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女王蜂を探せ!

同じ前世の記憶を持つ三兄弟のサクセスストーリーです。

戦争に飢餓に貧困……それらを克服せんとして、今日も元気に三兄弟は新たな世界を、東へ西へと駆け廻ります。


「いないなぁ……夏にあんなにブンシャカ飛んでいたから、簡単に見つかると思ってたんだけどな……」


 ぼやく少年の声にもう一人の少年が励ましの声を掛ける。


「根気よく探すしかないぜ。この朽ち木動かすのを手伝ってくれ……よし、いくぞ~せ~の、それ」


 さらにもう一人の少年が駆け寄り、三人になった少年たちはまだ幼い手のひらに唾を吹きかけると、力を合わせて朽木をどかした。


「うひゃぁ、ヤスデが一杯丸まってる……」


 くるりと丸まった大きなヤスデたちは、身動きもせずに寄り固まっている。

 三人の少年たちがわいのわいのと騒ぎながら、裏山で何かを探している。

 少年たちの吐く息は白く、手は寒さに悴み小刻みに震えている。

 やがて、一人の少年が大声を上げて他の二人を呼ぶ。


「いたぞ! 木の洞の中にいた!」


 ほら、と二人に差し出した手のひらの上には、身動き一つしない蜂、仮死状態で越冬中である蜜蜂の女王蜂がいた。


「死んでんじゃねーの?」


「いや、まて……触角がぴくぴくしてるよ。大丈夫、生きてる」


「じゃあ、急いで巣箱の中に入れようぜ。これで、春になれば巣をつくって蜜を集めてくれるはず……」


 そう上手くいくといいけどと、三人は笑いながら女王蜂を落とさないよう気をつけて裏山を降った。

 そして今はすっかりと枯草で覆われた平原に来ると、予め用意してあった巣箱の中へ、そっと女王蜂を収める。


「あと二匹だな……」


「一匹でも結構探すのに時間が掛かったぜ……」


「冬の間、どうせ暇だから探し回ればいいさ」


 それもそうだなと頷き、でも今日はここまでにしようと三人の少年は家路に着く。

 日が暮れるまでに家に帰らないと、厳格な父親の拳骨が頭上に振り落とされることになりかねないのである。

 

「たっだいまー」 


 幼い三人の少年の声は、小鳥の囀りを連想させる。


「お帰りなさいませ、若様がた……まぁまぁ、あちこちに土を付けて……入る前に玄関で一度払って下さいまし。そしてその汚れた手を、井戸で洗って来て下さいまし」


 若様がたと呼ばれた三人は、言われた通りに土を払う。

 そしてそのまま裏庭の井戸へ行き、汲んだばかりの冷たい水で汚れた手を洗い流した。


「うっひょー、冷たい! おおお、寒い!」


 急ぎタオルで手を拭くと、再び玄関へと飛ぶようにして戻って来る。

 そしてちゃんと手を洗って来たよと、身に突き刺さるような冷水で赤くなった手のひらを、ひらひらさせる。


「はい、よく出来ました。外は寒かったでしょう? 今日は何をして遊んだのですか?」


 優しく問いかける初老の女性に、三人は裏山で蜂を探していたと告げる。

 

「まぁ、蜂を……この時期にですか? 春になれば、そこらじゅうを飛んでいるでしょうに」


 ほほほ、と女性は笑い、冬に虫を探す少年たちの無知を可愛らしく思った。

 今の季節じゃなきゃ駄目なのさと言う少年たちの背を押して、暖炉のあるリビングへと向かった。



ーーー



 リビングでは暖炉のそばに、椅子に揺られながら寛いでいる祖父がいた。


「おお、戻ったか。アデル、カイン、トーヤ……ジョゼッペから聞いたぞ……何やら大急ぎで木の箱を作らせたようじゃな……お主たち、また何か良からぬ事を企んでおるな?」


 祖父の禿げ上がった頭部は暖炉の火によって、薄っすらとした赤みが差している。

 その祖父の鋭い眼光にも怯えず、アデルと呼ばれた少年は反論した。


「あれが良からぬ事とは、心外の極みです。私たちは、少しでもこの家を豊かにしようと思っております。おじい様、二年……二年お待ちください。必ずや結果を出して御覧に入れます!」


 戦場帰りの自分に睨まれても全く動じない孫を見て、老人は困惑する。

 普通ならば怯えて、口を利くことなど出来ないのではないか? やはり家の孫は、どこかおかしいのではないかと不安を感じずにはいられない。

 そしてその発した言葉の内容である。とてもではないが、齢六つの子供が吐く台詞ではない。

 最近は慣れ始めて来たが、最初の頃は悪魔憑きではないかと本気で恐れたものである。


「お前たち小童の悪戯で、我が家が豊かになるかい。二年後じゃと? 二年後にどうなるというんじゃ?」


 その祖父の問いに、少年たちは待ってましたとばかりに胸を張った。


「ゼッペ爺に作って貰ったのは、巣箱です。それも蜂の……家の裏山の裾野は春になれば一面野花に覆われて、それはそれは美しいものです。そこで、私たちはその花畑を鑑賞以外に、何かに利用出来ないものかと考えました。そこで考えたのが養蜂です。花畑に蜂の巣箱を置けば、蜂たちが蜜を集めてくれます。そう、蜂蜜が取れるのですよ! 凄いでしょ?」


 目をキラキラと輝かせる三人に普通ならば、そんな事をしている暇があったら勉強せいと叱り付けるところではあるが、この三人の少年……三つ子の兄弟は、たったの一日で四則演算を覚えたばかりか、読み書きも半年もせずに習得したのである。

 それも、誰も文句が言いようがないほど完璧にである。おそらく勉学に於いては、この目の前にいる三人が領内で一番であると考えられる。

 事実、自分の書斎にある本はおろか、家中……いや、領内中の本はこの半年で読破されているだろう。

 もっとも、辺境の貧しい貴族家にある本の数など、たかが知れているものではあるのだが……

 貴族以外はまともな教育を受けないこの国の文盲率は非常に高く、また貴族であっても専門的な難しい本を読み解くことが出来るのはほんの一握りの者たちだけだろう。

 そのような自分にも読めぬような小難しい本も、この三人はあっさりと読み解いてしまったのである。


「そんなに上手くいくものかの? 確かに蜂蜜が取れれば大分家計も楽にはなるがの……」


「まかせて下さい。他にも色々と考えてますので……ところで、父上は?」


 祖父と話しながら、三人がキョロキョロとさっきから探しているのは、父親であるダレンであった。


「ダレンならば、ムーア村に狼が出たとかで見回りに行っておる。お前たちも、次からは外に出る時は従士を連れて行くように。でなければ、外へは出してやらぬぞ」


「わかりました。まだ蜂を何匹か捕まえたいので、従士の手配をお願いします」

 

「「お願いします」」


 アデル、カイン、トーヤの三兄弟は祖父に向かって深々と頭を下げる。

 わかったわかった、手配しようと三人の祖父であるジェラルドは、目を細めながら孫たちに、もっと暖炉のそばに寄って暖まるようと手招きをした。



ーーー


 

 その夜、父であるダレンは家に帰って来なかった。どうやらそのまま夜通しで、村民とともに狼狩りを行うらしい。


「領主自ら狼狩りとはなぁ……ハンティングなら未だしも、害獣退治だもんなぁ……」


 と、次男のカインがぼやく。


「人手が足りないから仕方が無い。何せ、ド辺境の貧乏貴族だからな。それに俺たちはまだ六歳だから、手伝いたくても手伝えないよ……」


 三男のトーヤが広々としたベットに寝そべりながら呟く。


「そうだ。まだ六歳……でも、もう六歳なんだ。早めに手を打つところは打っておかないと。出来るところからコツコツとだ。まずは養蜂、あやふやな知識で出来るかどうかはわからないけど、やってみなけりゃ始まらない」


 うん、と三兄弟は顔を見合わせて頷く。

 この三人には人に言えない秘密がある。

 それは、前世の記憶があるということ。もっとも、前世の記憶があると人に言っても、それを信じる者は皆無であろう。

 そしてその前世の記憶なのだが、奇妙で面白いことに三兄弟ともに一人の男の記憶を共有しているのであった。

 その男の名は高瀬賢一という、ある日本人の記憶であった。高瀬賢一の記憶は、四十八歳の頃でプツリと糸が切れたように途切れている。

 そしてその最後の記憶は、自分に迫りくる対向車線をはみ出した大型トラックの影。

 そのことから推測するに、おそらくは交通事故で死んだと思われる。さらに詳しくその記憶を辿って行けば、後悔ばかりが目立つ人生であった。

 夢を追ったが夢に破れ、ならばせめて親孝行をと思った時には、既に両親ともに他界していた。

 同じ記憶を持った三兄弟は誓った。もし自分たちが高瀬賢一の生まれ変わりだとしたならば、いや実際にこれ程までに鮮明な記憶を有している以上、生まれ変わりであることは間違いないだろう。

 ならば、今度こそはこの生まれ変わった世界で、前世では出来なかったことをしよう。


 ひとつ、親孝行をする。


 これは絶対に譲る事が出来ない条件である。今度こそは、両親が健在な内に何らかの形で親孝行をするのだと三兄弟は固く誓う。

 

 ふたつ、今度こそ結婚をする。

 

 高瀬賢一は独身のまま命を散らしてしまった。孫を両親に見せるのもひとつめの誓いである親孝行の一つだろう。ならば、今度こそは結婚して子供を作り、幸せな家庭を築こうではないか。


 みっつ、今度こそは何が何でも世に名を知らしめて見せる。


 高瀬賢一は大学からそのまま院へと進み、歴史の研究に携わっていた、だが、その狭い世界の中で食べていけるほどの才には恵まれていなかった。

 自分の才の無さに気が付いた時には、すでに遅しである。中年となった賢一、近い年齢の者たちが出世をしていく中で、一人取り残されたような気がした。

 そんな中、必死に自分には夢があると言い聞かせて来た。だが、その夢も破れた。

 死ぬまで夢を追い続ける気概はあったにしろ、先立つものが用意出来ずに諦めざるを得なかったのである。

 今度こそは貧乏とは無縁の生活をしてやる。今は貧乏でも、必ずや成り上がって見せる。

 もう黴た食パンを水で洗って食う生活とはおさらばしてみせる。


 この三つの誓いを胸に秘め、三兄弟はこの世界を生き抜くことを誓い合った。

 だがそれが如何に難しいことであるかを、まだ幼い三兄弟は知らずにいたのであった。

本作品は連載中である帝国の剣を完結させてから、書こうと思っていたものです。

ですが、帝国の剣の方もおおよそのストーリーは脳内で完結していて、後はそれを脳みそから絞り出して文字に起こすだけというところまでようやく漕ぎ着け、少しだけ心の余裕が出来たので、本作をちょこちょこっとだけ書いてみました。

帝国の剣が完結するまでは、本作の更新はボチボチといったところ……週一くらいは更新したいとは思っております。


小説家になろうの花形といえば異世界転移、そして異世界転生であり、以前から書いてみたいとは思っていたのです。

本作は異世界転生ものではありますが、魔法も無し、エルフやゴブリンなどの異種族も無し、魔物も居ない世界観で行こうと思っております。

ただし、多少の……いえ、多大なご都合主義は盛り込まれると思われますが、どうかご勘弁を。

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― 新着の感想 ―
[一言] >貴族以外はまともな教育を受けないこの国の文盲率は非常に高く、 細かいことで申し訳ありませんが、 「この国の識字率は低く」の方が角が立ち辛いかもしれないです。
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