上級クラスへ……
今日は初日ということで、私は午前中で終わりとなった。魔法食堂とやらのボタン一つで何でも出てくるご飯を食べ、皆に別れを告げて帰路に着く。
「……ちょっと学校を散策してみませんこと?」
「仰せのままに……」
ニヤリと笑うじいやを連れて、私は再び学校の中へと忍び込んだ。折角だから上級クラスでも見ておこうかしらね。
敷地の奥、壁に書かれた魔方陣がより複雑になる渡り廊下の先に、そのクラスはあった……。
* 上級クラス *
黒のプレートに金色で書かれたその文字は格調高く、この魔法学校の誇りであるかのような威厳を放っていた。
私は躊躇いなく廊下を突き進むと、とある教室の中から魔法を発する声が聞こえてきた。
―――ガッ!
壁に耳を近づけていた私の頭を、誰かの手が鷲摑みにした!
壁から生えてきた手だ!!
「えっ!! な、何!?」
手はそのまま私の頭を壁の中へと引き釣り込み、私は教室の中へと入れられてしまった!!
「なんだ、転入生か……」
教室の中では禍々しい魔方陣の周りを取り囲むように上級クラスの生徒たちが並んでおり、何やら話し合っている様に見えた。
―――ガラガラ
「わわっ! なんかオッサンも入ってきたぞ!?」
「じいや! 助けて頂戴な!」
扉から普通に入ってきたじいやは落ち着き払って冷静に手刀で縦に払った。
―――ブオッ!!
手刀から飛び出す衝撃波は私の頭の傍を通り、私は頭を掴んでいた手から解放された。
「お嬢様に気安く触らないで頂きたい」
クラス内はピリピリとした空気が張り詰めた。しかし、目立つほどに長い黒髪の凛々しい女性が手を一つ打つと、クラスは落ち着きを取り戻し彼女へと視線が集まった。
「やあ、上級クラスへようこそ。まずは手荒な歓迎を詫びるとしよう」
アイシャドーを塗り男装の麗人の様な美しさを放つ彼女の目は、不思議と見ているだけで鼓動が高鳴るような感覚を覚えた。白い手袋をはめ細身のドレスを纏う彼女は、明らかにこのクラスのボス的存在感を放っている。
「だがね、今は運動会の作戦会議中でね……聞かれては困るのだよ!」
強い語尾から放たれた眼力とも言える目力に、私は指一つ動かすことが出来なくなった!
まるで動くことが罪であるかのような感覚に襲われ、私の心と体が彼女の物になってしまったかの様な感覚に襲われる!!
「私の名前は盤古 蘭。君の噂は既に聞いている。何でも授業でノノ先生を瞬殺したみたいだね……私は強い女性が好きだ。どうだい? 君さえ良ければ我がクラスに入らないかい?」
一指叶わぬ私の胸に、彼女は銃の形を作った人差し指をトンと押し付けた。その指は次第に花のように何かが咲き始め、綺麗な白百合へと変化した。
―――ブオッ!
「!!」
彼女は大きく仰け反り、真横から放たれた衝撃波を寸でのところで躱した。指が私の胸から離れ、私は糸が切れたかのようにその場に座り込んでしまう。
「もう少し見ていたいのですが、お嬢様に害を為すのは止めて頂きたいですな……」
「……貴方は?」
「じいやでございます」
「……そうか。では貴方には死んで貰うとしよう……それも美しくな!」
上級クラスの生徒達の殺気がじいやへと向けられた!