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SABAKI 第三部 継送  作者: 吉幸 晶
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露呈と襲名


       露呈と襲名



 五六(いつむ)の話しは気になったが、とりあえず空腹を満たすことを優先にした。

 いつものように、ラーメンへニンニクを大匙二杯入れて、大汗を掻いては汗を拭く、を繰り返し、美味そうに麺と具を平らげると、今度はスープに大匙二杯の酢を入れて飲み干した。

「美味い!最高だ!」といつも通り絶賛の言葉がでた。

 コップの水を飲み一息つくと、「それで、何が有った?」と改めて訊いた。


「武にこの店を任せるのは、この事とは関係無いんです。最初から何とかやって行ける様になったら、武に任せて、自分は違う場所へ移る気でいましたから。」

「わかった。」

「若い頃、ツッパっていたと前にお話ししましたが」

「覚えているよ。その話しの後で、両親は居ないと言っていたな」

 多治見が意地悪そうに五六を見た。

「すみません。」

「続けて」と先を促した。

「その頃の仲間は皆、結婚して家庭と家族を持って、一生懸命に生きています。先日、その一人から電話があって――」


 その電話の内容とは、友人の息子が帰って来ないと言った話しであった。勉強も良く出来て、明るく友達の多い子で、いじめにも屈せず、いじめられている子を守れる強い息子だと、友人は誇らしげに五六へ話した。その息子が、息子の友達からの相談を受けて、出掛けたきり戻らなくなったと心配して、昔、頼っていた五六へ連絡を取った。


 その息子が行ったという場所を聞くと、昔、五六が捕まった、乱闘の有った倉庫であった。五六は直感で、何か有ると判断して、急いでそこへ行き扉を蹴破り中へ入った。

 昔と変わらず、中は不良の溜まり場になっていて、友人の息子は暴行に暴行を重ねられ、親も見間違う程に、全身が紫色に腫れ上がり吐血していた。意識は無く辛うじて息をしている、見るも無残な有り様だった。

 五六は怒りに我を忘れ、中に居た不良共を一人で一掃した。当然、遅れて警察も介入したが、そこにいた不良達が、友人の息子に暴行したという証拠は取れず、喫煙と飲酒での補導という事で片がついたが、逆に五六が少年達への傷害と暴行で訴えられそうになった。しかし五六の仲間達が警察に事情を説明し、辛うじて五六は厳重注意で済んだ。

 後日、友人の息子が受けた暴行は、余所で受け倉庫へ置かれていただけと言うことで、犯人は不明のまま捜査も行き詰り、そのまま打ち切られた。しかし五六は、昔と同じ場所から、恐らく当時と同じで、板戸慶介が噛んでいるのでは無いかと疑いを持ち、独自で調べ始めた。

 結果、板戸慶介は、今は地元選出の衆議院議員をし、その息子の次男の良太は、塾を経営し自ら講師もしていた。表向きは犯罪とは無関係の様に見えたが、問題を起こした不良グループには、良太の息子で、不良のリーダーである、高貴(こうき)の存在があった。高貴は、伯父の慶一郎と同じく、影で悪さを働く陰湿で有名な悪党で、今回の件も、慶介が揉み消しに一枚噛んでいると五六は語った。


 五六の話しが終ると、二人は暫く無言であった。


「それで、その三代に渡る悪を根絶する気かい?」

 多治見が五六の腹を読んで訊いた。

「はい。」

「警察には?」

「多治見さんは別ですが、警察は証拠第一で、対応が遅すぎます。現に――」

「そうだね。恐らくその政治家の力が、少なからず揉み消しに作用している。」

「だから僕が一人でやるしかないんです。」

「どうして?」

「先程も話しましたが、皆には家族がいます。未婚なのは僕だけで、もう身寄りもないので、捕まっても誰にも迷惑は掛かりません。」

「それは、人を殺す理由にはならないな。」

「でも、放って置けば、何時か同じ事が起きます。」

「判っているよ。警察も当てにはならない。仲間の身を守る為だろうけど。ところで、何処の話しだい?」

「神奈川の湘南市です。」

「海岸線?」

「はい。漁港の近くの町で、今頃は海水浴客で繁盛しているかと」

「そこの膿を出して、綺麗にしようと?」

「そうです。」

 多治見は長考した。


 黙ったまま暫く動かず、何度も色々な方向から考え直し、やっと考えが纏まると、五六の目を真っ直ぐに見て言った。

「そういう、悪を葬る組織があるのを知っているかい?」

「葬る?」

「時代劇に有ったろ。お金を払うと、悪人を殺してくれる番組が」

「あー。有りましたね。でもあれって架空の殺し屋ですよね。いくら江戸時代とは言え、あんな簡単に出来るとは思えません」

「そうだな。」

「殺し屋自体は、現代でもいるかも知れないですが、実際に聞いた事はないですね。」

「その三代に及ぶ悪を葬ったら、存在を信じるかい?」

「それは困りますよ。」

「何故?」

「僕が()るからです」

「その組織の掟では、罪人と接点を持つ者は、殺しに参加できないんだ」

「それは納得が行きませんよ。この自分の手で、始末を着けなくてはならない事だってあります。」

「それは否めない。しかし組織と言ったろ。組織となると、一緒に動く仲間が存在する。その中で、殺意のある殺しは仲間を危険に晒す」

「確かにそうですね。自分の心がいなくなって、判断が狂って殺す事に専念する。まず周りは見えなくなります。」

「昔の経験かな?」

「はい。一緒に飛び込んだ仲間を順に逃がしながら、相手の力を少しずつ剥がしました。しかし自分に刃物が向けられ、切られた時は、怒りと恐怖で一杯になって――」

「それを回避する為の掟だよ」

「そうですね――。」

 今度は五六が長考した。

「でも多治見さん。どうしてそんな話しを?」

「五六だから信用して話すけど、その組織。葬ると書いて『(はぶり)』と言う。江戸時代から代々受け継がれていてね。殺人を繰り返したり、大量殺人を考えたりする者を、秘密裏に始末する組織なんだ。」

 五六が眉根を寄せて、疑いの目を多治見へ向けた。

「その組織の『(おさ)』の一人が僕だ。」

 驚きを隠せず、五六は目を見開き、口を大きく開けたまま、息や鼓動までも止まったかのように、身動きひとつしなかった。

 多治見は五六が戻って来るまで、じっと待った。

「ほん……本当の話しですか?」

 やっとの思いで言葉が出た。

「あぁ。本当の話しだ。」

「何時からですか?」

「組織に入ったのは昨年の十一月だ」

「奥さんとお嬢さんが――」

「あぁそうだ。犯人の菅谷は『葬』が始末した。僕は手を出すことすら出来なかった。」

「無念では?」

「無いと言ったら嘘に成る。しかし僕が菅谷を殺していたら、人殺しの連鎖は断ち切れなくなっていただろう。現に、菅谷の仲間の、離是流の残党が爆弾テロを計画して実行した。」

「その時も多治見さんは拉致されて」

「そうだね。でもあれは『葬』とは関係は無い。警視庁の刑事として動いたに過ぎない。」

「入って間もないのに『長』を?」

「僕の尊敬していた『長』が殺された。『長』は僕に後を託した。だから僕は継ぐ決心をした。でもその為には、僕の後継者が必要になる。」

「それで僕を?」

「済まない。殺し屋に入ってくれなど、五六にしては因果な事だろう。しかし、仲間の事を考える事ができなければ、僕の後継者には選べない。」

「仲間の事――ですか」

「そうだ。『長』になる前の僕には、四人の直属の部下がいて、二つの組の仲間がいる。その全てを守り、殺しや拉致を遂行しなくてはならない。」

「拉致?ですか」

「順番が逆になってしまったが、『葬』は殺し専門の殺し屋では無く、ある程度の時間、社会と隔離しながら再教育して、社会復帰できるようにするのが主な組織なんだ。しかし中には、どうしても殺人や破廉恥な事から抜け出せない者も出てくる。それを始末する。」

「何か難しそうですね。」

「時間があれば、詳しく説明できるけど」

 そう言いながら、勝手口を見る。

「判りました。僕に多治見さんの代わりが務まるかは判りませんが、狡賢い悪を放って置けませんから、頑張って勤めさせていただきます。」

「先に断って置くけど、僕達はヒーローではないよ。正義の味方なんてとんでもない。ただの殺人集団だという事を忘れないで欲しい。」

「はい。とにかく多治見さんに教わりながら、着いて行きます。」

「ありがとう。ではこれを渡す。」

 先ほど【HANZOU】から受け取った、スマホを取り出し五六に渡した。

「これは?」

「『葬』の連絡ツールだ。電源を入れて、網膜認証に登録すれば、『葬』のアプリが起動する。」

「凄いですね。スパイ映画みたいですよ。」

 そう言いながら起動させて、五六は網膜の登録を済ませた。すると画面の右上に【SABAKI】の文字が出た。

「五六のコードネームだ。」

「コードネーム。他の名は」

 【NAGARE】【ZANN】【TATAKI】【ABURI】の名が表示された。

「その四人が五六の直属の部下になる。隣の【JITTE】と【FUMI】は今度説明しよう。」

「わかりました。」

「これは五六以外の者が立ち上げると、中のデータやアプリだけでは無く、機器の内部までもが壊れて使えなくなるようにできている。くれぐれも取り扱いは慎重に頼むよ」

「わかりました。で、僕はどうすれば良いですか?」

「追って連絡する。それまで、二日程は武に秘伝の味と極秘の調理法を伝授していて良いよ。」

「わかりました。」


 多治見は店を出ると、『葬』のスマホを出して立ち上げた。コードネームが【SABAKI】から【JISYABUGYOU】に変わっていた。

 その他にも、【UESAMA】や【HANZOU】に【MACHIBUGYOU】【KANNJYOUBUGYOU】【SAKUJIBUGYOU】【FUSHINNBUGYOU】の四奉行のコードネームが追加されていた。

 早速『上様』からメールが届いた。


《大いに期待している》


《ご期待に添えるように、勤めさせていただきます》


 返信すると、四奉行と【HANZOU】からも、歓迎のメールが届いた。多治見はタクシーを捕まえると、自宅に着くまでに、それぞれに返信した。

 返信が終ると、重圧をやっと感じ始めた。

「何とか纏まるといいのだが――、いいや纏めなければならない。」

 腹を括ると【JITTE】へメールを出した。


《神奈川県湘南市大瀬の衆議院議員、板戸慶介とその息子の塾経営者の板戸良太、その息子大瀬高校一年の板戸高貴(こうき)を急ぎ洗ってください。》


《『お奉行』就任、おめでとうございます。三代の悪党ですね。急ぎ確認を取ります。》








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