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悪役令嬢の攻略本  作者: 丸晴eM
2/9

 "始まりのラストワルツ"

 私、セルディア・オーネットには使命がある。我が伯爵家の運命を担う大事な使命が。

それは学園生活の中で、恋をして、振られること。


「シャルはラストワルツを踊ったことがあるの?」

「ないよ。なんだかんだ皆にばれちゃうし、結ばれるしかないからねーこれ」


 お母様から託された、未来の予定が書かれた日記帳。終わりのページに"ラストワルツを踊らない"と記されている。

 明日から通うことになっているディンクス学園には

"舞踏会が終わった後、想い人と秘密の最後の一曲を踊った男女は幸せになれる"

というジンクスがあり、これをラストワルツを踊るというらしい。

 舞踏会は冬に行われ、スノーダストが光を反射して虹色に輝く様は最高にロマンティックだそうだ。

冬期休暇に入る直前に行われる為、ジンクスも相まって告白の場と化した会場ではカップル成立率が恐ろしく高い。ラストワルツに向けて仲を深めていき、最後に踊る場所を確保できるかどうかが鍵らしい。


 この学園に入学するほとんどの令嬢が憧れているジンクスだが、私には関係ない。私だって憧れがあるものの、身の破滅と天秤にかけられるはずがない。


「今年は誰か選んで踊るけどね。卒業までに決めないと親に勝手に決められちゃうしさ」


 教養と精霊魔法の知識を授けるディンクス学園は3年制で、14歳から入学できる。できるというか貴族の子供はほぼ強制入学だけど。ご縁を持ちたいご子息ご令嬢が在学の時期を狙えるかどうかから、既に色々始まっているといっても過言ではない。

 ジンクスを作り上げた王家が率先して愛のある家庭を築かれているので、この国は恋愛結婚推奨であり在学中にいい人にめぐり合えなかった場合にようやく親が口を出して婚約者を探すのである。


「一年目はあんまり気にしなくていいんじゃないかな?先輩狙いなら別だけどね」

「上級生と交流なんてほとんどないでしょう」

「貴族が通う学校だよ?縦の繋がりを持つ為の交流がないわけないじゃないか」


 今私の向かいで優雅に紅茶を飲んでいるのは、幼馴染のシャルヴァン・ミュアー。

柔らかいピンクブロンドと温和な雰囲気が天使のように可愛らしい華奢な美少年で、チェリーピンクの目は優しさに溢れている。こう見えて根回し上手な頼れる存在だったりする。

 母親同士仲がよく、小さい時からそこそこ交流がある。入学式を明日に控え、寮に引越してきた私の様子を見に来てくれたのだ。

 彼は今年で3年生。おそらく私よりもラストワルツに対して思うところがあるだろう。


「シャルは新入生も候補にいれてるのね。今までいいなと思った人はいなかったの?」

「遊んでいられるのも今のうちだから、そっちを優先で楽しんでただけだよ」

「皆もそうかしら?一年目で踊る人は少なかった?」

「いや、んー…でも半分ぐらいは踊ってたかな。ルディーも3年粘る?」


 悪戯っぽく冗談めかして言ってくるシャルヴァンに悪気はなさそうだが、それでもルディアは少しむっとした。卒業まで売れ残ると言われたみたいで傷ついたが、もしダンスに誘われたとしても踊れないのだからそうなる未来なのだろう。


「…私はずっと踊れないから」

「どうなるかなんて分からないでしょ。逆に誘われすぎて困ることになるかもよ」

「もしかして、シャルがそうだった?」

「さぁどうだろう。なんせ秘密だから!」

「さっき"皆にばれる"って言ってなかった?」

「あはは、だって何組踊ると思ってるの?本当にこっそり踊れる人なんかほぼいないよ」


 それでは、ほとんどの人がジンクスにあやかれていないことになる。できれば伏せていたい事実だ。


「心配しないで。いい人が見つからなかったら僕がダンスに誘うからさ」


 ぱちりと笑顔でウィンクを決める姿が様になっている。きっと他のご令嬢にも軽々しく約束しているのだろう。シャルは可愛い顔して女性のあしらい方が上手い。ぐだぐだ話しを引っ張る私の相手に飽きてきたのだろう。今も、別に最後のダンスに誘うとは言っていない。


「ありがとう、貴方がいてくれて心強いわ」


 そして私も、踊るとは言っていない。どうせ今日ここに来たのも親に言われたからだろうし、私たちの仲はそんなものだ。

 お母様からの日記帳の最初のページに、走り書きで書かれた5人の中にシャルの名前もあった。他のページの文字と比べて走り書きだったので、おそらくお母様がうっかり残してしまった文字だと思う。そしてその5人ともが丁度在校生。私はきっと、この5人の誰かに恋をする予定なのだろう。


 …案外冷たいところがあるし、シャルには恋はしないなと思う。友達としては、好きだけれど。


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