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SABAKI 第三部 継送  作者: 吉幸 晶
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エピローグ


       エピローグ



 多治見は一人、店を離れて、階段脇にある人通りの無い、静かな場所へ移ると『上様』へ電話を掛けた。

「寺社奉行か、仕置きは済んだのか?」

 落ち着いた低い声が問うて来た。

「御意に。ご報告を」

 『上様』からは何も返答が無かった。多治見は勝手に報告を始めた。

「まず慶介についてですが、【JITTE】が掴んできた情報の通り、高利貸しで返済出来ない者への取り立てが尋常では無く、自殺者や臓器を取られ死に至った者もおりました。また二人の女性を殺害して、息子の良太と遺棄したと【ZANN】に自供しました。次に良太ですが、慶介に言われて、自分の妻を遺棄、慶介が起こした二人の殺人の死体遺棄を手伝ったと自供し、遺棄したその場所を吐きました。本来であれば『流罪』も有りかと思いましたが、女児への悪戯癖は治らない様でしたので、『死罪』としました。高貴に付きましては、薬物使用や同姓への性的虐待など、多数に渡る罪は確認できました。しかし死罪というよりは、流罪として更生する方に賭けてみたいと思い、よって『流罪』を言い渡しました。以上が今回の仕置きとなりました。ご承知置きいただけますか?」

「済んでいるのでは、反対の余地もあるまい」

「御意」

「皆、無事に帰宅できたのだろうか?」

「ご安心を。寺社()奉行所()の者は皆、優秀ですので」

「しかし――」

「【TEGATA】は事故でした。防ぎ様の無い、惨い事故でした。先手組のミスではありません。」

「わかった。これからも頼む。」

「御意に」

 多治見と『上様』の話しは終った。


 今日半日、長々といた商業施設から移動して、小田急線の駅へ向かった。

 平日の夜も十時を過ぎると、来た時とは変わり、待ち合わせで賑わっていた改札周辺も、家路を急ぐのか、急ぎ足で行過ぎる人が多く、改札前で佇む人は僅かであった。

 切符を買い改札を通る。二人は構内を右手側に歩き階段を降りた。ホームに着くと、一番先に設置されている、人のいないベンチに腰を降ろした。

 二人の眼前には、十数の引き込みの線路が有り、盛夏の晩を涼しげに、小田急線の車輌が、暗闇の中で休んでいるのが見えた。


「多治見さん」

 少しして五六が口を開いた。

「ん?」

「僕はいつもこうして、部下に人殺しをさせて待つだけなのですか?」

「そんな事は無いさ。それをするのは僕の仕事だ。今日は――、今回の罪人は、君の関係者だから直接手出しをさせなかった。おかげでアリバイは完璧なものになった。そうだこれを渡しておくよ。もし警察が聞き込みに来たら、これを出して、当日は僕とここにいた事を伝えれば良い。」

 多治見は自分の名刺を五六へ差し出した。

「ありがとうございます。でも多治見さんの名を出しても良いのですか?」

「その為に、今日ここにいたんだ。名目上は店の下調べを、贔屓の客が同行しただけだが」

「あれ?」

「どうした?」

「多治見さんは係長でしたよね?」

「前警視総監が二階級特進させてくれてね。課長も殉職した事もあって、現警視総監の人事だそうだ。」

「凄いじゃないですか!」

「来年度は参事官だそうだよ」

「行く行くは警視総監も夢じゃないですね」

「僕はノンキャリアだよ。それはないだろう。」

 不穏な笑みを浮かべた新藤の顔が頭を過ぎった。


「質問が途中になってしまったな。次回からは、僕抜きで全て君が中心で動く事になる。」

「そうですね。僕は殺し屋になるのですね。」

「そうだ。」

 線路に視線を落としたまま短く答えた。

「どうやれば、人を殺せるでしょうか?」

「殺すのは人じゃない。様相は人の形をしているが、中身はまるっきり違う化け物だ。相手に感情を持つと仕損じる。仕損ずれば仲間の危機に繋がる。緊張するなとは言わない。しかし、仕掛けるのであれば、確実にとどめを刺すしかない。」

「確実にですか――」

 多治見は黙って五六を見ている。

「どんな物で殺すのが良いでしょうか?」

「自分の手に馴染んでいる物が一番だな」

「多治見さんは?」

「僕は、絞殺と刺殺だった。切るのは止した方が良い。血が飛び散って、後始末が大変だ。」

「手に馴染んでいる物で、切ってはいけないとすると、菜箸か金串で刺しますか?」

「これなんかどうかな?」

 多治見が周りから見えないように、左腕の袖を捲くると、針を大きくした様な物が現れた。

「これは【ZANN】――、というより、僕の先代の【SABAKI】が使っていた獲物を、僕様に作った物だ。今、【ZANN】が使っている獲物に似ている。」

「獲物――ですか?」

「殺しの道具をそう呼んでいる」

「これで、刺すのですか?」

「あぁ。顎の下から脳に向けて、又は盆の窪から脳へ向けて、力に自信があるなら、こめかみを刺すのも有効だな。」

「頂いても良いのでしょうか?」

「構わないよ。しかし実戦までに、何度も練習が必要だ。」

「大根とか豚骨や鳥ガラなどでも?」

「良いね。僕はもっぱら枕を相手にしていた。お陰で、いくつ枕を買ったか判らないな」

 多治見の手から、獲物が五六の手に渡り、店の見取り図の入ったカバンにしまわれた。

「では、これからは『奉行』と【SABAKI】の関係だ。無理を言う事も有る。」

「判っています。『お奉行』を見習って、僕も僕流の【SABAKI】になります。」

「おいおい。」

(お奉行もこんな感じだったのだろうな)


 新宿行きの急行電車が来る案内が、聞き覚えのある音楽のオルゴールと共にホームに流れた。

 多治見は笑って立ち上がった。五六も立ち上がり、二人はホームに入って来る、電車のライトを見ていた。


 空には上弦の月が静かに浮かんでいた。





     平成二十九年五月六日~平成二十九年十一月十九日

                    【SABAKI】 完




 多治見の【SABAKI】はこれで完結になります。

長々とお付き合いをいただきまして、ありがとうございました。

【TATAKI】のその後や、新藤警視総監の思惑に多治見はどうのように対処するのか。

それと、多治見が寺社奉行としていかに辣腕を振るうのか……。

気にされる方がいたら作者冥利に尽きます。

近く、そのことを短編にして掲載する予定です。

その時には、またお付き合いください。

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