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明惠公主  作者: 英
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第一章(3)


 不安で眠れぬ夜を過ごした、その翌朝。父母達への挨拶を済ませたソヒョンが向かったのは、彼女の暮らす淑晏(シュガン)堂から少し離れた位置に鎮座する惇慶(トンギョン)堂だった。


 道すがら、横切った書庫……一夜にして大部分が焼け落ち、黒く染まった柱が残った、その書庫が、昨夜の出来事が夢でなかったことを嫌という程に物語る。華やかだった宮廷の雰囲気も、黒い靄がかかってしまったかのように、どんよりと沈みきっているように思えた。



「王女様」


 惇慶(トンギョン)堂の向宮(サングン)が、ソヒョンの姿を目に写し、小走りで駆け寄る。


「連絡も入れずにすまぬ」

「とんでもございません」


 深々と頭を下げると、中にいるであろう光陽君(クァンヤングン)に、ソヒョンが来た旨を伝えようとする()向宮(サングン)を止める。今回は、光陽君(クァンヤングン)を呼ぶ必要はないのだ。


「今日は、そなたに用があるのだ、()向宮(サングン)





「――光陽君(クァンヤングン)様の護衛を強化、ですか?」


 ()向宮(サングン)が、不思議そうな表情を浮かべる。一体なぜ急に、とでも言いたそうな顔だ。


「そうだ。先日の火事の件のように、何が起こるかが分からないのが世の中というもの。光陽君(クァンヤングン)に、災いが振りかからぬよう、護衛を今一度見直してほしい」


 光陽君(クァンヤングン)――李 勉(イ・ミョン)。今年五つになったソヒョンの義弟である。彼はソヒョン達三人と違い、側室の子であり、同じ王族といえども、その身分の差は歴然としている……しかしそれは、あくまで政権を巡って争う重臣達にとってであり、ソヒョンは、宮廷でも噂になる程の仲の良い兄弟だと自負している。

 そんな光陽君(クァンヤングン)もまた、此度の件において、身の安全が危ぶまれるやもしれない者の一人。この命令は、謀反の可能性は伏せつつ、幼い弟を危険から守る方法を……という思考の末だ。


「王女様。おいででしたか」


 承知致しました、と()向宮(サングン)が頭を下げると同時に、凛とした声が耳に届く。声のする方を見れば、棗紅の唐衣がよく似合う美しい女性が、優しげな笑顔を浮かべていた。


玲嬪(リャンビン)様」

()向宮(サングン)に御用とは……お珍しいですね。どうなさいました?」


 後宮の中でも、最高位である正一品の位を持つ彼女、玲嬪(リャンビン)は、光陽君(クァンヤングン)の実母であり、美しい美貌と心優しい人格を兼ね備えた女性であった。

 広い宮殿で、彼女達側室が暮らす後宮と、ソヒョンの暮らす淑晏(シュガン)堂とはかなりの距離があることもあり、顔を合わせる機会は多くないので、深い交流はないものの、彼女に関する噂は良い噂ばかりであり、ソヒョンが憧れる女性像の具現化と言えるような女性である。


「先日の火事の件がありましたから……万一にも、幼い光陽君(クァンヤングン)が不慮の事故に合わぬよう、護衛を見直すよう命じました」


 


「左様でしたか。光陽君(クァンヤングン)のことまで気遣って下さり、なんとお礼を言えばよいのか……」


 大切な弟ですから、というソヒョンの言葉に、玲嬪(リャンビン)は顔を綻ばせて礼を言った。










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