異世界へと通じる穴
色々と拙い文章ですが、少しでも笑って頂ければ幸いでございます!!
「こんな家出てってやるわ!」
お嬢様は着の身着の侭屋敷を飛び出し、それは広い広い庭園を走り抜け、メイドを振り切り、庭師を殴り捨て、敷地の外へ一目散へと逃げてしまいました。
「何で私があんな醜男と……!!」
中流階級故の試練である上流階級との縁談。お嬢様の両親は苦渋の決断を下したばかりでした。
堪らず飛び出したお嬢様は、当てもなくフラフラと人気の無い……いや、人だった物が多々ぶら下がっている樹海へと足を踏み入れてしまいました。
「ここは何処かしら……あら?」
樹海の切り立った土肌ポッカリと空いた謎の穴。それは歩いて進めるほどに大きく。そして緩やかに下へ下へと続いておりました。
「……な~んか気になるわね」
お嬢様は興味本位でテクテクと穴の中へと足を踏み入れます。その穴は長く、入口が見えなくなってもまだ先へと続いておりました。
「……戻ろうかしら」
興味が薄れかけたその時、目の前にとてもとても小さな光が見えたのです。好奇心旺盛なお嬢様は喜び勇んで駆け出します!
光は近付くに連れて大きくなり、目が眩むほどに一瞬輝きが強くなると辺りは広い野原へと変わり、爽やかな風がお嬢様の頬を撫でるのでありました。
―――チチチチ
―――ピヨピヨ
広い野原に鳥のさえずり。お嬢様はその広大な景色に思わず息を吞んでしまいます。
「……綺麗」
「お帰りなさいませお嬢様」
「!!」
呆けていたお嬢様の耳に……重く、渋く、鋭くて、暖かい声が届いた。横を向くと、そこには白髪交じりの黒髪をオールバックにした白いタキシード姿の初老の男性が笑顔で立っていました。
「……!?」
「長らくお待ちしておりました。これよりお嬢様には、この世界でお好きな様に遊び暮らして頂きます。勿論お嬢様のお世話は全て、この私が務めさせて頂きます」
突然の事に頭が働かないお嬢様は口をパクパクさせながらキョロキョロと辺りを見渡している。
「何もご心配はいりません。本当に好きなようにお過ごし下さいませ。お嬢様が本来居た世界とはかけ離れた事も起きる世界ではございますが、直に慣れる事でしょう……」
白い歯をチラリと見せた屈託の無い笑いで、彼の嘘偽りの無い純真な思いそのままであるように感じたお嬢様は、恐る恐る問い掛けた。
「貴方は……誰?」
「お嬢様の執事、召使い、バトラー、下僕……お好きな様に取り扱い下さいませ」
「……ここは何処?」
「世界と世界を繋ぐ境目でございます。これより先へと進みますと、もう元の世界へは戻れません」
『戻れない』その言葉にチクリと胸が痛んだが、戻れば嫌いな男と結婚せざるを得ない。それだけは絶対に嫌だったお嬢様は、前へと一歩踏み出した。
「…………本当に好きに遊んでていいのかしら?」
「はい♪ それがお嬢様の役目でございます」
「……決めたわ。それならば私はこの世界で好きなように遊び尽くすわよ!!」
「お心のままに」
こうして広い野原を進み始めたお嬢様と執事。境目を抜けた瞬間に背筋がピリリと痺れた感覚に襲われ、振り返るとそこには先程まであった穴がもう無くなっていました。
(もう戻れないのね……さよなら)
すぐに前を向き歩を進めるお嬢様の先に小さな村が見え始めました…………。
読んで頂きましてありがとうございました!
次話より本格的に世界観が露わになりますので宜しくお願い致します!