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明惠公主  作者: 英
2/6

序章



淑儀(スグィ)様、姉上様から書状が届いております」



 淑儀(スグィ)と呼ばれた女は、向宮(サングン)の手から書状を受け取ると、忙しなく中の紙切れを取り出し、その手に広げた。

 暫くの間、其れに目を落としていた淑儀(スグィ)は、ゆっくりと顔を上げ、上座に座る女と視線を交わらせる。


「例の巫女は……」

「刺客を送った。案ずるな」


 小さく頷いた淑儀(スグィ)は、姉からの書状を女に手渡すと、間をおかずに立ち上がって一礼した。そのまま部屋を後にする――その姿が見えなくなる間際、女が再び口を開いた。


「――必ず成し遂げるのだ。寸分の狂いもあってはならぬ。よいな」

「はい。しかと肝に銘じます、大妃(テビ)様」


 部屋に残った大妃(テビ)は、薄ら笑いながら、淑儀(スグィ)から受け取った書状を卓上の灯火に(かざ)す。次第に色が変わっていく其れは、やがて灰となり、大妃(テビ)の卓子を些と汚した。







「何、淑儀(スグィ)が宮殿にいない?」


 王は眉を顰めた。


「一体どういうことだ。何故宮殿にいない?(ペク)内官、詳しく調べ――」

王様(チュサン)、その件でしたら私が許可致しました」

「……大妃(テビ)様」


 大妃(テビ)が入室したことにより内官は頭を下げて部屋を後にする。


「一体どういうことですか?淑儀(スグィ)は身重です。もう臨月だというのに、宮殿外に出して、何かあっては……」

「今日は淑儀(スグィ)の母の命日なのだとか。供養をしたいと涙ながらに訴えられ、どうして断れましょうか。あの者が出てもう二刻が経ちました。じき帰って参るでしょうから、どうかご心配なさらず」


 微笑んだ大妃(テビ)に、王が頷く。と、同時に先程退室した内官が慌ただしく扉を開けた。


王様(チョーナー)! たった今知らせが――淑儀(スグィ)様が実家で産気付いたと――」


 ガタリ、王が音を立てて立ち上がる。大妃(テビ)がその様子をちらりと見た後、頭を抑えてその場に倒れ込んだ。血相を変えた王と内官が駆け寄る。


大妃(テビ)様!」

「私のせいで……私が外出を許可しなければ……」

「何をしておる! はやく医官を!」


「(舞台は整えた。後は淑儀(スグィ)が、あの者が……)」


 その日、急ぎ向かった王が淑儀(スグィ)の実家に到着する半刻ほど前――淑儀(スグィ)が、町医者の手を借りて王子を出産した。







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