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SABAKI 第三部 継送  作者: 吉幸 晶
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采配


       采配



「白木弁護士は、善波――、主犯へね。何とか思い留まって貰おうと説得をしたんだ。」

 多治見は、軟禁されていたあの時を思いだし、五六へ話した。

「そういう方だと思います。」

 五六も多治見の言う事を、強い意思で肯定した。

「僕に力が無いから、善波を死なしてしまったけど――」

「善波って、菅谷の仇討ちだったのですよね?」

「あぁ」五六の視線から目を逸らし、小さく呟いた。

「多治見さんは正直ですね。」

 横目で五六を睨んだ。

「多治見さんの奥さんとお嬢さんを殺した、菅谷は許せませんが、何となく善波を許しているように見えますよ」

「刑事になるかい?」

「僕はラーメン屋で充分です。」

「でも仲間の為なら――」

「そうですね。僕には家族がいない分、店の従業員やお客様、昔の仲間。そういった繋がりは大切ですから」

「若者の為に殺人を選んだ者を知っている」

 多治見は視線を宙に浮かせたまま言った。

「僕もそちら側に近い人間かもしれませんね」

「おいおい」

「でも本気ですよ。弱い者を救い生かす為なら、僕は――」

「刑事に物騒な事は言うなよ。逮捕するぞ」

 多治見は笑って席を立った。

「ところでいくらだい?」

「試食ですから今日は――」

「そうじゃなくて、販売価格だよ」

「五六ラーメンと同値で」

「わかった。今度は客として食べに来るよ」

「はい。お待ちしています。」

「今日はご馳走様」

 多治見は五六に見送られながら、駅へ向かった。


 五六の所で長居をしてしまった。すでに二十時を過ぎていた。

「まだ間に合うかな」

 念の為【TEGATA】と【JITTE】へ遅れる旨のメールを送信し、新宿駅から山手線に乗ると間もなく【TEGATA】から返信が来た。


《待っている間に夕食を取るので、時間を二十一時に変更します。》


《承知しました。僕は済ませたので、集合場所のマンションへ先に行っています。》


 多治見が采配の部屋に着くと、部屋の中に人の気配を感じた。そっとドアノブに手を伸ばし回した。ドアは音も無くわずかに開き、中の光が漏れ、多治見の腕を照らした。

「【SABAKI】ですか?」聞き覚えのある声にホッとして、ドアを開けて中へ入った。

「もう体の具合は良いのかい?」

 掛けた声の先に【FUMI】がいた。

「お陰様で。公私共に支障はありません」

「良かった」

「ご心配をお掛けいたしました。」

 【FUMI】は丁寧に頭を下げてお礼を言った。

「ところで今日は?」

【FUMI】の招きで奥にある居間に入ると訊いた。

「それは――」言い淀むと「やっとその気になったようだね。」と【TEGATA】が、実家に戻る事を決めたと悟った。


 玄関のドアが開き【JITTE】が姿を見せた。

「ご無沙汰しています。」

「こちらこそ、僕の都合に、合わせてくれていたようで」

「【SABAKI】か【NAGARE】が居なくては、采配になりませんからね」

「本当よね。目明し組と先手組だけでは、罪人の咎を調べるまでしか出来ないもの」

 【TEGATA】が玄関に鍵を掛けて入って来ながら、【JITTE】の話しを継いだ。

「済まなかった。」多治見は三人へ改めて詫びた。

「さぼっていた訳ではないわ」【TEGATA】が流した。

「では采配を始めます。先日送りましたメールを参照ください。」

「その前に、もう気付いていると思うけど――」

「この裁きが最後だね。」

「えぇ。『お奉行』からも了承してもらいました。この裁きが終ったら、正式に【FUMI】へ引継ぎをします。【FUMI】は先手組組頭の【TEGATA】を襲名します。」

「若輩者ですが、皆さんを全力で、安全に逃がすことに徹しますので、宜しくお願いいたします。」

「承知」と【JITTE】が答え、「最後の裁き、慎重に行いましょう」と多治見が続いた。

 誰も詳しい事は聞かなかった。それが『葬』を抜けてゆく者への暗黙の仕来りであった。


「ではメール文を中心に、詳細を加えながら説明に入ります。」

 【JITTE】が采配の開催を宣言して、文面に沿って説明を始めた。

「罪人の一人目、比々(ひびた)純一、二十四歳。現在はつくば市内の不動産店に勤務しています。そして二人目は西河内(さいごうち)明美。私大のつくば医療大学外科部に在籍の二十三歳。まぁ女医をめざす女子大生です。」

「そのくだり、必要?」と【TEGATA】が突っ込むが、【JITTE】は敢て触れずに先を進めた。

「二人は、元は加害者と被害者の関係でしたが、五年ほど前より、比々多が強姦した後、西河内が生きたまま、身体を切り刻み殺害する形に定着したようです。被害者は調査して二人の犯罪と判明している者が二名。その他つくば市内近郊含め、行方不明になっている女性十数人の中で、何人が二人の犠牲になっているかは、まだ掴めておりません。」

「五年間で二人だけとはあり得ないな。」

「そうね」【TEGATA】が眉根に皺を寄せて、スマホの画面を睨んでいる。

「情報では比々多の強姦癖は中学三年生の時に、受験のストレスから、近所の三歳の女児をいたずらした事で始まったようです。以後は小学生から中年女性まで見境無く襲い、ばれた時は、父親の力で示談にしています。また西河内の解剖癖は高校二年の時、西河内が一人でいると思い込み比々多が強姦しようとした時に、西河内に連れの友人が居ることに気付き、逃げて警察へ通報されないようにと、二人へ殺し合いをさせ、西河内は平然と友人を刺して殺した。その後比々多に友人の死体の前で強姦され。西河内はそれが元で、殺人後のセックスに極度の興奮を覚え、以来、西河内に強いストレスが有ると、生け贄を捧げる様に、比々多へ女を用意して強姦させて、西河内が切り刻み興奮の中に快楽を求めた様です。」

「異常な性癖だな。比々多も同じかい?」

「恐らく。切り刻んだ死体で興奮した西河内と、関係を持つのが良いみたいです。」

「まともでは無さそうね。」

「この二人の輸出は、日本の恥じになります。」

「【FUMI】の言う通りだ」

「二人は一度、警察に目を付けられましたが、西河内の父親がつくば医療大学の学長で、叔父は系列の大学病院で外科部長をしている事と、比々多の父親も地元で名家の有力者という事もあり、地元警察を力ずく、金ずくで黙らせた経緯が有ります。一週間後の六月二十九日、二人は海外留学と出張と言う事で、三年ほど渡米します。寄って前日までに仕置きを済ませる事が今回の全容です。」


 部屋の中に、しばしの沈黙があった。


「出国までの予定は?」多治見が問う。

「比々多は出国準備という事で、今日から有給休暇を取り、都心のホテルに滞在しています。」

「出国準備でホテル住い?普通は自宅でしょ」

「荷物は既に現地へ送っていて、二十七日に帰宅の予定で、翌日の二十八日、出国の前日は成田のホテルに泊まります。」

「隙だらけで()り易そうだな」

「はい。」【JITTE】が即答した。

「西河内は?」

「彼女は明後日、二十五日まで軽井沢の別荘です。その後自宅に戻り、二十八日には比々多と同じホテルに泊まる予定です。」

「どちらも遊び呆けて、人生の終局を満喫しているようだ」

「遠慮無く殺れるわね」

 【TEGATA】が憤慨しながら言う。

「どうします?」

「地元で仕置きをしようか」

「二十七日ですか?」

「そうだね。比々多は【ZANN】に任せる。サポートは【TATAKI】に付いてもらう。」

「自宅周辺と最寄り駅の防犯カメラの位置を確認します。」

 【TEGATA】が【FUMI】へ目配せした。【FUMI】は黙ってタブレットを操作し始めた。

「西河内は【ABURI】に任せる。」

「サポートは?」

「【ABURI】にとっては、正式なデビューだから僕が行くよ」

「【FUMI】」と声を掛ける。

「承知です。防犯カメラの確認と、それぞれの人員を急ぎます。」

「頼むわね」

「では僕の方では、罪人の当日の行動をもっと詳しく調べさせます。」

「次の采配は二十六日でいいかな?」

「承知」三人が声を合わせ応じた。

「では、采配の場所と時間の連絡を、仕置き組み全員へください。」

「【NAGARE】にもですか?」

「【ABURI】の正式なデビューだから、習い通りにオブザーバーを付ける。もう【NAGARE】しかいないからね。」

「承知しました。」

 一回目の采配は終った。各々は用心して部屋を出て帰路に着いた。


 三日後、先日と同じ部屋で二回目の采配が、多治見主体で行われた。

 出席者は目明し組組頭の【JITTE】。先手組組頭の【TEGATA】と副頭の【FUMI】。仕置き組みは五名全員が揃っていた。

「采配の前に、仕置き組のニューフェイスの【ABURI】です。仕置き組の中では、諸事情から初見は済んでいますが、【JITTE】と【TEGATA】には初見になるね。」

 多治見は全員が揃うと、そう切り出し【ABURI】を見て促した。

「【ABURI】です。こんなので御免なさい。でも一生懸命に勤めさせていただきます。」 

「私は先手組組頭の【TEGATA】。こっちは次期組頭の【FUMI】。よろしく」

「僕が目明し組組頭の【JITTE】です。」

「今回【NAGARE】には、【ABURI】が正式なデビューとなるので、オブザーバーとして【ABURI】の仕置きに立ち会って貰う。」

「承知」

「よろしくお願いします」

「期待しています。」

 多治見が二人のやり取りを見届け「本題に入ります」と話しを切り替えた。

「仕置きは、どちらも自宅にいる明日中に行う。刑場は自宅よりは外出先の方が有利だ。【JITTE】二人の明日の予定を」

「明日ですが、比々多の夕食は家族と外食になります。それ以外は特に予定は無く、自宅に居るかと思われます。また西河内ですが、どうやら昼前後は、つくば駅近くのショッピングモールで、翌日、着て行く服を母親と買いに出掛け、夕食はそのまま家族と外でとる予定です。」

「外食先は?」

「比々多は、自宅の最寄り駅になります、学園都市駅近くにあるステーキハウスに、十八時に予約を取っています。西河内はやはり自宅近くの創作洋食店に十八時半に予約を取りました。共に自家用車を使うと思われます。」

「西河内の自宅は?」

「洞峰公園から徒歩十分程の住宅街です」

「防犯カメラは?」【TEGATA】へ訊く。

「公園周辺は、気象研究所や宇宙航空研究所などが隣接している事も有り、結構多いのですが、西河内の自宅周辺の設置はありません。ただし西河内家自体には、道路に面したところに二台、玄関に一台のプライベートカメラが設置されています。これは、比々多家も同様です。」

「金持ちの上に名家ともなれば、当然でしょうね」

 【JITTE】が変に納得した。

「では比々多は【ZANN】に任せるよ。サポートは【TATAKI】だ。」

「承知。【TATAKI】お願いします」

 【ABURI】を除く全員が【ZANN】へ視線を向けた。

「何か?」

「よろしくお願いします」と【TATAKI】が慌てて返した。

「西河内は【ABURI】だ。良いね」

「承知。」

「サポートは僕が、それとさっき話した様に、【NAGARE】にオブザーバーを頼みます。」

「承知」

「では比々多だが、【ZANN】の策を聞こうか」

「ステーキハウスから出て来た所を、誘い出して仕置きする」

 多治見は無言で【TEGATA】を見た。

「防犯カメラは二箇所に設置されているわ。でも死角が有るので、そこであれば――」

「数秒も有れば充分。」

「判った。【FUMI】、カメラに映る駐車場を、比々多が来る前に押さえて」

「承知。二十台の車と、それに合った人員数を揃えます。」

「【ZANN】と【TATAKI】の逃走経路も確保忘れずに」

「承知。死角に二台停めて対応します。」

「『葬』で貸し切りかい?」【JITTE】が冷やかす様に言う。

「場合に寄ってはそれも有りかと」【FUMI】が真面目に答えた。

「次は西河内だが、【ABURI】の策は?」

「今回人目に付く火炙りは避ける。首の骨を折って終わりね。」

「賢明な判断だ。」【NAGARE】が呟く。

「刑場は?」【ZANN】が切り込んだ。

「どういったお店かしら?」

「つくば駅前のホテルの最上階にあるレストランです。駐車場は有りますが、シティ型ホテルですので、防犯カメラは多数設置されています。比々多の様に駐車場を刑場にするには適さないかと――。」

「それも好機ね。夜景の中でも、数秒の空白が有れば仕置きはできるわ。」

「あんたが罪人に付いて周ったら、警備員が集まるんじゃない?」

「【ZANN】。私が可愛くて、【SABAKI】との関係も深いからって、そんなに敵意を向けなくても良いんじゃないの?」

 【ABURI】が【ZANN】の売り言葉を買い、釣りを返した。

「何!」【ZANN】が腰を上げかけた。

「ちょっと!それどう言う意味!」

 【TEGATA】が立ち上がりかけた【ZANN】を押しのけ、【ABURI】に噛み付いた。

「落ち着きましょう。とにかく、一度深呼吸を――」

「五月蝿い!」

 止めに入った【JITTE】を、三人が同時に怒鳴り付けた。

「【SABAKI】!貴方にそんな趣味があったなんて知らなかったわ!【ABURI】と深い仲って本当なの!」

 【TEGATA】が多治見に向かって、凄い剣幕で言い放つ。

「そうですよ。【TEGATA】だから私は身を引いたのに――」

「ちょっと【FUMI】。今の一言、凄く気になるわ」

「あっ。いいえ。そっそう言う――意味では無くて」

「今は采配中だぞ!いい加減にしろ!」

 堪りかねて、珍しく【NAGARE】が怒鳴った。お陰で一同は、水を打ったように静まり返った。

「はっきり言っておくが、僕は喪中で、家内以外の女性や勿論、ハーフにも興味は無い。」

 それを聞いて【ABURI】は両肩を落とした。【TEGATA】も両手で顔を覆い下を向いた。【FUMI】は口を真一文字に結び天井をキョロキョロと見上げ、【ZANN】は一度髪を掬い、多治見を睨んだ。

「とにかく、采配を続けよう」

 多治見が仕切り直しで進めかけた。

「ここに上司がいなくて良かった」と、【NAGARE】が溜息と共に不安を漏らした。

「それ。どう言う意味?」

 【TEGATA】の異様に燃える視線と、多治見の引き攣った顔の、笑いの見えない視線が重なり、【NAGARE】を捕らえた。

「それって、入院中に付き添った女上司の事かしら?」

 【ABURI】が油を注いだ。

「病院は付き添い禁止って聞いていたけど。付き添った女がいたの?」

 変に落ち着き、静かに問う【TEGATA】の顔には、すでにあらゆる表情は消えていた。

「意外と女に持てているようだな」

 【ZANN】の多治見を睨む目が険しくなった。

「斐山で私の事を心配してくれたり、支えてくれたり。男性の優しさを始めて知りました。でも【TEGATA】の為にと身を引いたのに――」

「ちょっと待て!采配を――」

「その前に【SABAKI】の采配を先にしましょ」

 有無を言わせない【TEGATA】の一言で、本来の采配は完全に停止した。




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