じいやの策
「見たところ背景に溶け込むのに少なくとも二~三秒は時間を要します。つまりその間にトカゲの背景色を変え続ければ溶け込むことが出来なくなります」
「ほほぅ」
私は早速足下に魔法陣を展開させてみた。使うのは白、黄色、青の三色だ。これらを交互に変えるだけで十分だろう。流石の私も単純な魔法でも魔法陣を同時に三つも展開させるだけで結構な労力なのだ。
「―――はっ!」
足下の魔法陣が周囲一体に広がり、木々は根元からその色を変えた!
「居ましたぞ!」
じいやが指差す先に白い背景に溶け込む直前のトカゲが見えた。しかし景色は直ぐに黄色へと変わり、トカゲの白い姿が露わになる。
「ククク……これは傑作だな」
私は魔術網を飛ばし、為す術無く狼狽えるトカゲを容易く捕獲した。トカゲは己の体を変えながらもジタバタと網の中で藻掻いている。
「……これは食べるのですか?」
「まさか。ちょいと汁を搾るだけさ」
私は網ごと持ってきた袋にトカゲを入れ、口を縛った。
「お役に立てましたでしょうか?」
その言葉に、私はじいやと暫し沈黙のまま目が合う。
「いや、本当に手伝って欲しいのはこれからさ」
「なんなりと」
私は笑顔のじいやに袋の口を差し出す。
「持ってくれないか? 中々に重くてね。私の様なか弱い女が持つにはチと切なかろう?」
「……承知致しました」
緑色に戻った自然豊かな景色に別れを告げ、私達は来た道を戻り始めた。その道中、トカゲを抱えたじいやが不思議そうに私の手を見つめていた。
「その魔法とやらを使うのに、魔法陣は必ず必要なのですか?」
「ああ。魔法陣は言わば魔法を放つための入口のような物だ。その模様に刻まれた情報を見れば相手がどんな魔法を使うか分かるくらいにね。勿論我々はカモフラージュ様の魔法陣を重ねる事は怠らないがな」
「不便ですね」
「そう言うな。この世の理みたいな物だ。少なくとも私はこの面倒な魔法陣を楽しんでいる」
じいやは己の右手を見つめ、暫し眉間にシワを寄せた。
「……出来ませぬぞ?」
「ハッハッハ! そう簡単に魔法陣は発動しないさ!」
私は唸り続けるじいやの顔を見る度に笑いが込み上げてきた…………。




