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SABAKI 第三部 継送  作者: 吉幸 晶
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仕置き


       仕置き



 【TATAKI】を駅近くでピックアップした【FUMI】は、【ABURI】と板戸家へ向かった。黒いキャラバンは板戸家の前で徐行すると、ふたつの大きな影が降りる。その影は門扉を素早く開けて、車が通り過ぎる前に中へ入って消えた。

 【ABURI】は【TATAKI】と共に、裏の勝手口からそっと家の中に入った。音も無く静かに、家の中を、良太と高貴(こうき)の姿を求めて、【FUMI】から貰った間取り図を元に、ひと部屋ずつ探していった。

 一階を探し終わり階段を登る。二階に着き手前のドアを開けて中を見る。

 雨戸が閉まっていて、中が暗い。目を慣れさせじっと見ると、ベッドに寝ている高貴を見付けた。

 【ABURI】は【TATAKI】へ、「貴方の咎人よ」と合図をして教えた。

 【TATAKI】は静かに部屋へ入ると、ベッドに近付き、寝ているのが高貴だと確認すると、「寝ているところ済まないが、君には一緒に来て貰うよ」そう呟き、高貴へ猿轡をして、手を後ろで縛り上げた。

 高貴はいきなりの事で、何が起きたのか判らずに、抵抗をしたが、【TATAKI】が首に腕を回して締めると、一瞬で気を失い【TATAKI】の両腕に身体を預けた。

 そのまま高貴を抱えると、静かに部屋を出て階段を降りる。そして【FUMI】へメールを打つと、勝手口から出て行った。

 板戸家の前に白のセレナが停まると、数秒で高貴を載せて走り去った。


 その間【ABURI】は自室でDVDを観ている良太を見付け、うしろから近寄り、座っている椅子ごと右腕で押さえ付け、左手で口を封じた。

 良太も何が起きたのか判らず、驚いて抵抗したが、身動きひとつ取れず、声も出せない事に気付くと抗うのを諦め静かにした。

「質問は三つ。正直に答える事を進める」

 低い声を一層に低くして、耳元で囁くように言った。

「高校生の時に、女を襲って殺害したな」

 首を激しく横に振った。【ABURI】は左手を揺るめた。

「あれは親父がやったんだ。俺じゃない。」

 大声を、出しそうなのを堪えて小声で答えた。

「詳しく話せ」

「当時親父は高利貸しで金を儲けていた。羽振りは良くて、その金に釣られて、日に何人か若い女が来ていた。親父はその中の何人かとの性行為を、ビデオに隠し撮りしていた。ある日その中の二人が、親父が隠し撮った事を知って、親父を脅した。親父は逆上して二人とも殺しちまった。正気に戻った親父は、死体を運ぶのを俺に手伝わせた。」

「ガラの悪いのがいたはずだ」

「確かにいたが、親父はあいつ等を信じていなかった。だから弱みを晒す事を拒み俺に手伝わせたんだ。」

「具体的に何をした」

「車で運んだ先で、穴を掘ってそこに埋めた。俺は運ぶのと穴掘りを手伝っただけだ!」

「場所は?」

「小田原との市境の山の中だよ。地蔵が幾つか有る辻を山に沿って左へ左へと登ると、行き止まりの看板が有る。その脇に山へ入る道が有って、少し行くと猫の額ほどの平地がある。そこに穴掘って埋めた。」

「次だ。二十数年前、奥さんを殺害して遺棄したな」

「殺したくて殺した訳じゃない。事故だったんだよ。車をバックさせたら妻がいて――、本当に知らなかったんだ。親父にどうしたら良いか電話したら、選挙中に馬鹿な事をしたと、本気になって怒っていた。そして親父が明子は家出した事にして、昔のあの場所へ埋めておけと。だから同じように埋めた。殺したんじゃない。」

「最後だ、昔から今まで、少女に悪戯をしているな」

「そんな事していない。する訳が無いだろう」

 右腕に力が入った。

「したよ。している。親父の血なんだ。どうしようも無いんだよ。」

「止める気は無いのか?」

「あるよ。何度も。でも、可愛い子を見ると、特に無垢な子なんか見るとさ、血が疼く。でも殺したり、犯したりはしていない。陰部を触ったり、触らせたり。ただ悪戯するだけだ。本当にそれだけだ。親父よりはマシだろ」

 多治見と五六が、そのやり取りを訊いていた。そして多治見が自分の首元に、右手の親指を立ててスライドさせ『死罪』の『下知』を五六へ出した。

「【ABURI】、死罪確定だ。()れ」と、五六は冷徹に命令した。

「御意」


 【ABURI】は良太を抑えていた右腕をずらして、首に回した。

「懺悔のち死刑だ。」

 そう告げると、首に回した上腕に力瘤ができ、軋んだ音がして良太が痙攣を始めた。【ABURI】はお構いなく、良太の右腕を抓んで、折り曲げると、良太の腕は奇妙な方向に曲がった。

 部屋の灰皿に残っていた吸殻に火を点け炙る。燻ぶっていた火は煙よりも炎が大きくなると、テーブルの上にあった、雑誌に燃え移った。やがて雑誌は床に落ちて、絨毯を燃やし始める。部屋中が煙に覆われた。

 【ABURI】は良太の衣服にウイスキーを零すと、その火を移し、踊り場から突き落とした。一階の良太が倒れている床に火が移り広がる。それを見ながら、【ABURI】はゆっくりと階段を降りて、勝手口に回った。

「済んだわよ。家が燃えちゃうわ、早く出ましょ。」

 勝手口に戻りサポートしていた【TATAKI】へ言う。

「承知」

 【ABURI】と【TATAKI】は勝手口から出て、【FUMI】の迎えの黒のキャラバンに乗り込んだ。

「【TATAKI】を高貴の載せた車に移します。【ABURI】はこの車で、自宅まで彼が送ります。」

 【FUMI】は助手席から、後部席の二人へ説明した。

「早く一一九を。消防車を呼んで。急がないと、火が隣に移っちゃうわよ」

「承知」と応えると、携帯を出して電話を掛けた。

「火事の様です。家の中に炎が見えます。場所は大瀬○○番地です。」

 言い終えると携帯をかたずけた。


 板戸家から少し離れた場所に、高貴を拉致した先程の白いセレナが停まっていた。

「【TATAKI】移ってください。【ABURI】お疲れ様でした。」

 【FUMI】は降りる間際に運転手へ「気を付けてね。お願いね」と声を掛けてドアを閉めた。



「サングラス有るかしら?」

 鍔広の白い帽子を目深にかぶったまま、海の家に入って来た女の客は、店員の男にそう聞いた。

「生憎ここには置いて無いんですよ。」

「そうなの?困ったわ」

「あそこの店にはありますよ」

 店員は本店を指して答えた。

「良かった。ありがとう」

 女は踵を返すと、照りの強い屋外へ出ていった。

「今のは?」トイレに来た慶介が店員へ聞く。

「サングラスが欲しいとかで、本店を教えましたから、多分行くかと」

「そうかい。」

 浜風に大きく揺らぐスカートの中から、形の良い稜線の足が、太腿まで時より見える。慶介は釣られた魚の様に、その女の後に付いて海の家を出た。【ZANN】の撒き餌は見事に成功し、板戸慶介をまんまと誘き出した。


「【ZANN】が出てきました。」

 【MEBOSHI】が【JITTE】へ状況を伝えていた。

「すぐ後を咎人が付いて行きます。」

「【ZANN】が釣り上げたか。僕は、『お奉行』と【SABAKI】それと【FUMI】へ伝える。【MEBOSHI】はそのまま【ZANN】を追尾して」

「承知」

 電話が切れると、【MEBOSHI】は百メートルほど空けて、尾行を始めた。

(綺麗だな。【ZANN】みたいのを、性格ブスって言うんだろうな。勿体無いな)

 【ZANN】と慶介を尾行しながら呟く。【ZANN】に聞こえていたら、間違いなく蹴り飛ばされるか、殴られていただろう。しかし【ZANN】が通り過ぎると、そこにいた男達は二度見するか、見惚れている。おまけに醜いエロじじいは既に虜になっていた。それらから導き出すと、確かに美人を証明するには充分過ぎる実績であろう。

 【ZANN】はそんなことに成っている事を、知ってか知らずか、本店を通り過ぎて駅へ向かう道を、蝶が舞うようにスカートをヒラヒラと靡かせて歩いて行く。

(本当に勿体無いな。まぁ、天は二物を与えず。と言うか。)

 【ZANN】はその先に停まっている、白いバネットに乗り込んだ。エロじじいは無謀にも、バネットの窓を覗き込んだ。するといきなりドアは開いた。一瞬だった。開いた瞬間、エロじじいは車内に引き込まれ、ドアが閉まると同時に、バネットはその場を走り去った。その行為を誰が見切れただろうか。どこにも騒ぐ者が現れない事が、【MEBOSHI】には恐ろしくなった。

(こうして拉致は、人知れず人込みの中でも行われるのか――。される側は守り様がないな。)


「動かない方がよろしいかと」

 いきなり連れ込まれ、座席の背凭れに押し付けられて身動きが取れない慶介へ、後部席から【NAGARE】が紳士的に言う。

「わしが誰か知っているのだな」

 やっとの事で毒づいた。

「当然だ。」

「日本人らしいが?」

「質問はこちらがいたします。冗談や遠回しな物言いは抜きで、正直にお答えいただけた方が、身の安全を守れるかと思います。」

 今度は威圧的に言う。

「何を聞きたい」

「お前のしてきた事全てだ」

「お嬢さんの全ても教えてもら……」

「死罪だ」

 後部席から慶介の喉元に、【ZANN】の獲物が数ミリ突き刺さった。

「こうならない様にと、ご忠告をいたしました。」

「お前達は――」

「死罪。確定だな」

「待ちなさい。一応、証言は必要です。」

「私には必要無い」

「『お奉行』と【SABAKI】には必要ですよ」

「長生きしたければ、この男の質問に正直に答えろ。」

 そう言い終ると、【ZANN】は獲物を退いた。

「血が出ている。病院へ――」

「無駄口を吐く様なら、この場で死んで貰うだけだ。」

 【ZANN】の獲物が、慶介の左頬に十字を刻むと、血が滲んできた。

「これでは拷問ですよ。もっと穏便にお願いします」

「判った。極力、注意はする」

「ありがとう。では始めさせていただきます。」

 男が押さえる力を緩めると、慶介は左頬の十字を右手で撫ぜて、出血の有無を確認した。

「見てどうなるわけでもない。気にするな」

 冷やかな口調に、慶介は大仰に怯えた。

「まず、昔の事を思い出していただきます。」

「昔の事だと?」

「高利貸しをしていたと聞いておりますが?」

「無駄口は要らない。イエスかノーで答えろ」

「イエスだ」

「返済が出来なくなった者からは、両親や子供へ取り立て、独身者や一人者には臓器などを売らせていた?」

「イエ――。いいやノーだ。」

「嘘は一番いらない。」

「イエス」

「息子の良太が、妻を車で轢いて殺してしまったと電話したところ、選挙に出ている今は、致命的だとして隠蔽を示唆した?」

「何でそんな事まで知って――」

 空かさず【ZANN】の獲物が左の耳たぶを貫通した。

「イエスだ!」

「若い女二人を殺して、小田原との市境の山中に埋めた?」

「……いえす」消え入りそうな声だった。

「もう充分だろ。早く始末――」

「待たせたね【ZANN】。死罪だ。」

 話しをマイク越しに聞いていた五六が、『死罪』を告げた。

「承知」

 鋭く尖った切っ先が、慶介の顎から音も立てずに入ると、そのまま【ZANN】の手が顎に触れる寸前まで入っていった。慶介は全身に痙攣を起こし、失禁して声も立てずに絶命した。

「完了」

「ご苦労様。【FUMI】。死体の処理と、【NAGARE】と【ZANN】を送ってください。」

「承知。ただし【NAGARE】はまだ、高貴の仕置きが残っておりますので、【TATAKI】と合流していただきます。」

「承知しているよ」

 【ZANN】が眉根を寄せて【NAGARE】を見る。仕方なく「承知」と言い直した。


 【ZANN】は途中で別の車に乗り換え帰路に着いた。【NAGARE】は【TATAKI】が待っている白いセレナに乗り換えた。

「しまった」乗り込むや否や、【NAGARE】が言った。

「どうかしましたか?」

 心配顔を乗り込んできた【NAGARE】へ向けた。

「慶介に、盗撮の趣味の有無を聞き漏らした。と思ってね。」

「【NAGARE】らしくないミスですね」

「【ZANN】の威圧が凄くてね。慶介じゃないけど、早く事が済んで良かったと思っているんだよ」

「……」【TATAKI】は【NAGARE】のその言葉に応える事ができなかった。

「その方が良い。下手にコメントすると、一発二発は覚悟するようだからな。」

「済みません」

「さて、高貴の仕置きを始めようか」

 【NAGARE】が、目隠しに猿轡と耳栓をされた高貴の隣に座ると、【TATAKI】へ言った。

 慶介の遺体を乗せたバネットは、小田原との市境に向けて走って行った。





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