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SABAKI 第三部 継送  作者: 吉幸 晶
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善波と菅谷



       善波と菅谷



 多治見が玄関に近付くと、色白で線の細い、長身の男がドアを開けて立っていた。

(善波……)

 一目見てそう感じた。

「ようこそ。僕が善波正道です。」

 奥二重だが大きな目に茶色味かかった瞳が、多治見を捉えていた。

「連れて来られただけだ。用が済んだら帰らせてもらう」

「それはどうですかね。隠れ家と顔を見られて、無事に帰すと思いますか?」

「だろうな。」

「良かった。僕の思っていた通り、白木さんと同じで、貴方も頭は良いようですね。」

 作り笑顔で多治見を招き入れた。

「僕が何も用意せずに、ここに来ると思っているのかい?」

「まさか。でも僕に何か有ったら、大勢の人が死ぬ。しかし白木さんとあなたの二人の命で、大勢の命を助ける事ができる。」

 勝利を確信した笑顔だが、目は笑っていない。

「ごもっともで。」

「では居間で寛いでいてください。コーヒーで良いですよね」

「美味い奴を頼むよ」

 注文を伝えて居間に入ると、応接セットのソファに白木が座っていた。

「ご無沙汰しています。」と白木へ言う。

「こちらこそ」と白木が腰を浮かして応じた。

 白木の隣に座ると、多治見が白木との間にできた陰で、手を動かし始めた。それに気付き白木は肘を張って、隠す仕草をした。

 善波がカップとソーサ、コーヒーサーバーをワゴンに乗せて押してきた。

「ドリップしたてですよ」

 笑顔でいうと、善波は三人分のコーヒーを注ぎ勧めた。


「奥にいるのは離是流の残党かい?」

 コーヒーを飲みながら隣室のドアを見て訊く。

「さすが多治見さんですね。」

「さっき『隠れ家』と言ったからね。人の気配がすれば、そう思うでしょう」

「紹介しましょう。こっちへ来て」

 見ていたドアが開き、呼ばれた男達が入ってきた。


 善波は、長髪の大男を力仕事が担当の名古木(なこぎ)。細身で髪を後ろで束ねた男を、ドライバー兼メカニック担当の下落合。中肉中背の坊主頭の男を奇襲担当の東田原(ひがしたわら)と、三人を多治見と白木へ紹介した。


「三人か――。少数精鋭などとは言わないで欲しいが」

 大男の名古木が、多治見を睨みながら半歩前に出た。

「どうやら善波意外は、ここが弱いようだな」

 多治見が挑発的に、左手の中指でコメカミを指した。

「下手な挑発に乗らないように。その辺に座っていなさい」

 挑発に乗りかけた名古木と東田原を善波が窘め、三人を近くの椅子に座らせた。

「多治見さんも大人気ないですよ。もっとスマートに話しましょうよ。」

「では率直に。僕の妻と娘は何処にいる?」

 白木は驚いて多治見を見た。

「丁重に扱っています。ご心配は無用です。」

「君ならそう思うが、そこの残党では信用できないな」

 三人は座ったばかりの椅子から、それぞれ立ち上がり多治見を威嚇した。

「君達がいちいち挑発に乗っていては話しが進まない。邪魔をするのなら、紹介も済んだから下がっても良いよ。」

「俺達も真相を知る権利は有る」

 東田原という男が椅子に座ると、二人も大人しく腰を降ろした。

「僕の家族はどこかね?」

「ここにいますよ。」

 善波は押してきたワゴンに掛かった白い布を捲ると、下段に二個の骨壷が並んで置かれていた。

「僕は政治家や役人と違い、約束は守りますよ。」

「安心したよ。ちゃんと寺へ送り届けてくれるのだろうね。」

「勿論。では本題に――」

「その前に、僕を乗せてきた個人タクシーだけど、新宿界隈を流している、城戸さんだよね?」

「そうだったかな?」

「調べて、僕と面識が有るから使った訳ではないのか?」

「どうなの?」と下落合へ問う。

「一応、新宿のタクシーの方が効果的だとは思ったが、顔見知りだとは想定外だ」

「そうか――。まさか新宿駅周辺で爆破する気かい?」

「奴は恵比寿署へ行ってもらった。」

 下落合が善波の顔色を伺いながら答えた。

「恵比寿署?」

「菅谷殺害の捜査を指揮っていた渋谷中央署の係長が、今は恵比寿署の刑事課長をしている。」

「当時課長だった泉は、部下の刑事を殺害し逮捕されているから、その時の係長を狙うと言うことか。」

 俯き「そうだ」と答え、善波の顔を上目使いでちらっと見る。

「白木弁護士を乗せてきたタクシーを、恐らくここから近い、井の頭通り辺りで爆破させたのは、城戸さんへの見せしめかい?」

「そうだよ!なぜ俺だけ尋問されんだよ!」

 善波からの威圧の所為か、下落合が苛立ち怒鳴った。

「恵比寿署の刑事課課長をどうやって爆死させるのか、興味を持っても不思議じゃないだろ」

「これで位置を見て、恵比寿署に着いたら直接電話をして――。あとはお前と同じだ!」

 下落合はスマホを見せて、GPS機能でタクシーの現在位置を表示しているのを見せた。

「GPSか――そうだよな。都心の道は、何処で渋滞しているかなど読みきれない。到底タイマーでの爆破は出来ない。追跡するのが確実だ。それでCCDカメラを付けたまま出したのか」

「気がすみましたか?」

「タクシーの事はね。では悪いけど、次は君と菅谷の事を聞きたい。」

「何故です?」

「常に殺気立っている菅谷と、沈着冷静な君とでは、性格が違いすぎる。君が菅谷の下に着いているのが、どうにも気になってね。」

「そうですか――」

 善波の視線が、多治見の目を通して心の中を窺い覗くのを感じた。

「他意は無いよ。頭と体の関係だとわかっているが、それが何処でどの様に繋がったのか――。菅谷の頭脳になると決めた理由を知りたいだけだ」


 善波は多治見の真意を測った。その上でゆっくりと話し始めた。

「初めは菅谷の頭脳になる積りは有りませんでした。ただ菅谷の考えに興味を持ったのがきっかけかな。」

「考え?」

「菅谷は僕より年下なのに、退屈な毎日を送っていた僕に、この国を変える楽しさを教えてくれた。それに取らぬ狸の皮算用的な、叔父を嫌悪していた僕に、勉強する場所や教材。そうそう遊ぶ金や食料――。菅谷は、僕の言う物は全て揃えてくれた。」

「それをどうやって工面したのか知っているのか?」

「そんな事はどうでも良い事です。ただ菅谷が僕の――。この頭脳を評価して、それに見合う対価を用意して支払っただけの事。」

「君の目標の下には、罪も無い弱い人達の、命の一片が沢山埋まっている。それに気付かないなんて――」

 今まで黙っていた白木が、窘めるように言った。

「奇麗事を言わないで下さい。弁護士だって結局は金じゃないですか」

「そんな事は無い。」

「有りますよ」善波は白木だけを見て語りだした。


「父が経営していた工場は、アメリカで起きたリーマンショックが原因で経営が悪化しました。色々と手を打ったけど厳しい状況は続いた。その後、二人もご存じの東北で大地震が起こり、関東もその影響を受けて、売り上げの落ち込みは、さらに経営を圧迫したのです。もう、どう足掻こうが盛り返す事は出来なかった。結局、負債だけが膨らみました。父は困りはて、藁にもすがる思いで、以前知り合った弁護士へ相談したのです。でもその弁護士は、自己破産するのが自分を護る最良の手段だと勧めた。」


 大手メーカーは、安価で精度の良い部品供給の為に、東北地方に一部の部品生産工場を持っていた。震災の為、工場が被災して倒壊もしくは一部損壊などにより、メーカーの生産量は激減した。当然、それは関東の中小企業にも影響を及ぼした。善波の父親も、他の客先へと展開、交渉を進めたが、輪番停電があり思う様に商談が纏まらなかった。

「しかし自己破産料として三百万が必要と知った父は、その三百万で、一部の下請企業への支払いができると、自己破産に反対しました。それを聞くと弁護士は、今までの相談費用の五十万をいますぐ払うように迫った。払えないなら、工場の中古機械を自分の知っている工具屋へ売ると父を脅したのです。父は『機械なら好きにしろ。ただし現金は返済に充てる』と言って、その弁護士と決別した。」

 善波は父の苦悩を淡々と語った。

「それから一時間も経たないうちに、業者が来て工場の機械を持ち出しました。その後、外注や仕入先が来て両親を囲って阿鼻雑言を吐き、家中の何もかも持ち出して行きましたよ。その日の晩に、両親は僕と妹を残し工場で首を吊った――。」


 白木は返す言葉が出せなかった。刑事事件が専門の白木だが、弁護士仲間から聞いた話しで、自己破産に付いては、可笑しな話しだが、金が掛かると聞き知っていた。そこで経営者は自己破産費用で、究極の選択を迫られる。自己破産か自殺か――を。


「菅谷とはどこで?」

 黙りこむ白木を見て多治見が訊いた。

「両親が自殺しても、僕達兄妹の頭の良い事は親族も知っていました。だから父方の叔父は僕を、母方の叔母は妹を養子にしたのです。翌年、僕は東京の名門私立高校に入りましたが、遊んでいても学年トップでした。正直、周りの頭の悪さには呆れました。」

 善波は右の頬を僅かに動かし、哀れんだ笑いを浮かべた。

「あれは高三の梅雨の頃でした。雨の中、高校へ行くのが鬱陶しくて、学校をさぼって喫茶店でぼーとしていると、ヤンキーが現れた。それが菅谷との出会いです。」


 菅谷は善波の着ている高校の制服を見て、六法全書を暗記できるかと徐に訊いてきた。善波は鞄からポケット六法を出し「これなら暗記はしている」と答えると、菅谷は向かいに座り、坂本竜馬にならないかと唐突に切り出したと語った。

「坂本竜馬?」意外な人名に多治見が聞き返す。

「この腐った日本をひっくり返す。そう菅谷は言いました。僕はそれが面白そうだから、菅谷の描いた絵を具現化するのを手伝う事にした。」

「菅谷の描いた絵?」

「宣戦布告状。読んでいただけてますよね?その原案は菅谷が書いた物ですよ。」

「原案?」

「内容の無い。駄々っ子が――、いいえチンピラが因縁を吹っかけているような物でしてね。『俺達に逆らう者は、国を蝕む寄生虫と見做し、死を持って自分の間違いに報いるのだ。』って一文だけだった。それで坂本竜馬になった気に成られては困るので、僕がそれらしく書き直しました。優秀な頭脳と俊敏な機動力を持った組織を作り、全ての政治家、官僚、公務員を若者主体に一新させて、新しい国造りをする。同時に若者の負担を減らす為、国内の痴呆の有る老人達も排除する。と菅谷の書いた一文に追記しました。」

「しかし実現はできないだろう」

「そんなこと判っていますよ。僕は菅谷ほど、馬鹿では無いので。」

 傍観している三人の残党の顔に、善波への不信感が強く表れた。

「では何故実行した」

「菅谷は馬鹿だが、それなりに調べていました。」

 多治見の問いに答えず菅谷の話しを続けた。

「年金を破綻させたのも、人口減少を防げないのも、政治家が自らやった事だと言っていました。」

 この時菅谷は、政府はもともと、正社員中心だった雇用方法を、企業が支払っていた負担を減らす為にと、数十年前に派遣雇用を推進した。自分の好きな時間に働ける。とか、自分に合った仕事が選べる。などとマスコミを使ってまで世に浸透させたそのつけが、人口減少の起因になっている。しかし政府は、政策ミスを隠すかのように一切触れもしない。現代の若者は、終身雇用を希望するが、非正規雇用主体から、終身雇用に戻ることは無いだろうと、古い時事ネタを話したと言う。


「やがて教師も、派遣になる時代が来るのだろか――」

 父親が昔、悲観した様に言っていた事を多治見は思い出した。


「去年の夏頃、菅谷が大阪に来た時でした――」善波の話しは続いた。

 年金を取ってみても、社会保険庁時代から、私的な使い込みや年金の未払い。データの流出や金の流用に失敗して損失を出すなど。多彩な問題が発覚した。もともと社会保険庁の役人がそのまま天下った先ゆえ。職員となっても役人の性質は変わらない。従って社会保険庁時代に遡り、年金に関った全員から徴収してでも、国民の金を返すべきだ。しかし職員に責任は無いかのように振る舞い、うやむやに終息させた。

 国民を舐めきっている証拠に、一般人には楽をさせずに、死ぬまで働けと言わんばかりに、負担ばかりを大きくさせて、支払う年齢を遅らせるという事が罷り通る。長年年金を払って来た、いいや強制的に徴収されて来た国民に『待て』をさせてまで、政治家や役人が競ってその蓄えた金を蝕む。

 国民も間抜けで、政治家や役人の懐を潤す財源になるだけなのに、使い込みや未払い、流用ミスなどには触れもせず、特に受給出切る見込みなど恐らく無いに等しい若者は、それでも強制的に徴収され続ける。国が始めた事だ。国民の腹は痛んでも、政治家や役人の懐は絶対に痛まない様にできている。

 最終的に人口減少を止める政策が無ければ、破綻が見えている年金など廃止にして、徴収した金を払い戻し終わらせるべきだ。そうしなければ、若者の貧窮・貧困が増長して慢性化となり、全ての犠牲を若者が被る事になる。

 それが菅谷の持論のようで、そういった若者への理不尽を無くす為に、仮に集めたメンバーを精査して精鋭を選び、政府の転覆を数年後には実行する。


「菅谷は得意気に僕にそう話した。時間軸が多少ずれていたけど、着眼点はまずまずだった。きっとどこかで聞いてきた話しなのでしょう。しかし確かなのは、年金を支払える年齢がどんどん遅くなっていることです。今は六十五歳となっていますが、あと五年もすれば七十歳になりますよ。もしそうなったら、僕達の時は何歳になるのでしょかね?八十歳ですか?まさか九十歳などと言う事はないでしょうが、どちらにしても、僕達が徴収された金は、戻ってくる事はないですよ。」

 メンバーの三人は、それぞれが顔を見合わせて、善波の話しの内容を確認しあっているように、多治見達には見えた。

「しかし昨年の十一月。敵対するグループに菅谷は殺された。菅谷のいない離是流など、単なる烏合の衆に過ぎない。他グループから襲撃されて簡単に逃げ出した。残ったのはそこの三人だけですよ。」

 右手の親指を後ろに座っている名古木達へ向けた。

「そうか。少数精鋭ではなく、単純に残っただけか」

 多治見は不安と不満を持った三人を再度挑発した。

「多治見さん。もうその手の挑発には乗りませんよ。」

「残念だがその様だ。その為に、長々と君の昔話や年金の話しをしたんだろ」

 挑発に乗る事よりも、善波への不信感の方が勝っているように見えた。立ち上がる素振りも見せない三人に、視線を向けたまま、飲みかけのコーヒーを飲み干した。


「ところで、君をいれても四人しかいない離是流が、どうやって――」

「自爆テロの事ですか?」善波が身を乗り出して訊いた。

「他グループの奴等を使ったのだと思うのだが、易々と自爆テロに加担するとは到底思えない。」

 多治見が善波に視線を向けて言った。

「素晴らしい。やっぱり多治見さん。貴方は最高ですよ。」

 善波はオーバーではなく、本当に嬉しそうに両手を叩くと「今の車は優れていましてね。」そう突拍子も無い事を言い出した。

「相手に気付かれる事無く背後から近づけます。近付き追い抜いた所で、後部のドアを開けてこいつを当てるだけです。」

 善波がスタンガンを取り出し、バチバチと青白い電気を飛ばせてみせた。

「相手は気を失い後部席へ倒れこむ。それで拉致完了ですよ。簡単でしょ。それを六回やれば必要人数は揃う。女子高生にだってできる芸当ですよ。」

 善波は薄笑いを浮かべて、多治見と白木を見た。

「しかし防犯カメラにナンバープレートが映れば――」

「多治見さん。貴方、自家用車を持っていますか?」

 善波の唐突な質問に「生憎僕は持っていない」と即答する。

「では白木弁護士は?」

「持っているが。何か?」

「ではナンバープレートの番号を覚えていますか?」

「あぁ勿論だ。」

「いつ確認しました?」

「いつって――。今朝見たばかりだ。」

「番号も?」

「勿論見たよ。間違い無く私のナンバープレートだった。」

「それは前後どちらでした?」

「前だが。それが?」

「後ろは?」

 白木は返事に詰まった。

「後ろはいつ確認しました?」

「付いているのとは思うが――」

「そうでしょ。それが普通ですよ。運転手は車庫へ入れる際に、うしろから入れる車はうしろ側の、頭から入れる車は前方のナンバープレートの番号までは見ていない。盗まれない限りは、持ち主は気付かずに、違う番号のままで乗っていますよ。」

 多治見も白木も唖然とした。人の盲点を良く衝いている善波に、恐怖すら覚えた。

「自宅の――戸建てでもマンションでも同じ――車庫に停まっている車に、埃が積もっていれば、ペーパードライバーだって判ります。その車の陰になった方のプレートを交換するなんて、ものの二、三分でできます。六人を二日に分けて拉致すれば、ナンバープレートは二枚もあれば充分。元の車だって盗んだ車だもの。Nシステム用にナンバープレートを交換すれば、盗難車だと追われる事無く、普通に乗っていられます。誰も、前と後ろのプレートが違うなんて思いもしないですからね。」

「そうやって拉致した対抗グループの者を、自爆テロに使ったのか」

「その通りです。大臣と取り巻きを殺せば、その爆弾を解除してやる。そう言って清掃員の服を着させて、ゴルフ場に潜伏させた。サバイバルナイフでSP相手に勝てると思ったのか、馬鹿丸出しでしたよ。」

「なぜ二人使った?」

「一人だと逃げ出すでしょ。」

「連帯責任――」

「大臣を殺す事が一番の目的ですから。最初からミスなんてできないですし。二人ならお互いにお互いを監視してくれるから、こっちは安全な離れた所に居ても、問題なくテロは遂行できましたよ。」

「なんて卑劣な――」質問は多治見に任せ、黙って聞いている白木が、吐き捨てるように言った。

「少ないチャンスを物にして助かるか、警察に逃げ込んで警察官と一緒に死ぬか。好きな方を選べば良いと、ちゃんと二者択一にしましたよ。まぁ、大臣達がゆっくりゴルフを愉しんでいたので、丁度良いタイミングで時間切れになって、爆発しましたけどね。」

「遠くで見ていて、タイミング良く時間切れ――か。議員宿舎の狙いは?」

「爆弾の、破壊力を確認する為ですよ。」

「破壊力?」

「ゴルフ場では、建物への直接の破壊力が判らなかった。十個も作った物の破壊力を知らないと、有効な使い方を誤り兼ねませんから。有益な実験が出来ましたよ。」

「それで与党本部では三人にしたのか」

「そうですよ。殺傷能力は充分でしたが、建物への破壊力には、今ひとつ不足だった。与党本部は派手にやらなければ意味が無いですから。だから三人にして殺傷と破壊を大きくしました。」

「三人にも、ゴルフ場と同じ事を?」

「えぇそうですよ。与党の党本部のどこかに、爆弾を外す鍵が置いてある。生きたければ、その鍵を見付けて爆弾を解除するしかない。って言ったら、庭に停めてあった車に乗って、勝手に行ってしまいました。」

「拉致したのは六人。ゴルフ場で二人。与党会館で三人。人質はあと一人残っているな。」

 善波は期待を膨らませ、多治見の推理を待った。

「都内では都知事選間近だ。狙うなら与党からの候補者だよな。」

「どうしてそう思われるのですか?」愉しげに訊く。

「他の候補者は野党からの推薦を貰っていない。ほとんどが無党派だ。狙うには小さくて君が満足できるわけが無い。」

「正解です。たかだかコーヒー一杯を飲む間に、僕の事を良く理解しましたね。さすがですよ。」

 善波は本音を愉しげに零した。

「おまけに、すでに配備済み――か」

「そこまでわかりますか?」

「メンバー全員がここに居ると言う事は、逃げられない状態で見付かり難い場所に監禁して、あとは時間が来ればスイッチを押すだけ。そう言う事だろ?」

「そうですね。あと三十分ほどで、与党の先生方がスタッフとボランティアを大勢連れて集まります。」

 善波は不敵な笑みを見せた。






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