【SABAKI】
【SABAKI】
夏も八月に入り、連日、真夏日が続いた。コンクリートやアスファルトの照り返しで、表示されている三十一度と言う数字より、直に感じる気温の方が、数段高い感は否めなかった。
桜田門周辺は緑が多い事もあり、木々には蝉が夏の暑さを謳歌し、その蝉時雨が気温をさらに上乗せした。まさに『真夏』そのもが、桜田門に停滞していた。
生活安全部総務課長の、上神宮優代の後任となった多治見は、慣れない課長職に四苦八苦して、三日目で、辛うじて各係と上層部の緩衝材に馴染み初めていた。
【JITTE】から、板戸三代の調べの報告が来た。
《板戸慶介は、五年ほど前に、地元の名家のコネで無所属で出馬して、今は衆議院議員をしております。しかし若い頃は、実家が名家だと言う隠れ蓑を使い、裏で高利貸しをしていたようです。その他にも美女好きの強姦魔という噂も有りました。今は、盗撮を趣味にしているようです。
息子の良太ですが、私大の経済学部を卒業後、私塾を開いています。その際、進学校の高校教師だった友人を引き抜き、講師をさせています。一応はその者と共同経営という形にしていますが、経営権は全て良太が握っているようです。
個人的に興味を持った生徒へ、個人授業をしているようですが、連絡先を聞くと、夜中でも電話をしたり、授業中に身体を触ったりなどして、個人授業への評判は悪く、生徒数が著しく減っております。
次にその息子の高貴ですが、これはどうしようもない不良です。女より男が好きで、中学時代から友人を家に泊めては、悪戯を繰り返していたようです。また、睡眠薬を所持していて、気に入った男を見付けると飲ませて眠らせて、悪戯をした後、写真を撮り口封じに使用しています。
慶介と良太はもっと調べれば、色々と再犯の事実が取れると思います。調べますか?》
《悪いけど、二十二年位前の、慶介親子の事を調べてください。》
《お奉行はその頃から事件は起きていると?》
《ひょっとするともっと前から有るかもしれない》
《承知、急ぎ調べます。》
それから三日経った昼に、【JITTE】から追伸のメールが届いた。
《湘南市大瀬で起きた事件を、三十年ほど遡り検索しました。
新聞に載る事は殆ど無かったので、現地へ行き、地元での噂を集めました。その頃慶介は、ガラの悪い連中を集め、高利貸しをして荒稼ぎをしていた証拠は掴めました。
返済が出来なくなった者からは、両親や子供へ取り立て、独身や一人者には臓器などを売らせていたようです。当然、臓器を取られた者は死んでいるかと。また取り立ても酷く、自殺者も出していたようですが、残念ながら今の所、証拠は無く噂の域を出ません。
次に良太ですが、彼が高校三年の頃、隣町になりますが、二人の少女が相次いで失踪しており、現在も発見はされておりません。他は良太が高校から大学卒業までの間で、良太の仕業と言われる、痴漢や変質者の類は多く、話し半分にしましても、婦女暴行と未遂事件が三十件ほど、痴漢や下着泥棒等も多発していた様ですが、古い話しなので、良太の犯行を示す事はできませんでした。》
《ありがとう。私だけの判断では、三代は黒、軽くても流罪と言いたいが、一応、『評定所』に掛けて刑罰を図ります。【JITTE】は采配の準備を進めてください。》
《御意》
【JITTE】とのやり取りが済むと、多治見はそのままこの件を『評定所』に掛けた。二時間ほどで、『上様』から、四奉行と評定した返事が来た。
《もう少し、証拠固めが必要だと判断する。しかし我々は警察では無い。証拠は無くても、黒に近ければ仕置きは可能だ。黒に近づける為に、直接、咎人に聞くのが早そうだ。罪状は【SABAKI】に任せて良しとする》
その返事を受け取ったが、「困ったな。今回は【SABAKI】には任す事ができない。どうしたものかな」と呟いた。
多治見は素直に『上様』へ【SABAKI】の事を告げた。
《評定所としての下知は下った。あとは寺社奉行所内の問題。奉行自ら陣頭指揮を取り、今回の件を終らせなさい》
《御意》
「そうは言っても、今まで『お奉行』自ら出て来た事など、一度も無かった。【NAGARE】に頼むか」
多治見は【NAGARE】へ電話を掛けた。呼び出し音が三度聞こえた。
「【NAGARE】です。お急ぎで?」
「済まないね。今大丈夫かな?」
「はい。」
まず多治見は、五六を【SABAKI】にした事を詫びた。【NAGARE】が苦労して、陽の当る道を歩かせたのに、裏の世界へ引き込んだ事を詫びた。
「五六が選んだ事です。仲間を大事にする男ですから、私は新しい『お奉行』と【SABAKI】に就いてゆきますよ。」
「申し訳ない。」
「『お奉行』はそう簡単に謝ってはいけませんよ。もっと堂々としていていただかないと」
「わかりました。以降は気を付けます。」
落ち着いた所で、今回の仕置きと【SABAKI】の関係を話した。就任初の仕置きが、五六と関係が有ると聞いて、流石の【NAGARE】も頭を痛めた。
「まるで、『お奉行』が入った時の再来ですね。明日の朝まで時間をいただけませんか?」
「今回は長考も必要か」
「【TEGATA】がいてくれれば、『お奉行』の時のように、【SABAKI】抜きでも仕置きはできたかもしれません。が、【FUMI】では少し辛いかと思います。」
「『上様』は私に、陣頭指揮を取れと言われたが、【SABAKI】の面目も有るし」
「しかし、それ良いのではありませんか?」
「私が陣頭指揮を――」
「まだ私が入ったばかりの時でした。【SABAKI】が怪我で入院しましてね、采配の時に『お奉行』が来られました。」
「でも私の時には、『お奉行』は来られなかったよ」
「それは次々と問題が起きて――。そうですよ【TATAKI】の裏切りで、【SABAKI】が一人で決着を着けたではないですか。」
「そうだった。そのあと、相良達が殺されて――。僅か一年にも満たない話しなのに、遠い過去のようだ」
「斐川市の時みたいに、全員参加で采配なども、今回は【SABAKI】の勉強になって宜しいのでは?」
「【NAGARE】が居てくれて助かります。」
「弱気ですよ。」
「ありがとう。ではその様に采配を行うと、皆に通達します。」
「御意」
その後すぐに、寺社奉行所の仕置き組全員と【JITTE】と【MEBOSHI】、【FUMI】へ通達した。
《通達
今回、急ぎ仕置きを行う。今回は異質で、咎人を捕らえ自白の上で罪状を決める。新しい【SABAKI】の紹介も兼ねて、采配を行う。日時と場所は【JITTE】に一任する。》
翌日の昼過ぎに、【JITTE】から采配の日時と場所を知らせるメールが届いた。
《関係各位
神奈川県湘南市大瀬の采配日時について
明日八月八日午後十時、千駄ヶ谷郵便局界隈のマンション。マイハイム二○二号室にて行います。時間に遅れの無きよう。》
それを見て多治見は【SABAKI】へメールを送った。
《当日は代々木駅改札に午後九時四十分に来る事、顔を会わせても声を掛ける事はしない。何があっても他人を通す。私の百メートル後方を着いて来る様に。》
《承知しました》
当日、代々木駅のホームから降り改札を通ると、五六の姿を確認した。多治見はそのまま改札を出て、左に折れ歩き出す。途中、引込み線の踏切を渡る時、チラっと後ろを見て、五六が着いて来ているのを確認した。変則な五差路を渡り、五差路の中で一番狭い道を進む。やがて左手に銭湯のテントが見え、コインランドリーが辺りを明るく照らしていた。
「都心のこんな処に、まだ銭湯が残っているのか」と多治見は驚いた。
多治見はその向かい側にあるマンションへ入ると、狭い階段を登り、右手側の少し奥まった所に有るドアを軽くノックした。
ドアは静かに開けれら、多治見は中に入った。ほんの数分で、またドアはノックされた。
【MEBOSHI】が覗き窓から外を見る。振り向き驚いた顔を部屋の中の者達へ向けた。
「早く明けなさい」と多治見に言われ、【MEBOSHI】は黙ってドアを開けて招き入れた。
奥にある十畳ほどの部屋へ、多治見が五六を連れて入ると、床に座っていた全員が二人を見上げた。
「皆、ご苦労様。彼が【SABAKI】だ。」と皆に紹介した。
「始めまして、三四五六と書いて三四五六と言います。新参者ですので、色々と教えてください。」
挨拶が済み、部屋の中を見回すと、今度は五六が驚いた。五六の見覚えの有る顔が、並んで五六をじっと見ていた。
「もう気付いているようだが、一応、自己紹介を頼むよ」
「では私から」と白木が立ち上がり「【NAGARE】です。よろしく」と短く挨拶をした。続いて坊主頭の大きな男が立ち「【TATAKI】です。」と一言。次に「【ZANN】だ。よろしく」と座ったまま言った。最後に筋肉質の大男が立ち上がると、流石に威圧感があった。
「【ABURI】です。まだ入って半年程の新人です。よろしく」とオカマ口調の挨拶に、五六は少し間の抜けた顔になった。
「この四人が仕置組のメンバーだ。【SABAKI】の部下になる。」
「よろしくお願いします」と改めて挨拶をする。
「目明し組組頭の【JITTE】です。証拠探しや情報取りが主務ですが、采配の準備なども僕達の仕事です。こっちは副組頭の――」
「【MEBOSHI】です。よろしくお願いします。」
「そして」と多治見が目を向けると、「先手組組頭代理の【FUMI】です。仕置き後に、無事に自宅まで送り届けるのが主務です。他には獲物や遺留品の回収なども行います。」
「代理ですか?」
「分け合って、組頭は大怪我をして、今は入院中なんだ」と多治見が答えた。
「全員の自己紹介が済んだので采配を始める。今日は僕が変わりに進めるけど、本来、采配の進行は【SABAKI】が行う。いいね。」
「承知しました。」
「『御意』だ。」【ZANN】が睨みながら言う。
「いいかい。お奉行と上様に対しては、指示への返事は『御意』で連絡事項等は『承知』となる。僕達の間では、どちらも『承知』だよ。」と白木が言い直す。
「わかりました。ありがとうございます。」
「いちいち礼とか、返事はいらない。」とまた【ZANN】が絡む。
「【SABAKI】は僕達の御頭だ。部下にいちいち礼はいらないよ。」
「そこは少し違うな。」多治見が口を挟んだ。
「上下は有っても、礼節は必要だ。僕も今までそうして来た。」
「そうですが、本来は」
「【SABAKI】に任せる。ただあくまでも、君が頭で、皆を引っ張って行く事は忘れずに」
「御意」
「では本題に入るが、何か有るかな?」
多治見が一同を見回す。
【ZANN】が挙手した。
「【TEGATA】の具合を知りたい。」
皆が【FUMI】を見た。
「申し訳ありません。未だに心を閉ざしたままの様で、私にも会って貰えない状況です。」
「『葬』の仕事に支障を来たすようなら、引継ぎ無しで【FUMI】へ組頭を移行すべきだと思います。」
「【JITTE】の言う事はもっともだ。正しいと思う。一番付き合いが長いから言える事だと思うが――」
「私も【JITTE】と同じです。」と【NAGARE】が言う。
「ベテラン二人が同じ意見か。【SABAKI】、君はどう思う」
一同が五六を見やった。
「事情が判らないので、何とも言えませんが、恐らく、ボブカットの綺麗な方の事を話しているのかと思いますが――」
多治見意外、全員が驚き五六に見入った。
「以前、私のお店にラーメンを食べに来ていただいたかと、『お奉行』と【JITTE】がお二人で、その次に【FUMI】と多分【TEGATA】……。そして【TATAKI】が来て、【NAGARE】。最後に【ZANN】の順番だったと覚えていますよ。【MEBOSHI】は部屋を借りにきましたよね。」
「まさかオーダーまでは――」と【JITTE】が呟く。
「【TEGATA】と【FUMI】が油少な目で麺は普通、それと餃子のハーフで」
「わかった。もう良いから」慌てて言い出した【JITTE】が止めた。
「先程の話しにもどしますが、仲間の事を思うのであれば、【FUMI】に移行すべきだと思います。」
「新参者が!」
「【ZANN】!」多治見が叱咤した。
「いいか、【SABAKI】は仕置き組の頭だ。意見を言うのは良い。ぶつかるのも良い。だが今のような事は断じて許さない!」
多治見が仕置き組全員へ言った。
「【SABAKI】済みませんでした。良い過ぎました。」
【ZANN】が素直に謝った。
「いいえ。構いません。僕は知らない事が多すぎて、この場の雰囲気や皆の会話からしか、感情や思いを汲み取る事ができません。間違っているのであれば、はっきり言って貰った方が良いです。」
五六が寛大に対処した。それを見て「もう少し、時間をいただけませんでしょうか?」と【FUMI】が五六へ向け答えた。
「その時間は何の為の時間なのでしょうか?」
一同が五六を見る。
「【FUMI】に組頭としての責務が重くて、心の準備が必要だと言う時間ですか?それとも組頭の再起を待って全てを引き継ぐ為の時間ですか?」
【FUMI】が言いよどみ、その場の流れが止まった。
「後者に近いものです。」長考の末【FUMI】が答えた。
「前者ではないのですね。」五六が再度問う。
「はい。今まで培ってきた組頭の経験も、引き継ぎたいからです。だからと言って、今の私の力で、役不足だとは思っていません。」
【FUMI】が五六の目を真っ直ぐに見て答えた。
「わかりました。では、【TEGATA】が【FUMI】に引き継ぐまで待ちましょう。僕はそれで構いません。」
多治見と【NAGARE】が目を会わせ頷きあった。
「では【JITTE】。咎人の情報を」
多治見が采配に入るよう促すと、【MEBOSHI】が例のボードを引っ張り出してきた。
「お前は全然懲りていないようだな」
【ZANN】が【MEBOSHI】へ詰問した。
「前回【SABAKI】が見易いと仰ったので、一生懸命に作ったのですが……」
「これも有りか?」【ZANN】が【SABAKI】に問う。
「新参者としては有りですかね」と、自信無さげに多治見を見る。
「迷った時は皆で決める。それが社会標準だろ」
「では多数決をとりましょうか?」
「【SABAKI】もう良い。これでいこう」【ZANN】が折れた。
「良太と高貴の親子は、楽に尋問と拉致はできるだろう。問題は議員の慶介だな」
ホワイトボードに貼られた写真と経歴を見ながら、多治見が言った。
「そうですね。罷り間違っても衆議院議員ですからね。下手に拉致して騒がられると厄介ですね。」
【NAGARE】が答えた。
「でも女好きなんでしょ?なら私に任せてよ」【ABURI】が口を挟む。
「馬鹿な!お前はオカマだろうが!」
空かさず【ZANN】が突っ込んだ。
「あら、女よりオカマの方が好きかも知れないじゃない」
「お前の事が好きだというゲテモノ好きが、この世に何人いるのか知っているのか?」
「あら。あんたみたいな、女の皮を被った女狐は、皮を剥がされれば、捨てられるのが落ちじゃない」
いがみ合う二人を見て「いつもこうですか?」と五六が聞いた。
「少し前までは、もう少し静かだったよ」
「少し前ですか?」
「そう『お奉行』が入ってくる前まではね」と【JITTE】。
「僕が原因って言うのはおかしくないかな?」
「いいえ。少なくとも、こういった、いざこざはありませんでしたよ」
「みんな『お奉行』が好きなんですね」
その場にいた全員が五六を見た。
「僕もそうなりたいですね。」
「お前には無理だ」
「男なら何でも良いって訳じゃないのよ。」
「……」
五六を見て、三人が三様の返事をした。
「では納まった様なので、慶介をどうするか決めましょうか」
(やるね。君を選んで良かったよ)
「どうします?」と【FUMI】が聞く。
「拉致が難しいのなら、向うから来てもらえば良いのでは?」
「どうやって?」
「僕なら【ZANN】に任せますが――」と多治見を見る。
「なるほど。【ZANN】なら、何処にいても誘き出せば一瞬で済む。」
「承知した。慶介は私が仕留める」
「サポートをどうするか」
「『お奉行』、私が【ZANN】に付きます。【TATAKI】は【ABURI】のサポートを。最後に高貴を拉致するから、私が行くまで、【TATAKI】は先手組と待機だ。場合に寄っては、高貴を拉致した状態での待機も有る。良いね?」
「承知」
【TATAKI】と【FUMI】が答えた。
「では、慶介は【MEBOSHI】に任せる。明日から仕置きが済むまで、部下を二人ほど君に付ける。しっかり慶介に張り付いて、噂なり真実なり、収集に努める事」
仕置き組の担当が決まり【JITTE】が指示を出した。
「承知。」と嬉しそうに【MEBOSHI】は答えた。
「ところでサポートとは何でしょうか?」
「万が一、担当が仕置きを失敗した時に、代わりに仕置きをする為に、側近で待機している者の事だよ。正式には『張り番』と呼ぶらしいが、いつの間にか『サポート』と呼ばれるようになった。と『上様』から聞いた。」
「仕置きは、常に二人一組という事ですか?」
「組で仕置きをするわけでは無いから、少し違うかな。正と副。正は仕置きをする者、副はあくまでも保険だと思って欲しい。」
「御意」
「それじゃ私は良太かしら?」
二人の話しがひと段落したところで、【ABURI】が切り出した。
「そうですね。良太も【ABURI】になら、隠さず洗いざらい吐露でしょうね」
「ちょっと【SABAKI】。どう言う意味かしら」
「化け物怖さに、何でもしゃべるってことだ。」
「なにそれ」と目を大きく開けて【ZANN】を睨んだ。
「自宅の中なら、男でも女でもどちらでも構わない。【ABURI】の好きな方で吐かせて――全ての罪を吐かせて教えてください。」
「そうなると、『お奉行』と【SABAKI】はご一緒に居られた方が、『ご沙汰』を出し易いかと。」
「そうだな。」多治見が右手を顎に当てる仕草を見せた。
「『ご沙汰』とは?」五六は【NAGARE】へ問うた。
「『沙汰』とは罪状を決める事を言います。」
五六が頷くのを見て、多治見が続けた。
「しかしそうなると、【SABAKI】は刑場には行けないから、隣の小田原辺りで、皆が集めた情報を元に、僕の出した沙汰を、短時間で皆に知らせるようだな。特に、慶介が【ZANN】に手を出す前にしないとね」
「そうですね。【ZANN】が襲われる前に――」
「違うわよ。【ZANN】が慶介を殺しちゃう前に。よ」
多治見が笑って五六へ頷いた。
「でもどうして小田原なのですか?」
「別に東京でも良いよ。とにかく刑場から離れた所なら、何処でも構わない。」
「先程仰った、アリバイ作りですね?」
「あぁそうだ。【SABAKI】が疑われては困るからね。」
「では海老名では駄目ですか?」
「別に構わないが、何かあるのかい?」
「実は海老名駅から徒歩十五分の所に、十二坪程の物件が有るので、そこでラーメン屋をやろうかと思っています。」
「ほう海老名か。ラーメンを食べに行くにはちょっと遠いかな。」
「その時は、新宿の五六ラーメンを贔屓にしてください。」
「わかった。そうさせて貰うよ」
「では海老名駅で、指示を出すと言う事でよろしいですか?」
【FUMI】が皆を見回し聞いた。異議無しと雰囲気で読み、多治見と五六の待機場所が決まった。
「さっき【NAGARE】は、高貴を拉致すると言っていましたが、何か意味があるのでしょうか?」
休憩中に五六が、横に居る多治見に訊いた。
「慶介を【ZANN】が仕置きすると、良太は【ABURI】になる。【ABURI】はコードネームの通り、仕置きをする時に本来は火を使う。だから、【ABURI】の仕置きの邪魔にならないよう、良太と高貴が自宅に居た場合は、高貴を拉致して、良太から引き離す必要があるからだ」
「そうですか」少し考えて、「高貴も死罪であれば、火事を装って二人同時に仕置きできますが?」
「前にも話したと思うが、『葬』は生かすのが前提に有る。若者にはできれば、更生するチャンスを与えたい。」
「なるほど。では高貴は。流罪という事で進めますか?」
高貴の異常な性格と行動は、【JITTE】が集めた情報によると、良太が自宅で車庫へ車を入れているとき、妻の明子を誤って轢いてしまった事が発端になっていた。
妻を車で轢いて殺してしまったと慶介に連絡すると、選挙に出ている現状での、息子の妻殺しは、例え事故であっても致命的だとして、隠蔽を示唆した。
妻の明子は家出した事にしろと命令された良太は、昔、二人の女性を遺棄した秘密の場所へ埋めたとされる。
高貴は祖父と父親の、そんな陰湿な血を引き継いでいた。母親が失踪してから、高貴の生活と性格が大きく変わった。頻繁に学校を休む様になり、心配になって自宅を訪れた友人に、睡眠薬を飲ませて、裸にして悪戯をした。写真を撮り、何度も友人に悪戯を続けた。嫌がると、二人の淫行な動画を見せて脅した。やがて高貴の行動はエスカレートして、友人だけに留まらず、自分が可愛いと思った男を、自宅に連れ込み、同じ事をした。いつのまにか、睡眠薬が覚せい剤に変わり、男を自分の元から離さない様にもなっていた。
「何とか更生させてあげたいです」
珍しく【TATAKI】が自ら意見を言った。
「そうですね。」と五六が素直に、【TATAKI】の気持ちを受け取った。




