保健室にて……
私は気が付くと保健室らしき場所で寝ていた。白いカーテンの隙間を指で少し開けると、そこには深緑色の髪を束ねた白衣の女性が机に向かって座っていた。
(……何故ここに?)
私は何故自分が寝ているのかを思い出す。確か授業が終わった後に上級クラスを覗きに行って……あ!
そうだ! 私は上級クラスに引きずり込まれて怪しい女学生に……!!
(待って……!! じいやは何処かしら!?)
ベッドの周りを見渡してもじいやらしき人の気配も声も聞こえない。私は少し不安になった。
「あら? 起きたのかしら?」
―――シャッ!
白いカーテンが大きく開かれ、深緑色の髪を左右に分けた顔は私の中を見透かす様に見つめている。
「……あなたは?」
「ふふ、私はこの学校の保健室を預かる者。そして治癒魔法担当。そしてこの学校で一番偉い、校長を務める……リース様なのだ!!」
「は、はぁ……」
エッヘンと、腰に手を当てる彼女。私はポカンと口を開け、とりあえず頷いた。
「君の執事から君の事は伺っているよ。戻ってくるまでゆっくりしているといい」
「じ、じいやは今何を―――!?」
―――ズズ……イィーン
口を開いたその刹那、私のおでこにドリル状に回転する拳大程もある半透明の謎の半球体が現れた。半球体は先端が徐々に鋭くなり、私は恐怖で口を閉じてしまった。
「それは彼から直接聞くといい……」
「……は、は……い……」
私の返事と共に半球体が消えると、彼女は椅子に座りそれ以上何も語りはしなかった…………。
今までじいやの言動に何ら疑問や疑念を抱かなかったが、もしかしたら私はとんでもない事に足を踏み入れてしまったのかも知れないわね。彼から詳しく聞く必要がありそうね。ただ……聞くのが少し怖いわ。
―――コンコン
「失礼致します」
―――ガラガラ……
私が少し俯き加減で下を向いていると、じいやが涼しい顔で戻ってくる。私が椅子の方を見ると、先程まで居た深緑色の髪をした女性の姿は無かった……。
「御嬢様、御気分の程は如何で御座いましょうか?」
「あまり優れないわ。何があったのか……説明して貰えるかしら?」
「……結論から申し上げますと、御嬢様は『上級クラスには行っていない』と言う事に致しました」
「つい先程『悪用はしない』と言ったばかりでは?」
「御嬢様の為で御座いますので……」
「……じいや」
「はい。何で御座いましょう?」
「貴方の目的は……何なの? 貴方は一体何者なの?」
「私はじいやで、御嬢様の召使い……それだけではダメですか?」
「…………聞かせてくれるかしら」
私は現実へ、そして真実へ足を踏み入れる事にした。その上で彼との関係性が壊れるならば仕方ない事だろう。ただ、このまま彼に言われるまま何も知らず世話になり続けるのは、何か違う気がしたのだ。
「……少し長くなりますが?」
「ええ……頼むわ」
じいやは近くにあったパイプ椅子を、私の座るベッドの隣へと置くとチョコンと座り静かに語り始めた―――




