は言ったが、オーレンには瓦礫が積み重なっているだけの岩にしか見えなかった。遠く山頂にまで続く岩道の両端は切り立ったガケである。悪路と呼ぶのもはばかれるような道なき道を、女子高生とキョンシーは歩いていく。
「冥泉さんっていうお坊さんに用があってね」
岩場を軽快にジャンプして渡りながら、美夜が唐突に言った。
「もともと禅の修行してたお坊さんなんだけど、ちょっと魔が差しちゃったらしくてね。不死の呪法にはまっちゃったらしいんだわ」
美夜の話を聞きながら、オーレンは必死で彼女についていく。それなりに身軽なオーレンだが、それでもこのぐらぐら揺れる不安定な岩場を、美夜と同じスピードで進み続けるのはかなりの覚悟が必要だった。
「冥泉さんの弟さんが、どういうルートからかお兄さんが邪道に墜ちたことを知ってね。私たち不死狩りに依頼をしたってわけ。もしまだ生きているようだったら御山から下ろして、死んでいたら荼毘に付してくれってね。で、そのどちらでもなかったら……おっと、オーレンちゃん、そこ崩れる、いったんストップ」
美夜の指示に従ってオーレンは歩みを止める。次の瞬間、参道の一部が土台から崩落した。瓦礫が恐ろしい勢いで切り立ったガケから滑り落ちていく。オーレンは冷たい汗が背中を伝うのを感じた。また落ちたら今度こそ戻れなくなる。
「おっけい。そっちのルート崩れちゃったから、こっちにジャンプで飛んできて。え、できない? キョンシーなら二段ジャンプくらいできるんじゃないの?」
むちゃくちゃなことを言いながら美夜はひょいひょいと崩れた岩場を上っていく。鋼鉄のハンマーをスクールバッグにくくりつけているのが信じられない身軽さである。
「禅で辿り着けないのなら魔で悟りを得ようとでもしたのかな。いずれ邪道で大悟に至れるとも思えないけど。『虫食み』という邪法、オーレンちゃん知ってる?」
「いえ……」
オーレンは否定した。虫食み。『秘伝書』のことだろうか。
「そっかー、じゃあ完全に結界に巻き込まれちゃったんだね。大丈夫大丈夫、わたしにまかせて。ちゃんと無事に帰れるように頑張るからさ!」
美夜は笑顔で宣言した。と、オーレンの方を向くと眼を見開いた。
「あ、そこ! オーレンちゃんの立ってるとこ! うしろの景色いいじゃん! 自撮りしよ! せるふぃー!」
そう言うと美夜はオーレンがおそるおそる立っていた岩場に飛び移ってきた。二人分立つにはあまりにも狭すぎる小さな足場に、である。ひいいえええ、とオーレンは奇声を上げた。美夜の身体にすがるように抱きつく。必然、二人は密着するようなかたちになる。
「あっはー! なんかカップルみたいだね! ほらオーレンちゃんスマホ見て! セイピース!」
「ひやー! ひやー!」
荒れ果てた参道で、オーレンの悲鳴と美夜の携帯のぴろーん、という間の抜けたシャッター音がしばらく鳴り響いていた。




